楓の夜

@ramia294

 楓の夜

 あれは、修学旅行の夜。

 僕に、妹が出来る。

 僕が生まれてすぐに、母さんは病気で亡くなった。


 仕事を頑張りながら、長い間、僕を一人で育ててくれた父さん。

 ようやく、綺麗で優しい新しいお母さんと出会う事が出来ました。


 二人よりも華やかな三人の家族。

 その家族にもう一人、僕の弟か妹が出来ると聞かされたのは、

 冬の終わり?

 春の始まり?


 生まれてくるその日は、僕の修学旅行の日と同じ日。


 いろいろな楽しみで、眠れない夜が続いたからでしょうか?


 修学旅行の宿の夜。

 僕は、誰よりも早く寝てしまいました。

 

 気がつくと、星が明るい夜。

 スマホが、プルプル僕を呼んでいます。


「はい、僕です」


 電話の向こうは、とても可愛い声。


「もしもし、お兄ちゃんですか?今生まれました。ずいぶん待たせちゃって、ごめんなさい」


 僕は、とっても嬉しくなりました。


「もしもし、お兄ちゃんです。生まれて来てくれてありがとう。これから僕といっぱい遊ぼう」


「嬉しい。楽しみだよお兄ちゃん。ところで私の名前は何?お兄ちゃんは知っていますか?」


 そういえば、父さんも母さんもまだ悩んでいたっけ。


「君の名前は、楓。秋に生まれた君にピッタリ。

僕の妹、楓。これからよろしくね」


「私は楓なのね。お兄ちゃん、これから楓をよろしくね」


 それから僕は妹に、裏山のてっぺんの三本杉の左の木にはカラスの巣があることや、二軒隣の犬のジョンは身体が大きいけど、とても優しい事など、いろいろと教えてあげました。


 気がつけば、澄み切った空のキラキラの星いっぱいの空の東の端が明るくなり始めています。

 僕は再び眠くなって、


「この続きは、家に帰ってからね」


 そして、再び夢の世界へ、戻って行きました。


 翌朝のバスの出発前、僕は先生に呼び出されて宿の電話で、父さんと話しました。


「喜べ、お前に妹が生まれた」


「んっ、楓の事?スマホで……」


 そういえば、この修学旅行にスマホは禁止です。

 僕も、みんなも、持って来ていません。


「良かったね。お母さんと楓は元気?」


「二人とも元気さ。それにしても楓か、良い名前だ。お前の妹の名前は楓に決定だな」


 父さんは、楓が生まれた事を、家族が増えた事をどうしても僕に知らせたくて、先生に連絡してくれたらしいです。


 それにしても、昨日のあの楓との会話は、何だったのかな?



 修学旅行の日程を終えた僕は、あと少しでお父さんとお母さん、そして、楓と住む街へ帰ります。

 僕たちの街へと向かうバスの揺れが心地良く、僕は再び夢の世界へ落ちて行きました。


         終わり


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