豆餅
金子よしふみ
第1話
四十になって帰郷したのは、父親の介護が必要になったからです。母はもう十年も前に亡くなっている。その頃の父は要介護三で杖をついて歩くようになっていた。集落の年中行事に父が出席するのでそこに付き添いで参加するような形だった。父が夜中に徘徊を始めたり、下の世話がままならなくなってきて、デイサービスだけでなく、施設のショートステイや一般入所も利用するようになっていた。季節関係なく施設の御厄介になるとすれば、集落の行事には私が名代としてでなければならない。お宮さんの春祭りの順次や実施、常会や周辺のゴミ拾い、正月準備などなど。
慣れない行事に見様見真似と、どうしたらいいのでしょうかと率直に質問したりしてどうにか対応していた。
年末だった。親戚が訪ねて来て餅を持ってきてくれた。普通の餅と豆餅があった。謝辞を告げ仏壇に供えた。それから年が明け、その餅を食べた。磯部巻きにしたり、そのまま食べたり。豆餅も美味しいとは感じた。けれど、なにか物足りない感じがした。
翌年正月二日近所のおばさんから餅をもらった。豆餅も入っていた。仏壇に供えて一日置いてから、豆餅を焼いた。美味しいと感じられたが、どこかしっくりこない感じがした。母が父と一緒に餅を作っていたのは、もうどれくらい前のことだろう。30年位前と数えられる。私は普通の餅の方が好みで海苔を巻いたり、醤油につけたりして食べるのがその頃は好きだった。豆餅なんてめったに食べなかった。それでもその時の味は下に残り続けていたのだろうか。
親戚からご近所からもらっても、どこか違和感を催してしまうのは、母の味とやらが知らずにこの舌に沁み込んでいたからだろう。そんなに食べなかった豆餅でさえ、私は母の味を他にはない味と思っていたのだろう。
豆餅 金子よしふみ @fmy-knk_03_21
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