親友はメタルボディとメモリの中

白神天稀

親友はメタルボディとメモリの中

 親友が新型ボディになって遊びに来た。



「リリカー! スターボックス飲みにいこ~!」


「その前にサイボーグ化したことをツッコませて」



 家に入ろうとしたら、門のところでサイボーグになったナナネがピースしてポーズを取ってた。



 静音パーツだからうるさくはないけど、微かにモーターの駆動音が聞こえる。


 本人はメイク感覚なのか、機械になった体を色んなポーズになってアピールしてた。



「えー今どき普通じゃなーい?」


「流行ってることと身内がそれやるのは話が別」


「でも最高に盛れてない? アームからボディにかけてのギアとピストン、ベアリングのディティールにワイヤーストローク!」


「あんたと違ってメカニカルに惹かれないの。部品も配線も剥き出しみたいでグロく見える」


「これだから! ちゃんと見せる用の部品だから!」


「普段から見せパン履いてるのと同じぐらい変わってると思うよ」



 聞くとボディは国産の純正製品で、CPUも次世代型のハイスペックモデル。顔はフルフェイスの高画質有機モニターだけど、わざわざドットの絵文字でしか表情出さない。


 去年までの主流モデルと違って制限がほぼなくて、人間体の時と変わらない動きができるっぽい。オイルの燃費も良いらしい。



「あとこれ見てードリンクホルダー! ペットボトルからオイル缶まで使える可変アーム付き!」


 それに要らない機能まで沢山付けたみたい。



「どーよ、ナナネちゃんマーク2初披露のご感想は!」


「なんで人間体準拠のアンドロイドボディにしなかったのか、甚だ疑問」


「今でも人間っぽい見た目のボディ好きな人多いよねー。トレンドはやっぱり、このゴテゴテメカニックスーツだって!」


「もう何周も巡ったのが流行ってるだけでしょ。タピオカもナタデココも七周ぐらいしてこの前またブームになってたし」


「女の子だってカッコ良い機体好きなの! それにクールでメタリックな体だからこそ、ちょっとした仕草の可愛さ引き立つじゃん?」


「知らないよ。一緒に高演算エンジンも積んでても良かったんじゃない?」



 どれだけハイスペックになっても、OSなかみはナナネのまま。絡み方も呆れるテンションの高さもアップデートされてない。



「ところでリリカは今日土曜なのに制服なんだね?」


「まあ、用事があったからね」


「どうする? 着替える?」


「このままで良い。今日は着替える気にならない」


「まさかの着替えキャンセル界隈?」


「誰だってそんな日の一日ぐらいあるでしょ。良いから行こ? 約束してたんだし」



 慣れない硬くて凹凸の多いアームを掴んで、ナナネを繁華街の方まで連れてった。


 新しいボディは気に入ったみたいで、スキップや短距ダッシュなんかして親友ははしゃいでた。



「とりあえず新ボディ記念にぃ、プリいっとくぅ~?」


「やる事が古いんだって。自撮りドローンでもスマート衛星のカメラでも良いでしょ?」


「リリカはすーぐ体内デバイスとかコンパクトなもの使いたがるんだから~」


「筐体はマニアしか使わないでしょ」


「『あの雰囲気が良い』って言って残ってるんだよ? 需要の多様化だよぉ」



 言っても聞かないのはいつものこと。わざわざ数百円使って一緒に写真を撮った。

 意味わからないぐらい私の目を大きくされた画像が、私のデバイス容量を圧迫する羽目になるまで。



 その足で元々の予定だったスタボに行って、ドリンクを二つ注文。

 ご機嫌だったナナネを見る店員の視線が痛くてちょっと気まずかった。



「それスタボの新作?」


「うん。月の真空栽培したカカオ使ってるんだって。味変わんないけど」


「良いな~飲みたいな~」


「そのボディじゃ、やっぱり普通の飲み物はいけないの?」


「ううん、食物消化機構は搭載してあるよ。今のこれはただのおねだり」


「なんだ、卑しいだけだった」



 私のカップを啜るナナネの方を交換しようとしたけど、生憎こっちは人間体用じゃなかった。



「けど自分はオイルドリンクなんだ」


「オイルって一括りにしないでよ。これは機体向け飲料油を特殊精製した液体がた――」


「要するに油じゃん」


「油ってなんかヤじゃん! 石油とか、サラダ油を直で飲んでるみたいで!」


「その価値観は分かんないわ」


「まったくぅ、ロボティックモラルの意識低い子なんだからあ」


「私の辞書プロトコルにはない項目だからね」



 結局私だけちょっと損して、カップは二つとも空になった。



「スタボも飲んだし、このまま二軒目のカフェ探さな~い?」


「まだ飲む気!? 今日は私あんまお金持って来てないよ」


「ダイジョウブだよ、今はお小遣いたっくさんあるから!」


「無駄遣いしておばさんに怒られたって知らないからね」



 無駄に機体性能を解放して、私が転びそうになるスピードでナナネは手を引いて歩道を走った。



 遊んでたらあっという間に日は落ちて、街もインフラはダークモードになる。

 横断歩道も建物の壁面もゲーミングカラーの光が走っては目を眩ませた。



「はぁー遊んだねー! こんなに思いっきり遊んだのっていつぶりだっけ?」


「もう数年は前じゃない? ナナネが入院してから減ったんだし」


「そうだよね。久しぶりすぎてちょっと疲れちゃった。体は機械だけど!」


「やるならちょっとはマシなロボジョークにしてよ」


「えっへへー、審査厳しいね」



 どっと疲れが押し寄せた。朝から制服着て式には出るし、終わったらナナネに連れられて遊び回って、疲労もキャッシュも溜まりまくり。

 でもお陰でちょっと気は紛れた。


 それでもまだ、親友の姿には慣れない。違う見た目なのに、中身が全く同じなのが余計混乱する。


 それ以上の思考は途中で強制終了させる。考えてもきっと、虚しいだけだったから。



「何見てるのー?」


「んー……なんでも」


「あ! まーた網膜ディスプレイで何か見てたでしょ~? 他の人が見えないからって失礼だよ?」


「ごめんって」



 ディスプレイに表示された画面を閉じて、涙腺をマイクロチップでシャットアウトする。引き攣ったみたいな顔してるの、ナナネにはバレてるかもだけど。


 さっき画面に映ってた広告のキャッチコピーがやたらと頭の中で響いてた。



 ――――――――――――――――――――――――――――


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 ――――――――――――――――――――――――――――



 私もこの前、身体制御デバイスを新調しておいて良かった。旧型は涙腺制御弱かったからすぐに壊れちゃったし。



「リリカ、どうかした?」


「いいや、何でもない。それより次、いつ遊べそう?」


「そうだねー……お母さんたちと過ごす予定もあるから、水曜日ぐらいになっちゃうかも?」


「分かった、予定空けておく」



 そのまま適当な挨拶をして、メタルボディの親友を見送った。

 ナナネがどのプランで契約したかは、怖くて聞かず仕舞いのまま。



「また来週、か……少なくともそれまでは、いるってことだよね」



 今日の式でおばさんに貰った、リリカの形見入りの手提げを揺らす。

 さっきより足の稼働が鈍くなったのは、今だけデバイス制御のせいにしたい。



 街では今日も、ロボットと歩く人たちが苦そうに笑ってた。

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親友はメタルボディとメモリの中 白神天稀 @Amaki666

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