第3話 アーサー・ロックの腹の中
「まあ未成年者淫行で捕まるのは女の方だろうって言うのがちょっと解せないところだけれどねー。あー町中華久しぶりでおいしい。ロンドンのチャイナタウンとはやっぱり違うよ。日本人の舌に合ってる」
言いながらエビチリを食べるリリィと、おそらく一時間ぶり二杯目のラーメンを食っているアーサーを向かいに、俺と八月朔日夜桜は餃子定食を食べる。口が臭くなるが好きなのだ、事件は終わっているのだし、いいだろう。
しかし何をしても許されると思っていた子供の全能感というのはすごいな。俺なら財布から金をくすねた時点で銀行口座を凍結し、アルバイトさせるところだが。三十近いが恋愛はほぼしたことのない俺には子供のことなんて考えられないのが本当のところか。八月朔日はどうだろう。ちらりと隣を見るとはふ、あふっとジャンボ餃子に口をやられていた。黙って水を差しだすと、ごくごく飲む。
こいつの家族はどんなものなんだろうな、なんて興味がわいた。双子の姉の葉桜と、弟が二人と聞いている。姉も一人だか二人だか。多分その辺りが、こいつらの動機なのだろうと思っている。適当に。って餃子熱いな。ふーふーしていると、諏佐ちんかわいー、とチャーハンのエビを幸せそうに食べているリリィに言われる。
好きなものは好きなのだ。熱くても冷たくても。そういえばエビチリは日本発祥の中華料理だと聞いたことがあるが、どうなのだろう。甲殻類アレルギーがなくて良かったと常々思う程度にはエビ好きな俺は思う。餃子を食いつつ。あつっ。水っ。
「まああんまり後味のいいものできなかったけれど、俺たちのおかげでいつも通りスピード解決してよかったでしょう? 諏佐刑事」
「まあな……だがここの料金は経費で落とさんぞ」
「えっひどい……俺たち痛い腰を我慢して飛行機ですっ飛んできたのに。リリィが昨日あんなに求めるから」
「声を潜めろ、せめて!」
まったく、日本の警察としては名探偵といううさん臭いものに頼らなければならないのが痛いところだが、こいつらは一等だ。一等に、質が悪い。まあ良い。捜査協力は有難いものだからな。俺も他に探偵を使うことはあるし。
「諏佐警視、餃子一個くれるかい?」
「お前の腹はどうなってる。ラーメンだけで持て余さないか」
「だから味変だよ。いただきまーす」
「あー」
どこまで入る腹なんだか。こいつの堪忍袋の緒が切れるというのは見たことがないな、思いながら俺は最後の餃子を食べた。
諏佐刑事の災難 ぜろ @illness24
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