悪役令嬢に転生したので、国外追放回避の為ヒロインに優しく接したいが、ヒロインが鈍臭くてボケボケなので厳しく接してツッコミまくっていたら、案の定卒業パーティーで婚約者である王子から断罪されている最中です

もんちゃん

1話目(完結)

「我が婚約者クリスティアよ。そなたは彼女セレナーデに対して、強い口調で詰問したり、あまつさえ暴力を振るったこと、我は見ておる!其方には何も言い逃れはできまい!」


はぁ、やっぱりこうなったか・・・


いや、確かに私はセレナーデさんに対して、厳しく指導したり、頭を引っ叩いたりしたわよ。

そう、一見するとゲームのストーリー通りに悪役令嬢がヒロインをいじめるが如くに。

ちなみに、このゲームではヒロインは無事に王子様と結ばれて幸せに暮らしましたとさ。


でも、セレナーデさんは、ほんとーーーーーーーに鈍臭くてボケボケなんですよ。

私だって、国外追放に繋がるってわかっていましたから、めっちゃ優しく接してあげたいって思っていたのですが、いかんせんこれじゃ無理無理。


これでも国の貴族トップ公爵家の令嬢である私はクラスで委員長的な立場にも立っていましたから、平民であり他国出身のセレナーデさんには、国の作法や貴族との接し方から授業のわからないところまで、あれこれと教えてあげないといけませんでした。

セレナーデさん自身も流石ヒロイン、サスヒロってくらい良い人で私も大好きなのですが、いかんせん鈍臭い。

1を教えて0.1を知るかの如く、優しく丁寧に教えていましたら翌日には頭の中から綺麗サッパリと消えてしまっているのですよ。

そんなことを繰り返していれば、いくら私だってどんどんキツくなってしまうのは仕方ないじゃない!


そんな状態じゃ、卒業パーティーにセレナーデさんが参加することは出来ずに、今頃落第ですわよ!

公爵令嬢の私がいるクラスから落第なんて出したら、公爵家の沽券にかかわりますわ!


それに、セレナーデさん自身も優しく教えるよりも、キツめに教えてあげた方が物覚えが良いらしくて、私もついつい調子に乗って説教臭くなっていたのは認めましょう。

私がキツイ口調で責め立てると恍惚とした表情をしていたのは非常に気になりますが・・・


あぁ〜、こんなことなら、王子の目がある時は優しく接するべきだったか。

少なくとも、目に見える範囲でそれっぽくしておけば、この断罪劇は回避できたか?

いやでも、どうせ裏でセレナーデさんに厳しく接していたら、それを見つけた王子の子飼いが告げ口していたんだろうな。


そう、私の目の前には王子とセレナーデさん以外にも王子の子飼いというか金魚のフンというか、うじゃうじゃいるのである。

しかも、自国の王子であるから、数もめっちゃ多い。

学園内では何処でも王子の目があると言って良いだろう。

そりゃ、公爵家が王子とくっついてしまえば、自分達に回ってくる甘い蜜が減ってしまうだろうし、引き離し工作も必死である。

上手く私が国外追放になれば、公爵家の権威は失墜。

そこからこぼれ落ちる利権をGET出来れば万々歳だろう。




考えがズレてしまった。

そうそうセレナーデさんのこと。

彼女に厳しく接した理由はわかったけど、どうして暴力なんかって話になるかって?


そうなのよ。

確かに私の立場ならば、どうしても平民のセレナーデさんに指導をするというのは周りが見ても当たり前だし、多少それがキツくても、お小言はあってもこんな卒業パーティーの場で断罪される理由にはならない。


多分、大きな原因は暴力の部分よね。

この国の男性はお淑やかで優しげで儚い感じの女性が好みだから、どうしても暴力は男のもので、それを振るう女性は有り得ないって感じなのだろう。


しかし、この部分は皆誤解をしている。

私はセレナーデさんに1回でも暴力を振るったつもりはない。

そう、それはツッコミなのである。

漫才のボケツッコミのツッコミなのだよ!


セレナーデさんは、鈍臭いだけでなくボケボケ体質なのだ。

もう行動一つ一つが大喜利かってくらいに酷いのだ。

彼女1人でピン芸人でやっていけるレベルなのだ。


そんな彼女に対して、前世からお笑い大好きのこの私がツッコミを我慢できるわけがあろうか?

もうね。絶対に無理無理。

そして、私はどつき漫才みたいな頭をパコーンと叩くツッコミが大好きなのである。


だから、彼女と2人で会話をしている最中は、本当に漫才!

彼女がボケれば私がツッコミを繰り返していた。

前世の地球だったら、ネタの練習をしているのかな?って思われるだろうが、ここではその会話を遠巻きに見ていれば、彼女を叩きまくっている暴力女とそれを甘んじて受けている可憐なヒロインの出来上がりだ。


あぁ〜、やり過ぎた!

完全に漫才になっていたから、油断しまくりでやり過ぎてしまった。

しかも、彼女叩かれると嬉しそうな顔をするから、こっちも良いのかなってやりまくってしまった。

それにいつもいつも寄ってきてくれるんだから油断もするさ。


セレナーデさんも嫌なら嫌って言ってくれたらいいのに。

あ、もしかして、ここで私を断罪して王子をGETする為にわざと我慢していたの?

別にこの王子が欲しけりゃ、全然あげたわよ。

国の権力を一枚岩にする為の政治的な婚約だったんだから。

私が御膳立てしてあげるし、家の力を使いまくって爵位をあげて王子様と釣り合いが取れるようにしてあげたわよ。


そういえば、セレナーデさんって平民出身で、あんなに鈍臭くてボケボケなのに、よくこの学園に入って来れたわね。

王族や貴族が通うこの学園は、要は超エリート校なのだ。

貴族のボンクラならば無理やり押し込めることは出来るが、平民は厳しい入学試験を突破する必要がある。

そりゃ、素の頭は悪くなかったし、卒業できるレベルまで上がったんだから良い方なのでしょうけど、私が出会った頃は本当に酷かったわよ。

まぁ、運だけで突破できるのは不可能な試験を、運だけで突破。

流石ヒロイン。運のステータスが限界突破なのね。




そんなことを考えている間に、王子は私がセレナーデさんにした所業をつらつらと言いまくっていた。

ちょっと待てって部分もあるにはあったが、大概は心当たりのあるものだった。


あぁ〜、優しく出来なかった私の自業自得だわ。

ベリーハードモードは仕方ない。

他国でひっそりと今世を全うしましょう。



そして、王子はセレナーデさんを自分に引き寄せてこう宣言したのである。


「我は公爵令嬢クリスティアとの婚約を破棄とし、セレナーデを我が妃にするとする。

クリスティアは我が妃への数々の所業に対する罰として国外追放。公爵家に対してもそれ相応の罰が降ると知るが良い!」


私はひざまずいて、こうべを垂れて

「謹んで、その罰をお受けいたします!」

と言った瞬間







「は?ふざけんな。誰がそんなことを頼んだ?

このボケ王子、テメェの妃になんて誰がなるか、ダボ!」


目の前からそんな声が聞こえた。





side:セレナーデ


あたいの国は、正直言って野蛮で危ない国だ。

武力でその勢力を拡大しつつ、その武力で国を統治して来た歴史がある。


でも、肥大していった国ってのは、暴力だけで治めるには限界がある。

それを肌で感じていた国王である親父は、自分の娘であるあたいにこんな提案をしてきた。


「オメェ、ちょっと隣国に行って、お嬢様っぽいこと学んで来いよ」


「は?隣国って今度潰そうとしてたんじゃないのかよ?

潜入して戦争を開始したら暴れてこいってことか?」


「ちげぇよ。馬鹿!

隣国とは内々に話はついていて、属国として毎年貢物を献上させることで国を維持させることが決まってるんだよ。

んで、オメェには国の象徴として、守ってあげたいって感じの深窓の令嬢みてぇなのになって欲しいんだ。

あの国は、小さいながらも歴史のある国で周辺国有数の学園があるから、そこでそういう嬢ちゃん達から学んで来い。

見てくれは良いから、上手くやればなれるだろ?」


「はぁ、今まで他国をぶっ潰す武力しか鍛えてこなかった、あたいがそんなこと出来るわけねぇじゃん。」


「はぁ〜、やっぱそう言うよな。

実はな、これは死んだ母ちゃんの遺言でもあるんだよ。

母ちゃんは死ぬ前にこの子をどうか優しいお淑やかな子に育ててくださいって言って亡くなったんだよ。

ただ、俺らも国を拡大させてる最中だし、オメェには戦闘の才能があった。

だから、母ちゃんには悪いけど、この国も俺もオメェを利用してしまった。

ただな、この国もだいぶ落ち着いて来たから、オメェにはもう戦闘の現場に出るんじゃなくて、母ちゃんの遺言通りに生きて欲しいって思うんだよ。

本当に嫌なら無理にはさせないが、どうだ?」


「あぁ〜、もう母ちゃんのこと出すなよ。

あたいだって、ほとんど記憶がないけど、親父は勿論周りの皆が母ちゃんを大好きだったか知ってんだよ。

そんな母ちゃんの遺言なんて出されたら、断れないじゃないか。

とりあえず、出来るだけ猫かぶってその学園に行ってみるけど、無理だったらとっとと帰ってくるからな。」


「おぅ、それで良い。それで良い。

流石に俺の娘が行くってのがバレるとまずいから、平民の交換留学生って形で押し込むから頼むな。」


そんなこんなで、あたいはこの学園に来ることになった。

念の為もあたいの護衛役を潜ませているらしいが・・・



しかし、学園内でのあたいはマジで不様だ。


今までは本当に体力を鍛えたり、敵の倒し方みたいなことしか学ばず、常に訓練をしていたあたいが、普通のしかも貴族の令嬢が集まるような学園での過ごし方なんて簡単に出来るわけがなかったのだ。

動きは猫被りのせいで、ぎこちなく鈍臭くなってしまうし、考え方や思考が違い過ぎるのか、どうしても会話がズレてしまっている。


もう限界でとっとと国へ帰ろうかなって思っていた時に話しかけてくれたのが、クリスティア様であった。


「あなたが他国からいらしゃった平民のセレナーデさんですわね。

私はこの国で公爵家のものでクリスティアと申します。

異国の地で分からないことも多いでしょうから、是非困ったことがあれば頼ってくださいね。」


そう言った彼女をみて、私は雷に打たれたような衝撃が走った気がした。

親父が言っていた守ってあげたい感じってこう言うことを言うんだな。

マジでこの人の騎士になってずっと付き従っていたいわ。


そんな彼女にあたいは何でも頼るようになった。


最初の頃は、その言葉遣いや表現を理解するのが難しくて、セレナーデさんを困惑させたりイライラさせたのかもしれない。


そんなある時、彼女は

「セレナーデさん。あなたはコレとコレを学びなさい。

そして、コレが終わったら私のところへ持ってくるように。

わかりましたか?返事はハイですよ。」

そうやって強い命令口調であたいに言ってきた。


国王の娘として、戦争で兵を扱っていたあたいは、こうやって命令で言われた方が理解しやすかった。

言われたことを忠実にこなすのが兵の必須事項だしな。


しかも、あたいは今まで命令をする方だったから、こうやって命令をされる側になって、正直ドキッとしてしまった。

好意を抱いている相手から命令されるって、なんかドキドキして嬉しいもんだな。

顔が赤くなって悶えてしまう。

好意・・・

そうか、あたいはクリスティア様が好きなのか!



それに、この学園のお嬢様方は、人と人との距離を遠く感じてしまう。

それが貴族のお嬢様って言われたら、それまでなのだがどうしても距離を感じて寂しくなってしまう。


だが、クリスティア様はそんなあたいと会話しているとよく叩いたりして接触してくれる。

国では訓練で殴りあったり、戦場では身を寄せ合って過ごして来たあたいには接触のない生活は限界だった。

そんな中でクリスティア様だけが、あたいに触れて叩いてくれる。

そんな時はどうしてもニヤニヤが止まらず、クリスティア様を

見つめてしまうのであった。




そんなクリスティア様との楽しい学園生活を過ごしていると、クリスティア様の婚約者であるこの国の王子が話しかけて来た。


正直、こいつはあたいの恋敵だから嫌いだが、こいつにあからさまな態度をとってクリスティア様に嫌われるのは嫌だ。

ここはクリスティア様から学んだ貴族の令嬢風でやり過ごすしかないな。


「最近、クリスティアと一緒にいるようだが、どうなのかな?」


なんだこいつ。

結局、こいつもクリスティア様のことが知りたいんだな。

そうかそうか、やっぱクリスティア様は素晴らしいから、こいつにも一丁前の嫉妬心があるんだな。

ならば、懇切丁寧にあたいとクリスティア様のことを教えてやろうではないか。


そうやって、貴族の令嬢風で多少ぎこちなくはあるだろうが、クリスティア様とのことを伝えていったのだ。

あたいの気持ちは恥ずかしいから言わないが、クリスティア様から命令口調でキツく説明を受けたとか、よく叩いてくださりとか、しっかり伝えたぞ。




そんな、あたいとクリスティア様との短い学園生活も終わりを迎えようとしている。


時たま、話を聞きに来る王子はマジうざかったが、あたいとクリスティア様のことを嫉妬しているから可哀想にと、毎回これでもかって伝えてやった。

もう終盤は王子に話をする度に、クリスティア様との別れが近くなると思って涙を見せてしまったが、クリスティア様とは最後まで笑顔で過ごしたいから、こいつの前で泣く分にはどうでもいいや。


あたいの学園生活最後の卒業パーティー


そういえば、あたいが隣国の王女であるってことは、クリスティア様にも伝えていなかったな。

最後にさよならする時に内緒で伝えたいな。



あたいとクリスティア様でお話をいっぱいしたかったのに、何故か王子も混ざっており、しかも偉そうに、あたいとクリスティア様のことを話をしている。

まぁ、話し方にトゲがあるようにも感じるが、あたいとクリスティア様の大切な思い出でもある。

王子の話を聞きながらニヤニヤしてしまう。


クリスティア様の顔を覗くと、青白くて引きつった顔をしていた?

あれ、調子が悪いのかな?

それならば、このボンクラ王子の会話を止めて医務室へクリスティア様を運ばないとって思っていたら


急に王子があたいの腰に手を当てて引き寄せて、こう言ったのである


「我は公爵令嬢クリスティアとの婚約を破棄とし、セレナーデを我が妃にするとする。

クリスティアは我が妃への数々の所業に対する罰として国外追放。公爵家に対してもそれ相応の罰が降ると知るが良い!」


このダボ王子は、何を言っているんだ?

クリスティア様から婚約を破棄するならわかるけど、こんなクソ王子から婚約破棄とかないわぁ〜とか

なんで、属国の王子に宗主国の王女が嫁に行かなきゃいけないんだ?とか


一瞬で色々考えが巡ってブチ切れてしまった。

もう、このタコ要らないな!


速攻で、底辺王子の腹にボディブローをかまして


「は?ふざけんな。誰がそんなことを頼んだ?

このボケ王子、テメェの妃になんて誰がなるか、ダボ!」


言ってしまった。


言ってから気がついたけど、あたいクリスティア様の前で素を出してしまってるじゃないか!


あぁ、もういいや。

勢いでやってしまえ!


クリスティア様に向き合い

「クリスティア様すいません。実は内緒にしていましたが、あたいは隣国の王女なんです。

あたいはこれから隣国に帰らないといけないのですが、どうかクリスティア様もついて来てくれませんか?」


あぁ〜、隣国の王女って話だけ伝えたかったのに、なんか告白まがいのことまで言ってしまったぞ。


「うーん。良いですね!

私も先程、そこで倒れている王子様に国外追放を言い渡されてしまったので、あてのない国よりも、セレナーデさんのいらっしゃる国で保護して頂けるなら助かります。

是非、一緒に連れてってください。セレナーデさん。

あ、セレナーデ様ってお呼びした方が良いかしら?」


「いえいえ、さん付けどころか、どうかセレナーデと呼びつけてください。」


「流石に、お世話になる国の王女様にそうはいきませんよ。

とりあえずは、変わらずセレナーデさんで。

あ、あと私が国を出てしまうと公爵家である実家に被害が出てしまうかもしれません。

迷惑ついでに、なんとか穏便に出来ませんか?」


「はい。任せてください。おい、お前たち!」


あたいがそう言うと、あたいの護衛達が集まって膝をついていた。


「あたいはこれからクリスティア様を連れて国へ帰る。

国までの道でつまらぬ騒ぎが起きないように整理せよ。

あと、クリスティア様の実家にもご迷惑がかからぬように最大限の配慮を。

いいな。これは第一級の指令である。ミスは許さん。かかれ!」


そういうと、護衛達は散っていった。


「さて、クリスティア様、どうぞお手を取ってください。

これより貴女様を我が国へご案内いたします。」

そう言って、クリスティア様の前に膝をついて、手を差し出した。


「ふふふ。まるで私の騎士ですね。

ありがとうございます。これからよろしくお願いしますわ。」

あたいの手を握ってくれた。





その後・・・


ボンクラ王子は宗主国の王女を怒らせて国を崩壊させようとした罪で廃嫡。どっかの炭鉱で鉱夫をしているとか。

クリスティア様のご実家は我が国との関係を維持する為に公爵家を維持、今では我が国との関係を一手に担い王族を凌ぐ権力を盤石なものにしたらしい



そして、あたいとクリスティア様は


「あたいの剣はクリスティア様に捧げるものだ!

我が国の兵達よ。私に忠誠を誓うのならば、その剣は全てクリスティア様のものだと理解するがいい!」


「「「「「おぉおおおおおお」」」」」


あたいの直属の部下達が唸り声を上げて応えた


「以上、解散」


さて、クリスティア様の元へ行くと

「あの良いのでしょうか?

私ってこちらでは単なる隣国の貴族の娘ですよ?

そんな私にあんな感じの対象にしてしまって」


「良いんですよ。あたいが良いと言うんだから、コレが正解です。」


「もうダメですよ。ちゃんと周りの意見も聞かないと」

そう言って、あたいの頭を小突いてくれる。


はぁ、こんな日々がずっと続けば良いなぁ。

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