第3話 誘拐?
「リシュアナ?」
私がとぼとぼと下を向いて歩いているとふいに話しかけられたので、顔をあげると……。
「エルロッド?」
幼ない頃から見慣れた銀髪の貴公子然とした長身の青年が黒地に青糸と金糸で飾られた服を着て立っていた。
この幼馴染はとても見目がよい。
そして性格もいい。
かつて密かに憧れていたのは内緒です。
そんな彼に泣きそうな顔を見られたのは、ちょっと恥ずかしい。近くに穴はないかしら?
「今日は戦えるのを楽しみにしているよ……って、何があった?」
「エルロッド。今日は頑張ってね。応援してる……」
私は説明するのも気が重く、精一杯言葉をひねり出した後、足早にその場を後にしようとしたのだけど……。
「待ってくれ!」
彼に腕を掴まれました。
「ほっといて!」
「なんで闘技場から離れてる? まさか出場しないのか? キミほどの精霊術師が? 王都のギルドは何を考えているんだ?」
聞かれても私には答えられないのだからもう放っておいてほしい。
「本当に外されたのかい? でも、そんな顔をしているということは出たかったんだろう? ならついてきてくれ!」
しかし私の願いとは反対に、彼は私を引っ張って武闘会場に戻っていく。なにか魔法を使っているようで痛くはないけど、逆らえない。こんなのはあんまりよ。
どうして私がこんな目に?
「隊長、おはようございます……って、なにやってるんですか? 女性を無理やり引っ張り込むなんて」
痩身の騎士然とした方……たしかシュルターさんがエルロッドに挨拶しながら私に気付いて驚いている。
見渡すとエルロッドのチームのメンバーがいて、みんな目を見開いて驚いている。
当然だ。ここはチームの控室のはずで、部外者の……それも対戦する可能性のあるチームの私がいていい場所のはずがない。
「みんな聞いて……」
「なぜ私をここに引っ張ってきたの? 私は帰るわ!」
「ちょっ……ちょっと待って!」
ようやく腕を離してくれたのでエルロッドを避けて帰ろうとしたらまた腕を掴まれた。
「驚きました。あのエルロッド先輩がまさか……」
「私も。少女誘拐に加担させるのはやめてほしい……」
よく似た容姿の子たち……双子でミラとエラだったかしら? ……が何やら勘ぐっている。
「ちっ、ちが……」
「なにが違うのだ。嫌がる女性の腕をつかんで引っ張ってくることのどこが誘拐じゃないのだ?」
「あっ……その……リシュアナ……ごめん」
威厳のある大柄な人……グラムエルさんね……に言われてようやく周囲の目に気付いたエルロッドが申し訳なさそうに頭をかきながら謝ってきた。
なんなのよ……。
「で? その女性は確か王都ギルドチームの精霊術師だろう? そう言えば隊長の幼馴染と言っていたか?」
エルロッドは剣技と魔法の腕を活かし、若くしてルーヴィア公爵領軍で隊長になった。
「そうだ。彼女は精霊術師リシュアナだよ。僕の幼馴染で、様々な精霊に会うために3年前に旅立った」
なぜかエルロッドが私のことを説明しているけど、早く帰らせて。
「仲の良い相手を偶然見つけて、いても立ってもいられなくなって誘拐してきたと」
「なっ!?」
双子の片方の子がエルロッドに哀れんだ目を向けている。
「えっ……私は
「ちがっ……」
つい、反応してしまいました。
「お嬢さん。我らが隊長が失礼しました。幼馴染のよしみで許してもらえないか……」
「おいっ!」
騎士然とした人が薄っすらと微笑みながら私に演技がかった口調で謝ってきます。
「お姉さん、隊長にはきつく言っておきますから」
「ふふ……」
双子のもう片方の子はエルロッドにメっという視線を送っています。
ルーヴィア公爵領のメンバーは完全にエルロッドで遊んでいた。
さっきまで悲しくてしょうがなかったのに、つい笑ってしまったわ。
次の更新予定
王都の武闘大会~パーティー追放されたけど、昔好きだった幼馴染に誘われて大精霊と一緒に無双してざまぁしたわよ! 蒼井星空 @lordwind777
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