コノハズクの赤ちゃんが助けを求めて来た、夜の帰り道。
シーラ
第1話
仕事で、人より野生動物が圧倒的に多い地方に住んでいた頃。その日は長袖一枚でも十分に過ごしやすく、星の観察にはうってつけだった。懐中電灯だけを手に持ち、靴を履いて外を出ると。満点の星々が、濃くて青く深い暗闇を照らしていた。
誰も通らない山の中腹の車道まで向かい、懐中電灯を消して、暗闇の地面に腰掛けて空を仰ぐ。
今日も天の川が美しい。この川を彩る細かいひとつひとつが全て星で形成されている。自分の手でひとつひとつ全て数えようとすれば、一つの人生で足りるだろうか。
時間を忘れて観察していたが、そろそろ眠くなってきた。懐中電灯をつけて来た道を帰っていると。バサバサと木々を揺らしながら、私のすぐ側に何か塊がボトリと落ちた衝撃音がした。なんだ?懐中電灯を向けてみると、大きなコウモリのような物体が、地面を這い蹲り悶えていた。
病気や細菌を持っている可能性があるので、噛まれてはいけないと逃げようとしたが。その物体は懐中電灯を持つ私に向かい、あろう事か地面をのたうちまわるように飛んできた。
その様子が、どうにもおかしい。私の足の甲まで飛んできた物体をみると、それはコウモリではなくコノハズクの赤ちゃんだった。
茶色と黒と真っ白な産毛が体の半分も残っているその個体は、どうやら飛ぶ練習中に木にぶつかり落下したようで。脳震盪を起こしている様子が伺える。
これは、保定すべきなのかもしれない。懐中電灯を地面に置き、コノハズクの赤ちゃんを素手で捕まえ膝に乗せ、大人しくさせる。後で手や服はしっかり洗えば良いさ。
フワフワした羽の感触がとても優しく、捕まえると急に大人しくなった赤ちゃんは、身を預けるようにして目を閉じた。
『可愛い』素直に思える。このまま連れ帰りたいが、どこかに親が居る可能性は高い。10分程膝を貸していたら、具合が良くなったのだろう。膝の上で横になっていた赤ちゃんは、身を起こして羽を広げる。折れてはいないようだ。良かった。
勢いをつけて、膝から音もなく飛び立っていく。流石コノハズクだ。と思っていたら、Uターンして戻ってきた。どうしたのだろうか?
静かに私の膝に降り立ち、首を傾げながら見上げてくる。愛らしい瞳がまるで『ありがとう』と言ってくるかのようだ。
赤ちゃんは羽を広げると、今度こそ音もなく山の奥深くへ帰って行った。
元気に育ち、命を繋げて行って欲しい。そう願いながら私は帰路に着いた。不思議な出会いもあったもんだ。
コノハズクの赤ちゃんが助けを求めて来た、夜の帰り道。 シーラ @theira
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