帰り道の一幕

たたみや

第1話

「くがっち、今日の晩御飯どうする?」

「どうしようかなー?」

 結成から事務所入りを果たし、ライブにも精力的に出ていたシタミデミタシ。

 悟とくがっちが事務所から自宅に帰る途中、話をしながら帰っていた。

 そんな時に、帰り道に居酒屋が立ち並ぶエリアが目についた。

「帰り道にある居酒屋って寄りたくなるよね」

「ああ、そうだよな。俺もたまに吸い寄せられそうになるなあ」

「いらっしゃいませー。ようこそ、居酒屋『のらりくらり』へ」

「何なんだよその店の名前! 聞いてて心配になるぞ」

「コロナが流行った時期は補助金漬けでした」

「だろうね。そんな気がしたわ」

「コロナが明けてから補助金とおさらばだったんで、集客やメニュー色々と力を入れましてねえ」

「へえー、集客どうしたんすか?」

「毎月定期的に童貞のお客さんは半額にしました」

「思いきり過ぎるだろそれ!」

「当たり前でしょ! 牛角が女性半額にしたんですよ!」

「なんでケンカ腰なんだよ! それにしても、たった1店舗で立ち向かうのは勇者だなあ」

「そして、その童貞サービスを活かして女の子を飲みに誘って欲しいですよね」

「それが出来る奴はそもそも童貞すぐに卒業するよ」

「あと、うちはフグの唐揚げ出しますね。ぼくがフグの調理免許持ってるんで」

「さらっと言ったけど話変わり過ぎでしょ。マジすか、それはすごいですね」

「あの岡本太郎さんも言ってますからね、『自分の中に毒を持て』ってね」

「あれフグのことじゃねえんだよ! 人に対して書いてる本だからな!」

「後は『芸術は肝臓だ』とも言ってますよね」

「『爆発だ』ね。またフグのことか? 肝美味しいけどさ」

「芸術作品も居酒屋も生活に彩を与えているお仕事ですから」

「絶対上手いこと言った気になってるだろ」

「あとはですねー、お酒に合うレシピの開発に力を注ぎましたね」

「おお、それはすごいですね。どんなんですか?」

「お酒に合うカシスオレンジ!」

「ちゃんぽんじゃねえか!」

「お酒に合うカルアミルク!」

「ちゃんぽんじゃねえか!」

「お酒に合うサングリア!」

「だからちゃんぽんだっつってんだろ! お酒に合うつまみとか考えるんだろ普通!」

「ご心配下さい」

「心配しなきゃいけないの?」

「きちんとメニューは考えていますので。ハリボー、果汁グミ、ピュレグミ、忍者めし、カンデミーナによるグミ5種盛りです」

「何でそうなるんだよ! お酒飲ませる気ねえだろ!」

「あとうちは一夜干しに力を入れてますね」

「一夜干しいいじゃん! あれはお酒が進むよ」

「フーセンガムの一夜干しでして」

「どうなるんだよあれを一夜干してなあ! 大して何も変わんねえだろ!」

「まんまるの奴ねまんまるの奴」

「うるせえなあ!」

「まあ、世の中には変わらない方がいいものもたくさんありますからね」

「流石にそのメニューは変えろよ! もういいぜ、どうもありがとうございました」

 何故か道中でヒートアップする悟とくがっち。

 漫才のことになると周りが見えなくなるほどに夢中になってしまうのだろう。

「くがっち」

「どうしたのさとる?」

「家に帰ったらネタ作りするからな」

「はーい」

 こうして悟とくがっちはまっすぐ家に帰ることを決めた。

 食事のことをすっかり忘れていることに二人は気づいていない。

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帰り道の一幕 たたみや @tatamiya77

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