「できない」ばかりの人生だけど

ハル

 

 実はエッセイというものを書くのは初めてなのですが、たまにはこうして気持ちを吐き出してみるのも、一種のデトックス効果があって悪くないかもしれない、また、カクヨムで交流してくださる方々のために、こういうものが一本あったほうがよいかもしれない、と思ったしだいです。

 テーマは、プロフィールにも書いてある私の精神疾患――不安障害のこと。

 学生時代に家族のことばをきっかけに発症して以来、もう長いお付き合いです。

 苦手なことはたくさんありますが、いちばんはディザスター(漢字を見るのも苦手なので、カタカナ語で書かせてください)と現代的な戦争にまつわること。あえて「現代的な」とつけたのは、ある程度の過去や宇宙での戦争ならだいじょうぶだからです。でなければ、『銀河英雄伝説』と『アルスラーン戦記』のファンだなんていうことはありえません!

 そのため、そういう話題が出てくること、そういう話題が出てくるおそれのあること、「これをしている最中に、ここにいるときにディザスターが起こったらたいへんだ」と思わせるようなことや場所も苦手です。


 ニュース。

 ディザスターあるいは現代的な戦争の描写が多い小説や映画等。

 知らないひと同士の会話。

 ひとごみ。

 海(海の近くも含む)。

 山(特に火山。火山の近くも含む)。

 遊園地やテーマパーク。

 遠出。

 旅行。


 実家にすら、何やかやと理由をつけて二年以上も帰っていません。

 ただ、そのときどきの、海外も含めたまわりの状況、精神状態、薬の種類や量、パートナーが一緒にいてくれるかどうかなどによって変わるので、いちがいに「これは絶対だいじょうぶ!」「これは絶対無理!」とは言えないのですが……。自分でも完全にはわからないというのが正直なところです。

 ニュースが苦手というのはけっこう厄介で、職場のパソコンのブラウザは、開いたらババッと下げてニュースが見えないようにし(そうしなくてもすむよう、自宅のパソコンのブラウザは必ずChromeにしています)、パソコンでTwitter(未だにXとは呼ばないのです)を開くときには「トレンド」欄を紙で隠し、コンビニの新聞置き場からは顔をそむけ、ラジオをかけている美容院では耳栓をし、音を出してテレビをつけている飲食店には入りません。

「逃げている」「自分勝手だ」と批判される方もいらっしゃると思いますし、私自身もそう思って罪悪感に駆られることも多いのですが、やはり怖いものは怖い。

 私にとって、たとえば新聞をじっくり読むことは、高所恐怖症の方が、いまにも倒壊しそうな高さ六百メートルの鉄塔に上るくらい怖いことなのです。……なお、これは「FALL/フォール」という傑作スリラー映画のネタです。

 もっとも、以前通っていた精神科のお医者さんの勧めで、あえて苦手なことに挑戦してみる曝露ばくろ療法というものを試してみたこともあるのです。見事に失敗しましたが……。

 大人になったらできることが増えると思っていたのに、年々できないことばかりが増える。

「やってられーん!」と叫びたくなることもしばしばです。

 イベント会場に行くことができず、十年以上も追いつづけていた大好きなアーティストさんに会うこともできなかったときには、さすがに猛烈に落ちこみました。その状況はいまもつづいていて、辛くてそのアーティストさんの音楽を聴くこともできなくなってしまった。

 また、同じくらい「やってられない」のは、大のサメ好きなのにアクアワールド茨城県大洗水族館(サメの飼育種類数が日本一の水族館)に行けないということです。こんな悲しい話があるでしょうか。

 アクアワールド茨城県大洗水族館だけではなく、水族館ってだいたい海の近くにあるので、なかなか行けないのです。私は生サメがたくさん見たいし、を直接見てお迎えしたいのに!

 このごろでは眠っていても不安障害で、遠くに行きたくても行けないとか、海の近くに行ってびくびくしているとかいう夢を見るありさま。潜在意識さん、もう少し好き勝手してくれていいんですよ? ……あれ、でも現実と同じということは、潜在意識ではなく顕在意識が見せている夢なのでしょうか?


 ――でも、それ以上に語りたいのは、だからこそ私にとって「カク」と「ヨム」(と『ミル』)がたいせつだということ。


 幼いころから本が大好きで寸暇を惜しんで読書をしていましたが、不安障害が悪化すればするほど本好きが加速。いまや『本好きの下剋上』の主人公、マイン(ローゼマイン)にだって負けない自信があります。

 だって、本――特に物語のなかでは、物語のなかでだけは、こんな私でも自由に羽ばたけるのですから。

 また、こちらもプロフィールに書いてあるとおり、私はLGBTQでもありますが、それゆえの孤独感や寂寥感も物語のなかでは忘れていられる。

 もちろん、カクヨムで活動を始めてからは、紙の本だけではなくウェブ小説も大好きに。いえ、それ以前もウェブ小説を読んでいなかったわけではないのですが、ジャンルが限定されていて……すみません、ちょっとここはツッコまないでください。

 ひとたび「ヨム」を始めるいなや、神獣の護る古代中国風の異世界にも、美少年ぞろいのイギリスの男子寮にも、強大な悪霊の取り憑く旧家のお屋敷にも、モンスターの跳梁跋扈する江戸の町にも、武士たちが策略をめぐらす平安末期の伊豆にも、私は飛ぶことができる。

 なお、上記の世界はいずれも、交流してくださっている推し作家様の御作――鐘古こよみ様の「兎国稗伝」、烏丸千弦様の「THE LAST TIME」、那智風太郎様の「嗚呼、我がオカ研の運命や如何に」、七倉イルカ様の「大江戸怪物合戦 ~禽獣人譜~」、四谷軒様の「笹竜胆(ささりんどう)咲く ~源頼朝、挙兵~」のものです。順番は作家様のお名前の五十音順にしました。

 そして「カク」を始めるやいなや、やけに設備の充実した龍宮にも、Z級サメ映画のなかのとんちんかんなアメリカにも、むかしむかしの中東風の異世界にも飛ぶことができる。

 だから、現実ではできないことばかりでも、「やっていける……いや、やってやろうじゃん!」と思えるのです。


 えっ、不安障害なのにホラーはだいじょうぶなのかって?

 なぜかそれとこれとは別で……むしろ、不安なときほど怖いホラーを求めがちです。ホラーでも、「ディザスターあるいは現代的な戦争の描写が多い」ものが苦手なことには変わりがないのですが、グロ耐性なら人一倍……いえ、人三十倍くらいはあります。

 いまでは、ホラーを読んだり観たりすると安心する境地にまで達してしまいました。はたから見れば、○○が××したり△△が□□したりしているシーンでにこにこしたり興奮したりしている私のほうが、よほど怖いと思います。

 でも、現実では指先を打って血がにじんできただけで気分が悪くなってしまう人畜無害な人間なんです。逃げないでください!

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