神様の初恋〜遠き冬の恋初め〜
卯月 幾哉
畏れ多き初恋
「神様ー。そろそろ
『むぅ、眠い。あと五分……』
「そんな子供みたいなこと言わないで。ほら、行きますよ」
『仕方ないのう……』
この髪も肌も真っ白な美少女は、我が神社の神様。
僕以外の人の目に映ることは
今を
――相手は神様だったので、その恋が実ることはなかった。……僕は、誰にも想いを明かさなかった。
今日は元旦。世間はどこも休みだが、神社にとっては書き入れ時だ。
ウチのような小さな神社でも、おみくじや御守りの授与は行っている。なにせ、貴重な収入源だ。こちらの重大事は、妻とアルバイトの巫女さんに担当してもらっている。
僕の主な役目は、参拝客の対応だ。希望者がいれば
そして、何よりも欠かせないのが神様の存在だ。たとえ目には映らなくても、神様が本殿にいるかいないかによって、参拝客が
「あなた、そろそろ」
「ああ、今行くところだよ」
妻に声を掛けられたのは、神様の手を引いて
「神様、本日はよろしくお願いいたします」
妻は僕の視線を見て、神様がいるとおぼしき所に向かって深々と礼をする。
すると、神様は
なぜか機嫌が悪いらしい。
「神様、なんて?」
問われて、僕は苦笑した。
「……うーん、ちょっと機嫌がよくないかも。授与所の方の準備を先にやっててくれるかい?」
「あら……、何かお気に
「まあ、よくあることだから、それほど気にしなくていいと思うよ」
そんなやりとりの後、僕は神様をなだめて一緒に
まだ朝も早い
元旦の初詣は、顔見知りのご近所さんが中心だ。とはいえその中にも、
僕が父から引き
どうも、神様がそういったご利益を与えるようになったのだそうだ。
僕が当時の学年一の美少女と結ばれることができたのも、そのご利益をこうむったおかげかもしれない。
神様の美しさには及ばないが、僕にはよくできた妻だと思う。
『ご利益をあげすぎたわい……』
「――え?」
『……』
……はて。
神様が何か言ったような気がしたが、僕の
†
「――じゃあ、よろしくお願いしますね」
『うむ。任せておれ』
坊は体も心もりっぱに成長したが、気立てが素直なまま育ってくれて
(わしの初恋の相手については、坊には絶対に秘密じゃな。神とはいえ、物事は上手く行かぬものじゃ……)
わしはやるせなさをこらえ、深々と
《終》
神様の初恋〜遠き冬の恋初め〜 卯月 幾哉 @uduki-ikuya
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