第10話 準備


 再び動き出した会長の動きは迅速だった。


 政府や協会の重役への情報共有に始まり、どんな手段か超越者への連絡等々。

 慌ただしく動く会長と秘書のように手伝う氷城さんを眺めながら僕はのんびりイチゴオレを飲んでいた。


 僕のその間に月島さんを呼び出したり、少しだけやることをやって残りの時間は寛いでいた。

 会長も氷城さんもこちらに気を配る様子も見られないが、協会の職員は緊急事態に子供が寛いでいるのが気にかかるのか、視線がちらほら向けられている。


 嫌味の一つや二つくらい飛んでくるのかと思っていたが、会長が一喝して嫌な視線は消えてしまった。

 ……ここで嫌味を言われていれば相手の非を認めさせることが出来たが、そんな単純なミスをするような人物はダンジョン協会のトップにはなれないのだろう。


 一時間ほどが経った。


 呼ばれることを予想して待機していたらしい月島さんは直ぐに到着し、会長に呼び出された人物たちも集まっていた。


 その身一つで島を消滅させる《暴君》が襲来する事態。

 そこで必要なのは重役たちの会議や政府への連絡ではない。


 世界最強と呼ばれる超越者の相手が出来るのは同じ超越者だけ。

 会長に即座にこの会議室へ呼び出されたのはこの国に居る超越者たち。


 一人目は今日僕をここに連れてきた《氷城》の天地恋歌あまちれんか。現在は会長の補佐を止め、《暴君》の捕捉をしているのか目を閉じたまま動くことはない。

 その容姿はだれが見ても義務教育を終えていない年齢にしか見えないが、外見に見合わない品のある言動と落ち着いた所作をしているため、現実のものとは思えない不思議な何かを感じさせる。


 二人目は以前契約をするために会った《雷神》デイン・アーク。

 体調不良を疑うほどに青白い肌はその実外に出ていないだけだ。外国の血を伺わせる顔つきは現在仏頂面をしたまま固定されている。

 その顔は彼の娘のイリスに『お父さんきらいっ!』と言われた時の顔と同じように見える。僕の芸能事務所でデビューしたいというイリスのわがままを言い出したんだったっけ。


 三人目は初めて会う人物で《不死》と呼ばれる最後の超越者。

 その容貌はどこにでもいる地味目の女子高生。ダンジョン協会に来るのに学生服を着て部屋に入ってきた彼女はやたらとこちらに視線を向けてくるが、特に何か話しかけてくるわけではないようだ。


 最後に僕の隣の席に着いた月島さん。

 僕と同じく世界に知られていない秘密兵器の超越者だ。緊張なのかそわそわと《不死》と同じようにきょろきょろと辺りを見渡しては僕に助けを求めるような目を送ってくる。

 助けるにしても何をすればいいのかも分からないので無視をした。


 表向きは三人。実際のところは五人の超越者が集まった会議室で会長は僕が呼んだ月島さんに疑わしい目で見ながら話を始めた。


「天地君がアメリカ所属の《暴君》の襲来を察知した。」


 当人の認識としては世界大戦の始まりのようなものだろう。

 その認識はきっと間違ってはいない。日本に居る超越者の能力やその程度はある程度世界にバレている。


 《雷神》は《暴君》の攻撃を避けることは出来ても決定打を与えることは出来ない。

 《不死》もその能力としては本人が”死なない”ことに特化していて戦闘が得意なわけではない。

 そして最後の《氷城》も戦闘スタイルとしては見た目から分かる通り近接戦は出来ない徹底的な魔術師タイプだ。


 物理最強と言われている《暴君》を相手にすれば日本の超越者たちは負けることはなくとも勝つことはないだろう。

 さらに今回は発端である《催眠》のコルト・ホークの行動が未だに不明だ。

 あるいは他の国の超越者を連れてくるのか、《暴君》の戦闘に紛れてこちらの超越者を洗脳するつもりなのか全く分かっていない。


 話を聞いているのかいないのか、《氷城》は目を閉じたまま動かず、《雷神》は組んだ腕を解かずに、静観の構えをしている。

 唯一まともに反応を返した《不死》は、驚いたように目を見開き、気が弱いのかビクビクと震えているように見える。


「君たちはこの国の最高戦力だ。情けない話だが日本の軍も、ダンジョン協会も、君たち抜きでは本気で暴れる《暴君》を抑えることは出来ないだろう。」


 命令も要請をしないが、その言葉と顔には期待の色があった。


「君たちがどう動くのかを教えて欲しい。もし、《暴君》やその他の超越者を相手にするのであれば協力を惜しむつもりはない。」


 圧倒的な力を持つ超越者に対して言外に協力を仰ぐその姿を情けないととるのか、それとも立派だと見るか。

 僕は後者だと感じた。


 きっと、この人は超越者のうち誰も参加せずともどうにかするつもりだろう。この待っている一時間の間、その仕事を見ている僕にはそう感じられた。


「そうか、それなら俺は帰る。後は好きにしろ。」


 そう、返事をして立ち上がったのは《雷神》だった。

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