第2話

「クソクソクソこれだから平民は無価値で無能なんだ!毒を満足に入れることさえできないなんてクソクソクソ」暗い寝室で一人の男が頭を抱えていた。

「あの野郎、バカにしやがって、魔力がないくせに、汚れた存在のくせに。」男は苛立ちを隠せず、寝室にある本棚を叩き割った。淡いランプに照らされる怒りの根源の名はパールディ。小心者のパールディだった。

「ああああああ、何もできない無能のくせになぜアマリリスはあいつのことを慕っているんだ?」

男は嘆き、涙が溢れる。溢れれば溢れるほど、寝室内の形あるものが崩れていく。だが、どれだけ騒いでも、怒りの叫びを上げようとも、誰にも届かない……はずだった。

「ンフフフ」

「だっ、誰だ!」

どこからともなく誰かの笑い声が響き渡る。誰もいない寝室のはずなのに、誰かがいる。誰も反応を示さないはずなのに、誰かが反応を示した。

男は恐怖と高揚感で立ち上がり、腰にぶら下げていた剣を構える。

「誰だ、誰なんだ、ここは俺だけのプライベートルームだぞ。許可なく入るやつは誰であろうと殺す。」

ギラリと光る等身にパールディの顔が反射する。そこには殺気に満ちた顔だった。しかし、そんな殺気に慄くことはしない。笑い声は耳元に囁いた。

「ダメだよ。殺せないよ、君には。」

「うわぁああ」

男は叫び声を上げ、後ろに慄き、尻餅をつく。

この光景に笑い声は大きくなると共に、男の影も大きくなった。

「本当にダメだ、ダメダメだ。プライドだけは一丁前で独占欲が強い可愛いパールディちゃん。本当に情けないね。」

影は膨らみ、膨張する。淡い光だけが包み込んでいた部屋に暗黒が訪れた。

「ンフフ。可愛いね。可哀想だね。」

影のバカにした笑い声にパールディは過去を思い出す。誰にも認めてくれなかった誕生日。興味を失わされた魔力検査の日をパールディは涙を堪えながら叫ぶ。

「何がおかしい!俺はエンピリオン一族だぞ!あの偉大で最強なレオ・エンピリオンの息子だぞ!笑うんじゃねえ!」と大きな怒り声を上げるが、影は冷淡に言葉を発する。

「だからなに?」

「へっ、だっ、だから俺をバカにすると?」

「何もおきないでしょ。パールディはその偉大なお父様に愛されてるの?愛されてないよね。」

 影の言葉にパールディの体の支えながらなくなる。目は見開き壊れたかのように言葉を綴る。

「俺は愛されてる……だってお父様から名を貰ったし、それに俺はエンピリオンでレオの息子で……」

 たった一言壊れたパールディに向かって影は優しく撫でる。

「本当に可笑しい。笑える。だからボクは君を選んだんだけどね。」

呆然と呟くだけのパールディに影は蛇のように這い回る。

「さあ、契約しよう。君が本当に欲しがっているものを手に入れるために。代償は結構。だって悪魔は人のことが好きだから。」

「俺はレオの息子で、誰からにも恐れられていて……」

ぶつぶつ呟くパールディを影は静かに包む。

優しいベールを被せられたパールディは揺れるランプを見つめながら

「会いたいよ母さん」と呟いた。

闇に包まれたパールディは黒い繭の中にいる。ゆりかごのように揺れる繭は怒りも恐れもあらゆる感情をも包み込む。

やがてパールディは背中を丸め、まるでこれから生まれてくる赤子のように黒い繭に身を任せた。

「元気に育つんだよ。」影は優しく呟く。まるで愛しい息子に伝える言葉のように、影の悪魔は呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年1月11日 07:00
2025年1月12日 09:00

悪魔で好きなだけ 赤青黄 @kakikuke098

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画