第11話 一時間前


「ま、待ってくれアーク君。」


 部屋を出ていこうとする雷神を焦ったように呼び止めるのは当然会長だった。


 超越者が世界の中で12人しかいないのは周知の事実とされているが、その中でも最大人数を一国に抱えている日本は世界最強の国家だと思われている。

 ただ、実際のところは早く動けるだけで武術など欠片もやったことのない『雷神』と、戦闘力がほぼ皆無の『不死』。それに加えて完全魔法型の『氷城』と近接戦だけで言えば相性のいいS級探索者で勝てる程度の強さしかない。


 そのような危ういバランスを持つ日本に襲来してくるのが近接戦最強と呼ばれている『暴君』なのだ。

 文字通りの最強だ。たった一度の攻撃だけで島一つを崩壊させたその力は、比類なき最強の力。


 日本唯一近接戦で最低限の足止めが出来る『雷神』が戦争に参加しないのであれば、勝算は著しく下がるだろう。


「元々そういう契約だろう。」


 雷神は会長と僕の方に視線を向けてそう言った。

 詳しい話は聞いていないが、雷神がこの国に居るための契約を元からしていたのかもしれない。


「大体、俺の代わりは都合よく現れてくれたんだ。そっちに期待した方がいいんじゃないか?」


 雷神はそう言って部屋を後にした。


「チッ、この国がどうなってもいいってのかよ」

「……」


 部屋の扉の前を待機している職員が小言を言ったが、反応すらせず雷神は協会を出て行った。


毛利もうりさん! あんな腰抜けの代わりに俺らが出ます!」

「駄目だ、あれの相手は同じ超越者でないと足止めすらできない。それはお前たちも分かってるはずだ。」


 部屋に入ってきた職員はそんなことを言って会長に詰め寄っている。

 てっきり職員だと思っていたが、この会議に口を出してくるのであれば超越者より一つ下だと言われているS級探索者なんだろう。

 まだ人数が集まっていないのか、三人しかいないS級探索者たちは愛国心溢れる青年たちと形容すればいいのか、しきりに自分たちなら出来ると主張している。


 それが自分の力に対する自負と本物の愛国心なのか、それとも自分の力に対する過信と自己顕示欲なのか。どちらにせよ、僕にとっては関係ないか。


「まぁそんな心配しないでよ。僕が『暴君』の相手をするからさ」


 お前のせいで起きた問題じゃないのかと言いたげな顔をしているS級探索者たち。

 間違いなくマッチポンプであり、その通りだけど僕の都合に振り回されてしまってる方が悪いし、『暴君』の相手を僕以外では出来ないから仕方なくやるというのは間違いではない。


「……そうか、ロキ君は『暴君』をどこまで抑え込める?」


 責任の追及が意味がないことも、他の選択肢がないことも分かっている会長は無駄な話をすることなくその提案を飲むことにしたようだ。


「やろうと思えば何でも出来るさ」

「……分かった。ロキ君に『暴君』の対応を全て任せよう。『催眠』を筆頭に他の超越者たちの対応はこちらでしよう。」


 大した労力も無く僕のシナリオ通りに事が進んでいる。

 ただ、この場でするべきことは最後に一つだけ残っている。

 2人目の新しい超越者の紹介だ。


「そのことだけど、『氷城』の天地さんに連れて行ってもらいたい人が居るんだよね。」


 席から立ちあがり、何やら慌てている沙羅ねぇを強引に僕の座っていた席に座らせる。


「新しい超越者の一人で、僕より召喚術が凄い人。名前は月島つきしま沙羅さら。足手まといにはならないはずだから連れて行ってもらってもいいかな?」


 会長ではなく『氷城』に直接そう聞いてみると、さすがに驚いたように目を丸くするものの、彼女も強さを見る目はあるようで文句も無く頷いていた。


 『暴君』担当になる僕はそれ以降何をするでもなく会議室で待っていた。

 会長は何か仕事があるようでS級探索者たちと一緒に部屋を出て行ってしまった。

 『氷城』は沙羅ねぇと挨拶をしていたり、『不死』は何もやることがないのかスマホをいじりだしていた。


 その時、僕のスマホが鳴りだした。

 電話に出ると、スマホ越しに聞こえたのは少し前にこの部屋を出て行った超越者の声。


『――イギリスの『錬金術』と『魔物使い』が動き出した。既に日本に向かって海から空から大量のモンスターの輸送が開始されている。』


 あえてスピーカーにして通話を開始すると開口一番にその情報が落とされた。


 その声には全員驚いていたが、それを忘れるほどの情報の爆弾だった。


「ありがとうデインさん。他に何かある?」


 全員が無言でこちらを見ている光景が少し面白く感じながら僕は通話の相手に返事をする。


『ない。ああ、一応確認できる数だけで言えば魔物の数は既に10万は越えている。明らかな物量作戦だ。』


「そっか、一応後で会長さんにも伝えておいてもらえる?」


『お前の方が暇だろう俺は今忙しいんだ。』


「いやぁ、連絡先知らないしどこ行ったのかも知らないから。」


 そうこう話しているうちに再起動した『氷城』さんが話に加わってきた。


「そう言うことでしたら私からお伝えします。」


『『氷城』か? これスピーカーになってるのか、まぁなんでもいい。また何かあったら連絡する。』


 何故『雷神』からの情報が直接僕に情報が渡っているのか分かっていない『氷城』と『不死』と何故か関係を知っているのに一緒になって驚いた顔をしている沙羅ねぇ。


「『暴君』と『催眠』だけでも大変なのに『魔物使い』と『錬金術』ですか!!」


 何か過剰に驚いている沙羅ねぇに僕は呆れたように返した。


「何言ってるのさ、『魔物使い』と『錬金術』は一番相性がいい沙羅ねぇが相手してもらうからね」

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