後編「死者との戦い」


 俺は、頷いて体制を整え霊力を体にみなぎらせる。

 光り輝く白の光弾を発射、触手を攻撃しながら俺の光弾を蘭には当てないようにすかさず、触手の方へ軌道修正してくれる隊長、さすがだぜ。


 俺の技が触手に連続で直撃する。隊長は外側からの攻撃ではなく、高度な呪術系の技で触手の内側からダメージを与えて続けている。

 しかし、触手の野郎は怯むことなくふてぶてしくも、触手をうごめかせてらんを放そうとしない。


「ちくしょう! 触手野郎、蘭を放しやがれ」


竜胆りんどう、気持ちは分かるがあまり、熱くなるな。冷静さを欠けばそれだけ、敵に付け入る隙を与えるだけだ」


「分かってますよ、隊長。でも、許せないんだ!」


 奴は、触手を伸ばして俺達を攻撃してくる。

 隊長は、襲ってくる触手の右に避け、直接、真空の刃を叩き込み、ダメージを与える。


 それでも奴は一瞬怯むが、再び攻撃を繰り出してくる。

 その刹那、俺の足元から突如、触手が地面を突き破り、俺を吹っ飛ばした。

 鮮血が飛び散る。


「!」

「竜胆ッ!!」


 俺は地面に激突する所を寸での所で、隊長が能力で体を浮遊させ地に降ろした。

 しかし、俺は右半身にダメージを負ってその場で硬直して目を見開き、体が激痛と痺れで動けなくなってしまった。


「くっ、竜胆! 今、回復を!」


 俺は幼馴染の蘭も救えずにここで、死ぬのか……?

 そう思った時、触手から重々しい声が聴こえて来た。それは金属のようなキンキンと耳に響く、耳障りな音だった。


『聴こえるか、低能な生者共。これからわしは、霊力の高いこの娘を引き裂き、臓物を喰らってさらなるチカラを得る。この世にもっと、死者を蘇らせてこの世をわしの楽園とするのだ』


「何だと!? そんなことは許されないッ。しっかりしろ、竜胆」

 隊長が俺を回復能力で回復してくれているのが、肌で感じる。

 死者の言葉に俺のはらわたは煮えくり返る思いがしていた。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 俺の心臓が強く脈を打つ、なぜか不思議と目が開けられなくても直接、見ているように状況が手に取るように解かる。

 うごめく死者達、そして隊長が一人で俺を回復しながら、死者と触手野郎を相手している。


 触手野郎が蘭の体に力を込めた。


「キャアアッ!」蘭が悲痛に叫び声をあげる。


 さすがの隊長も、俺の回復と死者達の相手をしていて、なかなか触手に決め手の技を放つことが出来ない。隊長も体力と霊力を大きく消耗し始めてる。このままじゃ、蘭と隊長が殺される!


 隊長、俺はどうでもいいから蘭を! ちくしょう、俺はなんて情けないんだ!

 声と状況が脳内に流れて来る、俺の心臓の鼓動が次第に速まる。

 ちくしょう! 許さない、許さない! 許さないッッ!!


 ドクンッ! 俺の心臓の音は一気に跳ね上がった。


 ゆらりと起き上がる俺、隊長が俺を凝視ぎょうしして驚愕しているのが分かる。


 夢遊病者のようにふらふらと体を揺らめかせながら、次の瞬間、竜胆来也りんどうらいやは一瞬にしてその場から消え、触手の死者のすぐ横に現れた。


「――もう、お前は消えろ」


『なに?』


 触手の死者の言葉が終わるか、終わらないかのうちに竜胆が片手を突き出した瞬間に触手は光に包まれそして、とどろく破裂音と共に一気に破裂させられ果てた。

 蘭が解放され、地面に激突しようとする。

 竜胆は蘭の真下に素早く移動して受け止めた。


「来也……? なんで」


 蘭が嬉し涙をあふれさせて見つめる。竜胆も蘭を見つめるとそのまま、蘭と一緒に気を失った。


 触手の死者に蘇らせられ、操られていた死者達は正気に戻り、次々とあの世へと帰って行った。


 佐渡さどが二人の元に駆けよって来る。竜胆の潜在能力に驚きながらも。「驚いた。これからの成長が楽しみだ」と微笑み、二人を駆け付けた隊の救護きゅうごはんに任せて、無数の死者達が昇って行く青空を見上げた。


 -終わり-



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黄泉返り~俺らは月詠隊~ 夢月みつき @ca8000k

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