フルメタル・パニック!Family 特別編 『アラスカ州ユーコン川流域の丸太小屋』
賀東招二
第一話(完結)
※【】は編集者向けのルビ指定や注釈です。あえて残してあります。
(相良家が日本で四人で暮らし始める一年半ほど前のこと——)
相良夏美は迷っていた。
三倍に固定されたスコープの中で、鹿が身じろぎする。距離は一二〇メートル。普通なら当たる距離だが、低木の枝が邪魔だった。それに姿勢もすこし、角度がきつい気がする。この位置からだと、きちんと急所【バイタル】に命中するかどうか確信が持てない。
(確信が持てないなら、撃つな)
夏美は何度も父にそう言われていた。
その父はいま、二〇〇キロ離れた一番近くの町へ買い出しに行っている。半径数十キロで息をしている人間は、たぶん自分だけだ。
引き金を引きたい衝動はとてつもなかった。
案外あっさり当たるかもしれない。当たらないなら、それもいいのでは。引き金を引きさえすれば——勝負に出れば——こんな雪原で寒さに震えながら、古いライフルを抱えてぴくりとも動かず、あちこちが擦れて痛いのを耐えなくてすむ。
しかし夏美はまだ撃たない。雪原の片隅で迷い続けている。
初冬で、近くの川も凍っていた。標的は五歳くらいの雄のヘラジカ【ムース】だ。一頭だけで、連れはいない。まだ若いが美しい毛並みだった。
あのヘラジカを仕留めれば、多くのことを自分自身に証明できる気がする。忍耐強く大物を追い、大人向けのライフルを使いこなし、すべてに一人で対処する。それは夏美にとって大事なことだった。
狩猟許可証は(偽造だけど)持っていたし、州の定める狩猟期間も守っていたが、あの美しい動物を殺す資格が果たして自分にあるのだろうか? 言ってみれば、これはスポーツ・ハンティングだ。生きるために撃つのとは違う。たとえこれまで五時間以上、足跡を追って艱難辛苦を乗り越えてきたにせよ——
ヘラジカはトウヒの根元に残っていた落ち葉や小枝を食べていた。もう少し待てば真横を向いてくれるかもしれない。肺か心臓を撃ち抜ける角度。やはり今の位置では駄目だ。後ろ足と他の消化器官が邪魔をして、急所まで銃弾が届かない。長い時間、苦しませてしまう。
もう少し——
ヘラジカが餌を求めて向きを変える。胸がよく見える位置に来た。真横のちょっと前。理想的といってもいい。
撃つならいまだ——
「…………」
夏美は撃たなかった。
ついさっきまで、あんなに引き金を引きたかったのに。その瞬間が来たら、指が重く、固くなったのだ。
ヘラジカの向きがまた悪くなった。枯れ枝の濃いあたりの向こうに移動して、やがて低い稜線の向こう側に消えてしまう。獲物に気づかれないように一二〇メートルを進むには三〇分以上かかるだろう。
「…………」
やめよう。夏美はライフルの安全装置を戻すと、家路についた。徒労感と空腹とがひどかった。
夏美が二キロ離れたところに停めていたスノーモビルに乗って、家に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。
その丸太小屋は古い西部劇にでも出てきそうなたたずまいだったが、すぐそばに倉庫がわりのコンテナと発電機があった。屋根にはパラボラアンテナが付いている。両親が、ここを前の住人から譲り受けたのはもう一〇年以上前のことだ。他の国、他の地域の家に住むこともあったが、このアラスカの家はたびたび、長いこと住んでいる。
スノーモビルのエンジンを切ると、コンテナの方でがたんと物音がした。たぶん発電機の音だろう。一時間に数度、土台が共振してやかましい音を立てるのだ。
防寒目的の二重ドアを開け家に入る。
暖炉に火をつけ、ヒーターも入れた。殺風景なキッチンで湯を沸かして、その間に上着や靴を脱いで暖炉のそばに干した。まだ部屋は寒くて、床は凍りつくようだった。
PCを開いて衛星回線をチェックする。母と安斗からメッセが入っていた。他愛のない内容だ。母は入院中の病院食の採点付きレビューで、安斗は昨日見たアニメの採点付きレビュー。二人とはもう四か月以上顔を合わせていないが、こうしてやりとりはしている。
夏美の方は話題がない。一人でヘラジカ狩りに行ったことは家族には内緒だった。仕方がないのできのう撮った雪原の写真を送っておく。父からもメッセが入ってきて、予定通り、明日の日中に帰ってくると簡潔に告げていた。
家族にそれぞれに簡単な返事を書いてコーヒーをいれていると、だいぶ部屋が暖かくなってきた。セーター、シャツ、ブラ、ズボンにタイツと、全部脱ぐ。パンツもだ。今夜も父がいないので気晴らしだった。裸になるのが気晴らしというのも変な話だが、夏美は薄着の方がリラックスできるのだ。薄着なら薄着なほど良い。これはいわゆる裸族という奴だろうか?
さあ食事だ。インスタントラーメンを作って、コンビーフとジャガイモと玉ねぎを炒めて、腹ごしらえをする。裸で。母が見たらお説教だろうが、いまこの場には夏美だけだ。構いはしない。
外は風の吹く暗黒の原野で、周囲数十キロには誰もいないのに、鼻歌混じりだった。一人でいることにまるで苦痛を感じないのだ。
お腹がいっぱいになったら作りつけの狭い浴室で熱いシャワーを浴びて、ほかほかになる。あとは暖炉の前で、ふかふかの毛皮のラグに裸で寝そべって、毛布にくるまって読書。今日の本は気軽にボルヘスの短編集と行こう。ああ、最高。この格好で眠くなるまで活字の世界に耽溺して、やがてそのままぐっすりと——
ああ、しまった。
発電機に燃料を足すのを忘れていた……。電気が切れると色々まずい。裸で寝るどころの騒ぎではない。
「…………」
声にならない不機嫌声を漏らし、夏美は立ち上がった。
毛皮のブーツと手袋、ダウンジャケットだけを羽織る。下は裸だったが、五分くらいなら大丈夫だろう。真冬はやめておいた方がいいだろうが。
家の二重扉を開けたところで、ふと思い立って引き返す。
すぐそばのテーブルの引き出しにしまってあった小さな拳銃を、ダウンジャケットのポケットに放り込んだ。
三五七マグナムのデリンジャーピストル。たった二連発で銃身も短い。威力はそこそこにあったが、自衛用というより威嚇のためのものだった。派手な銃声で動物を追い払うくらいのことはできる。
なんとなく、念のため。懐中電灯くらいの感覚だった。熊よけスプレーは部屋の奥、装備品のベルトに差してあったので、面倒くさかった。
外に出る。寒さがむき出しの肌に染み込んでくるようだった。
発電機は家から五メートルほど離れたコンテナ小屋にある。騒音を考えるともっと離れていてもいいのだが、吹雪の時はこれ以上遠いと危ない。たった一〇メートル先も見えずに遭難することもあるのがこの世界だった。
ただ今夜は静かだ。満月が大地を照らし出し、新雪が白く柔らかに輝いている。
コンテナ小屋に入って明かりをつけ、備蓄の燃料を発電機のタンクに注ぎ足す。オイルやバッテリーは父とおととい見たばかりなのでいいだろう。ディーゼル燃料をいれている間、ジャケットの隙間から冷たい空気が入ってきて、下半身が寒くて仕方なかった。不精してズボンを履かなかったことを後悔する。
その時、物音がした。
シャベルか何かの倒れる音。隣の倉庫から。静かな夜だ。やけに大きく響いた。またネズミだろうか? いくら退治してもすぐにわいてくる。
燃料補給を終えると、夏美は隣の倉庫に様子を見に行った。
こちらも古いコンテナを流用した小屋で、中には保存食料やその他の物資が置いてある。施錠はしてないが鼠が入れるような隙間はないはずだった。ドアは固く閉ざされていて——
「…………?」
確かにドアは閉じていた。だが照明の当たらない脇の壁面に異状があった。もともと経年劣化で穴だらけの鋼板を外して、木材の合板を当てていた部分だ。その木材が強引に引き剥がされて、大穴ができていた。大人が一人、楽々と通り抜けることのできるくらいの穴——というか裂け目だ。
また物音がした。今度はもっと大きい。がたがたと、物資が崩れ落ちる音。ネズミではない。
ポケットに手をつっこみ、デリンジャーピストルを探る。あった。ピストルのハンマーを起こしてセイフティを外す。念のためだ。
裂け目から、ぬっと黒い影が出てきた。
一瞬、大型のイタチの一種、クズリかと思った。クズリであってほしかった。気が荒い動物だが巨大ではない。なんとか追い払うことくらいはできるだろう。
だが、その影はもっと、はるかに大きかった。
ヒグマ【グリズリー】だった。
あごの周りに乾いたパスタのかけらがついているのが、妙に印象に残った。
夏美は生きたヒグマを間近で見るのは初めてだった。町の銃砲店で見かけた剥製よりも大きいような気がする。
熊よけスプレーを持ってくればよかった。バカだった。こんなピストルなど、ほとんど役に立たない。
ヒグマの目は奥深く、どこを見ているのかわからなかった。だがたしかに夏美を視界にとらえている。吠えたりはしなかった。無言で、低姿勢で、まっすぐこちらに——
「…………っ」
とっさにコンテナのドアを開いて盾がわりにするのが精一杯だった。間近に迫ったヒグマが、コンテナのドアにぶつかってきた。ほとんどひしゃげるようにしてドアが回転し、夏美を巻き込んで一度、閉じた。コンテナの中に弾き飛ばされた夏美は、肩や頭を強く打って転がった。息ができない。車に跳ね飛ばされたみたいだった。
「っ…………あ」
薄暗がりの中で、食い荒らされた食料が散らかっているのが見えた。目の前を、やけにゆっくりと転がっていくトマト缶。半分潰れている。素手【傍点】で缶をこじ開けたのか? なんて力だろう。
半開きになったドアの向こうからヒグマが迫ってくる。驚くほどの速さと強さで、断固として、決然と、自分を狙って。
ピストルを向ける。たった二連発のデリンジャーピストル。当たりどころが良ければ——とても良ければ——なんとかなるかもしれない。
撃つ。一発。きつい反動。頭に当たったはずだが、浅い。ぜんぜん手応えがなかった。
迫る。迫る。
手近な小麦粉のボトルをなぎ倒して盾にして、コンテナの奥に後退りする。その間にピストルのハンマーを再び起こした。
撃つ。狙わなかった。もう少しで手が届く距離だ。左目のあたりに当たったようだが、それ以上はわからなかった。
もう弾切れだ。
むせかえるような匂いが迫る。何かに背中が当たり、荷物が崩れ落ちてきた。おかげでほんのわずかにゆとりができた。弾切れのデリンジャーピストルを投げつけ——もうだめだ。顔面に前足がくる。なんて長くて立派な爪なんだろう、とのんきに思った。何かにつまづいて、後ろに転んだ。爪が空を切る。
続く攻撃は来なかった。ヒグマは夏美のすぐ前でぐるぐると回転し、壁に何度かぶつかって、コンテナから外に飛び出していった。
なにかひゅうひゅうと雑音の混じった唸り声。重たい——とても重たい足音が、雪を踏みしめ、遠ざかっていく。
体のあちこちが痛い。だが助かった。理由はまったくわからない。
冷たいコンテナの奥に仰向けで横たわり、夏美はため息をついた。やっと恐怖が押し寄せてきて、心臓が早鐘を打ち始める。立とうとしたが、立てない。腰が抜けた、というのはこういう状態をいうのだろうか。下半身を丸出しにしたまま、彼女はずっとその場にへたり込んでいた。
とにかく一度家に戻って、戸締りをした。
最初にまずちゃんとパンツを履く。服を着て、ブーツを履き、武器を取った。昼間使った安物の三〇八口径ライフルと、戸棚の奥のリボルバー。手斧とナイフもだ。父の武器も床下にしまってあったが、こちらは自動小銃であまり扱い慣れていなかったので、触らないでおく。
ライフルの薬室に弾を装填すると、やっと気持ちが落ち着いてきた。
あのヒグマ。
夕方、帰ってきた時にはもうあの倉庫にいたのかもしれない。この家の周囲を縄張りにしているヒグマはいないはずだったが、現にあらわれた。ある程度は電気柵も仕掛けてあるのだが、完璧ではない。
この季節、ヒグマは冬眠に備えてとにかくなんでも食べる。あの倉庫の食料を嗅ぎつけ、腹ごしらえしてそのまま休んでいたのだろうか? 人里に慣れているのかもしれない。
普通、ヒグマは警戒心が強い。夏美がスノーモビルで爆音を立てて帰ってきたら、その時点で逃げ出すなり威嚇するなりしてきそうだ。
昼間、夏美の留守中に倉庫を荒らして、いったん満腹になって離れ、また夜になって食事に来た——それが一番つじつまが合う気がした。
だとしたらまずい。ヒグマはあの倉庫の食料はすべて自分のものだと思っている。またやって来るだろうし、そばにいる人間は敵でしかない。この家に踏み込んできてもおかしくないし、すぐ外で待ち伏せるくらいのことはするだろう。
卓上のスマホが震える。父の宗介からメッセだった。
《異状はないか? おやすみ》
どう答えるか迷った。
ヒグマと鉢合わせたことを書くか? たぶん父はすぐ行動するだろう。買い出し品は放り出して、ヘリか軽飛行機で、夜中のうちにここに戻ってくるはずだ。父が自動小銃を持てば無敵だ。どんな動物でも倒せるだろう。
ここで閉じこもって、父を待つのがいい。
《ヒグマが出た。まだ家の周囲にいる。たす》
そこまで書いて、指が止まった。『助けて』と打つのは……違う気がする。この問題は、自分とあの動物との間のこと。父に助けを求めては、それが台無しになる気がした。たとえそれが不愉快きわまる関係だとしても。夏美のような年頃の娘は、学校で揉めた相手のことは親には話さないと聞くが、その感覚に似ていた。
《異常なし。おやすみなさい》
そう返信して、夏美は家を出た。
馬鹿なことを、と父は言うだろう。せめて朝を待てとも。だが追うなら今しかない。追って、あの動物を殺そうと、夏美は決意していた。
三〇八口径のライフルと、三五七マグナムのリボルバー。これで十分だ。
先ほどの倉庫に向かって、跡を注意深く観察する。二頭以上いる可能性も考えたが、それはなさそうだった。脅威はあの一頭だけだ。
一番新しい足跡は西の方角に続いていた。南と東側は何もない雪原だから、トウヒの茂った丘の方に逃げたのだろう。ふらふらと、頼りない足跡だった。月が明るいのでライトをつける必要もない。血痕に気づいた。雪に覆われたイソツツジに鮮血がついている。
やはりデリンジャーピストルがダメージになったようだ。あれだってヘビー級ボクサーのパンチぐらいはある。それで三半規管か神経にでも傷を負わせたのだろうか? おかげでこちらは命拾いした。
足跡は薄暗い林の中に続いていた。これまでは視界が開けていたが、ここからは障害物が多い。また数メートルの距離で鉢合わせるかもしれない。そうなったら今度こそ終わりだ。
だが夏美の中に引き返すという選択肢はなかった。
殺すのだ。断固として。それ以外にない。
あの動物はとても頭がいい。人間が思いつく手立てはすべてできる。待ち伏せ、おとりなどなんでもする。銃のことも知っていて、弾に限りがあることも、狙うのが簡単ではないことも理解している。
そのつもりで近づかねば。一歩一歩。一切の隙もなく。
夏美は林の中に入っていった。月明かりは差し込むが、それも途切れ途切れだ。あちこちに闇が生まれ、その奥から死を伴った何かが湧いて出て来るような気配がする。
足跡が続いていた。倒木や枯れ枝が多くて、辛うじてわかるくらい。少し行っては立ち止まり、耳を澄まして風の匂いを嗅ぐ。その繰り返し。かすかにあの倉庫と同じ獣臭を感じたような気がした。だがまだ遠い。
しばらくそんな調子でゆっくり進むと、小さな空き地に出た。腐った倒木が積み重なり、その上に新雪が積もっている。たぶん小規模な山火事の跡だろう。暗闇からまた月の光の下に出た。
その空き地の外周に沿って足跡が続いていた。
雪に残った、大きな足跡。障害物が少なくて、見つけやすい。いや——むしろ、わかりやすすぎる【わか〜傍点】。こんな足跡を、あの動物が残すだろうか?
おそらく止め足だ。わざと足跡を残して、その足跡を踏みながら戻り、別の場所に跳躍して追跡者を欺く。熊が止め足をやるのは初めて見た。
まずい。すぐ右側は低木とクロトウヒの深い茂み——昏い闇だ。隠れる場所には不自由しない。不意に風向きが変わった。血と獣の匂いが、これまでないほどの濃厚さで、夏美の鼻腔をつく。
いる。すぐそばに。姿はまだ見えないが。
緩慢に、右を向きつつ後ずさる。ここで飛び退いてはだめだ。刺激を避け、少しずつ、少しずつ距離をとる。黒く大きな影が見えた。コケモモの葉と枯れ木の奥。ここから三メートルもない。
なぜ襲ってこないのだろう? いまライフルを向けても、撃つより早く前足が来る。それでおしまいだ。あの獣の勝ちだ。なのに、動かない。
夏美はゆっくりと銃口を向ける。影は依然として襲ってこない。呼吸の気配すらない。獲物に飛びかかる直前の体勢のまま、静かに、身じろぎ一つせず、ただそこにいる。夏美の動きに反応することは一度もなかった。
死んでいる。
ついさっきまで生きていたのかもしれない。だが力尽きた。たぶん、あのピストルの二発目の銃弾だろう。左目から後頭部のあたりが潰れ、そこからおびただしい量の血と肉片がこぼれ落ちていた。むしろここまで動けていたことの方が不思議なくらいだ。
安全のために、とどめの弾を撃ち込むべきだったが、とてもそんな気持ちにはなれなかった。
「ごめんなさい……」
すまない気持ちでいっぱいだった。うろたえて撃った一発で、散々苦しめてしまった。涙がこみ上げてくる。
情けない。
自分は敗者だ。打ちひしがれ、苦い気持ちを抱えて夏美は帰路についた。
それから荒らされた倉庫を片付けて、ほうきで周囲の足跡などをはき消しているうちに朝になった。少し眠って、もう一度家の周辺を片付けた。
夕暮れ前に父親の宗介が帰ってきた。トラックに載せられるだけの物資を積んでいた。夏美が頼んでいた書籍も一箱くらい。だが明るい気分にはならなかった。倉庫を荒らしたのはクズリだと言い張って通した。
「そうか。クズリも十分危ないが、ヒグマに気をつけろよ。町の銃砲店でガイドに会ってな。ここから二〇キロくらい北でヒグマを見たそうだ。客が無闇に発砲して追い払ったそうだが、人里に慣れてるタイプらしい」
どこかのんきに父は言った。たぶんそのヒグマだ。殺されかけたことは黙っておこう。みっともないし、説明するのも億劫だった。
「夏美……?」
コーヒーを淹れていると、彼女の横顔を眺めていた父が呼びかけた。
「お前……大きくなったか?」
「二日会わなかっただけでしょう。なに言ってるの」
「まあ、そうだが。そんな気がしただけだ」
首をひねる父に、夏美は無言で温かいコーヒーを出してやった。
(おしまい)
フルメタル・パニック!Family 特別編 『アラスカ州ユーコン川流域の丸太小屋』 賀東招二 @gatosyoji
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