命の路線バス

灯火(とうか)@チーム海さん

本編



『次、止まります。バスをお降りの方は、バスが完全に止まってからご降車お願いします…』


  次は一本松。私は心の中で復唱する。

 軽快な効果音と共に、重厚な機械音を立て扉が開いた。私は、そんな音が嫌いだ。


╋╋╋╋╋


 今日は珍しく、親子連れがやってきた。


「よしよし、良い子ですよー。」


 泣き虫なのだろう。熱心に子供をあやしている。


「こんにちは。」

「あ、こんにちは。すみませんね、うるさくて。」

「いえいえ、大丈夫ですよ、子供の声なんて滅多に聞けるものではありません。」

「そうですか。」


 冷たい空気の車内を、少し温める子どもの声。


「お父さんは、どちらに?」

「いえ、あの人はまだなんです。」

「そうだったんですか…。出張にでも?」

「はい。運が良かったんです。」

「そうですね───。」



『次は、原爆ドーム。』


 車内が、粗いアナウンスで包まれた。一時の沈黙。


「人、多そうですね。」

「ああ、そろそろ満員ですよ。」


 ガタン。そろそろガタのくる車体は、一々騒がしい。乗車する人でバス停には列ができている。


 バスの中は、もう一杯だ。吊り革を争うほど、人で溢れている。


『次は終点、三途の川』


 命のバスには今日も、数多の魂が乗っている。


 彼らは皆、死した者たちである。


 合掌────。





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