ただいま

うさ田ケリー

ただいま

私が実家で両親と暮らしていた頃、出掛ける際に母から必ずかけられていた言葉がある

『アンタ、車に気をつけや!』

小学生になって子供だけで登校する時も、大人になって会社に行く時ですら毎回必ず、だ。

それには

必ず無事に帰ってきなさい

そういう意味が含まれていたんだと思う


私は姉と二人姉妹なのだが、私と姉の間には兄もいた

と言っても私は兄のことは全く知らない

私が生まれるより前に5歳という幼さで亡くなってしまった

交通事故だった

近所のお友達の所へ遊びに行ったまま、母は兄から『ただいま』の言葉が聞けないまま永遠の別れになってしまった

姉はその時の記憶が鮮明に残っており、ご近所さんから事故の知らせが入った瞬間、母は靴も履かずに飛び出して行ったそうだ

その時の母の表情と、走って行く後ろ姿が今でも忘れられないと教えてくれた


一方私は、母から話を聞いた時は悲しい事だと頭ではわかっていても、全く知らない兄の話はどこか人ごとのように感じていた

その私も親になり、今なら心の底から母の気持ちに寄り添えただろうと思う

悲しみや絶望感だけでなく、死ぬほど後悔もしただろう

考えても時間は戻らないとわかっていても、きっと自分を責めずにはいられなかったと思うのだ


子供が、家族が、大切な人が家に帰ってくるのは当たり前のことではない

母はそれを身を持って経験したからこそ、毎日毎日私に声をかけてくれていたのだ


若い頃はその気持ちがわからず、随分反抗的な態度を取っていた

ごめんね、お母さん


その母も十数年前に病気で他界したのだが、今でも実家に帰ると仏壇の前に座って、必ず心の中でつぶやく


──ただいま、お母さん。


                   《完》

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ただいま うさ田ケリー @shan-naka

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