お姫様が拐われて勇者が旅立った…らしい
まつり
姫様が拐われて勇者が旅立った…らしい
騎士として近衛兵に昇進した後に姫付きになり4年、いよいよ副団長まで昇進して少しした後に、魔王だかなんだかに姫が攫われた。
いつも俺たち近衛を巻こうとあれこれ要らない工夫を凝らしているので、いつかこんな面倒な事になるだろう事は分かっていたが、その日がいよいよやってきた。
分かっていた、つまりは王への根回しは済んでいるという事で、謹慎だの罰だのは何にもない。
普段の仕事と別に対処しなければならないことが増えたのが、罰といえば罰か。
王はため息混じりに捜索と救出の指示を出した。
我らはそれを受けて出征し、4万人の軍隊で魔王の城へ攻め込み圧倒的な数の差で制圧したのだが姫が救出を拒否してきた。
理由?
聞いたさ、もちろん。
ドラマチックじゃない。
マジでやってらんねぇ。
やってらんないが仕えている方の娘なので、意に沿うしかないのだ。
なんとかドラマチックにしてやろうじゃないか。
敗戦の魔王に多めの金銭を渡して姫の世話を頼み、姫の婆やと教育係の女性、彼女らの護衛で団長を置いて帰国することになった。
護衛は必要は無さそうではあるが、姫と王に挟まれて振り回されていた団長の顔色がビールよりも黄色くなっていたので、ここでのんびりしていた方がいいだろう。
どうせ国に帰ると休めないのだから。
さて、魔王が姫を拐った理由は魔王国という亜人の国家の樹立を認めて貰うための政治主張である。
大国の姫を連れ去れば武力の証明にはなるわけだし、その後の声明が世界に轟くくらい大きな声となる。
悪名は無名に勝るのだ。
いざ国が出来てしまえば、あとは丁寧に誠実な国家運営をしていけば早い段階で認められていく事だろう。
不良が真面目になったときに、元々真面目だった者より何故か数倍真面目なように見られるアレである。
元々真面目な奴の方が偉いのに不思議な話ではあるが。
政治的な判断に基づいていて、変にドラマチックだのロマンチックだのロマンが大事だのがなくて大変に分かりやすい。
助かるったらない。
そしてどうやら話を聞くと、昔一度パーティで姫と会ったことがあり、政治の真ん中にいる姫に手紙で今回の件で相談を重ねて居たらしく、今回の件も狂言誘拐に近いということが分かった。
凄いですね姫様。
爺やが泣いてしまいますよ、悪い意味で。
やってる事は完全にテロリストと言って良い彼らだが、気のいい奴らも多く文化も違うので、珍しい品や特産、あちらで必要だが、こちらでは需要がないものが沢山あるだろうから、やり取り出来るメリットは当方にも相当あるだろう。
全てが終わったあとに、カバーストーリーを流布出来れば民衆はそこまで不快感を示さないだろうし、自分はアリではないかと思う。
しかしまぁ、ここから先は文官の仕事だ。
今でさえ修行僧の様に書類の山奥で暮らしている彼らの仕事を増やすのは本意ではないが、我らも全然本意じゃないので怒らないで頂きたい。
申請とか、経費のアレコレだとか、なんとか厳しくしないで頂きたい。
兵士は剣を握ると強いが、ペンを握るとそこらの女学生にも劣るのだから。
帰国して、王に報告をすると軍が不在の間に、なにやら別の小さな問題が起きており、小さな農村で神のお告げを受けた勇者とやらが、救国の旅、ひいては姫を救う旅に出ると報告に来た様だ。
たった4人でだ。
頭がおかしいのだろうか。
しかも事実は救国と言われるほど逼迫して居ないので、誘拐されたという事実だけを聞いたのだろう。
王は、その神だのなんだのを言い出して城まで帯剣したまま乗り込んで来た異常者をむやみ刺激しない様に、安い剣と少ない金額を渡してあしらうことに成功した。
こんな輩、城では日常茶飯事なので慣れた物だ。
教会のお偉いさんがあーだこーだと金を引き出そうとするのに比べればなんて事ない。
あれは毎回壮絶だ。
この間など、ボロボロの孤児を沢山連れて来て現状を嘆くミュージカルを開催しやがった。
御涙頂戴もののよく出来た劇だったが、率いる教会長の指に光るどデカい宝石の付いた指輪を売れば解決出来そうな事に、途中で気がついてしまったので、笑いそうになるのを我慢するので忙しくストーリーは覚えていない。
「副団長よ、もしあの勇者とやらが姫を助けられたとするならば、それはドラマチックだろうか。」
…まぁ、ギリギリだがドラマチックだろう。
たとえヤラセだとしても、演劇なんかを見てもそう感じるのだから、大丈夫なんじゃないっすかね、知らんけど。
そうする事ができれば姫は素直に帰宅して、国家を樹立しようと忙しくしている、将来国交を結ぼうとしている国の王にこれ以上迷惑をかける事なくこの話は解決できそうである。
文官に持ち帰った案件を託してさらに手紙を書き、魔王国へと行ってもらうことになった。
なんとかして勇者とやらを辿りつかせるので、始めは強くあたって、あとは流れで負けてほしい。
そんな内容の手紙だ。
書いていて悲しくなってきたが、仕事だ。
ついでなので、黒色に金の刺繍を入れたマントを贈り、人の目からみてそれっぽい格好をしてもらうことにした。
彼らの文化で悪そうな格好と、我らの文化での悪そうな格好はやはり違う様だったので、対面した時は面食らった。
肌を見せる事が強者の証らしく、魔王は全裸だったのだ。
確かにそうかもしれない。
鎧などは身体の弱さを隠す道具だ。
裸で強いものは強い。
何とわかりやすい事だろう。
しかし、集中力は削がれたと言わざるを得ない。
揺れる魔王の魔王に何度笑ってしまいそうになったかわからない。
我が王も調印の時は全裸にならなくてはならないのだろうか。
今のうちに身体を鍛えておく事をおすすめしたいところである。
さて、騎馬隊1500人を率いて勇者に追いついたところ、遅々として進んでいない事がわかった。
そこらの野生動物を狩り、その皮や金銭になりそうな物を売って旅の資金にするなどという、原始時代の様な事をしているのだから当たり前だ。
それにしても彼らは運がいい。
この地方には小規模の群れをなす動物と、何千もの大規模な群れをなす動物がおり、後者とは出会っていない様だった。
いくら武器を多少扱えるとはいえ、数の差はどうにもならないのでもう死んでいる可能性も考えたのだが、一安心である。
まぁ、彼らがダメならその辺で見目のいい役者を雇って姫を助けさせるだけなのであるが、もし役者に完全に国の恥部を知られてしまった場合と、純真無垢な何も考えていない村人異常者との後のトラブルを考えた時に、後者の方が政治的な知恵が回らない分問題が少ないとの結論がでたので、出来れば彼ら勇者に辿り着いてほしい物である。
斥候の報告で大規模な群れが勇者のいく先とぶつかりそうとの事なので、500の兵を出して群れを退かせる作戦行動を許可して一部の兵が出撃した。
数の差ではこちらが不利だが殺す事が目的ではなく、野生動物をルートの外へと追い立てるだけなので問題はないだろう。
勇者はなんの疑問もなくその地帯を通り抜けて海沿いの街へ辿り着いた様だ。
大量の牛の足跡などに疑問を持たないのだろうか。
不思議である。
海を渡る事が出来れば魔王国のある大陸へ移動出来るのだが、彼らは勇者と名乗りながらもその実態は猟師である。
地元の知り尽くした地ではまだしも、初見の土地で高価な船代を稼ぐ事など何年かかるかわからない。
モタモタされていては姫が、またどんな我儘を言い出して彼方の王を困らせるだろうか心配だ。
どうせあの異常者達は、我が王の時の様に意味もなく港町の王城へ帯剣したまま乗り込み、船に乗せてくれと戯言を言うのだろう。
あんなのでも一応我が国の国民なので、問題にしたくはないし、そんなクソみたいな成功体験を積み重ねられても困るので、先回りし王城へ行き事情を話した。
会議を行った結果、取るに足らないお使いをして貰って、その対価に船に乗せようという話に落ち着いた。
丁度隣町に注文している香辛料の配送が、牛の群れを避ける為に遅れているという。
…え?
遅配の原因ってそれなの?
マズイことになった。
群れは我らが避けてしまったので、配送され始めている可能性がある。
また先回りして、商人を隣町へ戻す必要が出てきた。
うまくいかない時は本当にうまくいかないもので、商人は兵士の命令だからと言って素直に従ってくれる訳がない。
奴らは金か利益でしか動かない。
やはり想定通りに、報告に戻ってきた部下が途中にある盗賊の根城をどうにかして欲しいと伝言を預かってきた。
軍の仕事の内の治安維持となると断れない。
いや、ここでは我らの仕事ではないのだが、協力して貰った以上お宅の領内に盗賊がいますよ、なんて報告をこの国の国王にする訳には行かないわな。
面倒だが一軍を派遣して盗賊退治だ。
盗賊は30人規模といった所で、そこそこの大所帯だったが、こっちは250人派遣しているのだ。
ほぼ8倍もの人数差があれば負ける事はないに決まっている。
商人も大人しく戻ってくれた様で一安心と言った所、と思いきや、勇者が町から町への移動途中に盗賊の根城の方へと進路を変えた。
はぁ、おそらく酒場で盗賊の噂でも聞いたのだろう。
世直し旅だと思っている彼らは、道すがら盗賊退治と洒落込もうって訳だ。
解決したばっかりだというのに仕事を増やしやがって。
大体4人で30人規模の盗賊団を何とかできると思っているのか。
盗賊と兵士の数が8倍ならば、勇者と盗賊の人数差も8倍程度ある。
無理だって。
君ら猟師なんだから、罠とか張っている人間相手に地の利も人数差も負けていて勝てる訳ないだろう。
しかし、閃いた。
ふわっとした推測でしかない勇者の実力をきちんと測っておきたい。
ここで俺と数人の兵士で待ち構えて確かめてみようではないか。
それによっては、この先フォローの仕方が変わってくるという物だ。
幸い盗賊の服などはここに置き去りだ。
いそいそと着替えるが、臭いがキツく、本当にしんどい。
これも仕事と割り切るしかないが、部下にこんな指示をしなくてならないのが悲しい。
あ、皆、顔も隠してね。
後の任務で接触する可能性があるし、全部終わった後に顔を合わせるかもしれないから。
怪我などしてはつまらないので、念のため警戒しながら待機していると、なんと真正面からやってきやがった。
「この辺りで暴れている盗賊団はお前達だな!俺が成敗してやる!」
そう叫びながらドアを開けた彼らの辞書には、忍ぶと言う字はないようだ。
…辞書そのものすら無さそうだが。
いい加減色々疑問に思ってくれてもいいのだが。
彼らに合わせてこっちも4人。
たった4人では盗賊団とは言えないだろうし、この人数ではこの辺りで暴れているなんて認識をされる程の悪事を働くのは困難だ。
逆にそう出来てしまう程の盗賊ならば、勇者なんかより全然厄介だ。
「正義の剣をくらえ!」
はいはい。
くらいますよ、仕事なんでね。
カキンカキンと数度打ち合ってわかった。
んー…って感じだ。
まだ若い様だし伸び代はある。
筋も悪くない。
…ただなぁ、こっちは十何年も対人戦ばかりやって来たんだよなぁ、なんかお告げだのなんだので旅に出たとかの村では力自慢でした程度の奴らには負ける気がしないやね。
国の拳闘士のチャンピオンが言っていたのだが、何故か格闘技だけは素人が自分でも勝てると思い込んでいることが多いという。
他のスポーツは全然そんな事ないのに、何故か格闘技だけ喧嘩の延長線上にあると思われている様なのだ、と。
格闘技もスポーツも、どっちも幼い頃から専門的な教育を受けて、プロになった後に勝ち抜いて来たというのは変わらないのにだ。
無理よ、そんなの。
可能性なんてないって。
それは兵士にも言えるってもんだ。
素人に毛が生えた新兵ならまだしも、俺達の様に近衛の副団長までのし上がる様な奴にはちょっとやそっとの才能で勝てる訳がない。
もしも世界一の才能があろうが、先人達の知恵と経験でブラッシュアップしてきた最先端の戦闘技術には勝てない。
剣を握れば強くなった気がしちゃうんだろう。
とはいえ今回は勝つ訳にはいかないので、丁度良いタイミングで逃げ出さなくてはならない。
一応腕の立つ奴らを選んだので心配はないが、部下が怪我をしていない事を確認して、勇者パーティの体力が尽きたタイミングで走って逃げた。
当然彼らは追って来ることはない。
追えないよね、打ち合った後に走るだなんて相応の訓練をしてないとできないんだから。
それこそ兵隊訓練でやるようなね。
「…新兵で入って来たら、3年後には使い物になるだろうと期待する、くらいの実力でしたね。」
部下の勇者パーティレビューである。
これは中々の高評価だ。
星3.5ってところかな。
彼も近衛になる程のエリートでなので、物心ついた頃には親にしごかれていたクチだ。
朝から晩まで親父にバシバシと打ち込まれ、学校に通っても友達なんて作る暇もなく剣を振ってきた奴である。
兵士学校へ入学すれば、敷地の外から親父が見張っていてノートに問題点なんかをまとめられ、訓練でヘロヘロになった後に更に扱かれてきた人生である。
そんな彼から見て、たった3年でなんとか戦える様になるだろうというのだから、素晴らしい評価じゃないか。
まぁ腕っぷしだけの話で、捜査や治安維持、戦術や戦略なんかも身につけなければならないので、お世辞の部類なのだが。
一つだけ素晴らしい所があったな、そういえば。
顔が良かった。
あれなら姫もチェンジとは言わないだろう。
一安心だ。
完全に勇者パーティを巻いたあと、軍と合流して飯を食い、身体を清めて、たっぷり寝て起きた後にようやく、勇者は香辛料を受け取ったとの報告を受けた。
頼むから帰りは寄り道などしないで欲しい。
祈りが通じたのか帰りはすんなり行き、今勇者は海の上である。
という事は、我々も海の上という事である。
あちらの客船の船長には話が通っており、こちらは海賊を先行して潰して回っている為、直接見張る事は出来ていないが問題は起きないだろう。
船の中でなんかの弾みで暴れ回ったりしても良いように、向こうに何人か兵を派遣している。
姿を見せない様に気を配るなんて面倒なことをしているので、王や姫よりVIP扱いをしている。
本末転倒である。
先に大陸の港に降り立ち、飯を食いながら勇者達を待っていると、真っ青な顔でフラフラ下船して来る彼らが見えた。
船酔いか。
まぁそうだよなぁ…山生まれ山育ちなんだから。
ゆっくり休みなさいな。
俺も部下を宿に泊めてあげたい。
久しぶりに会議をした結果、ある程度の方針も決まった。
港町から魔王城までには2つほど大きな街があり、中規模の町が4つ、村々が転々としている。
フラフラと寄り道をされると時間だけがかかり過ぎてしまって困るので、団員に芝居をして貰って勇者を次の町へ次の町へと頼み事で誘導して貰おう。
あたかも人助けをしている様な感じだが、結果的に最短ルートで魔王城へまっしぐらだ。
先ずはこの町で商人に扮した者が護衛を頼む事になっている。
馬車に乗ることが出来るので、徒歩よりも大分早く進むことが出来るだろう。
盗賊などは多少襲ってくるかもしれないが、先行部隊が見逃した程度の小規模軍勢なら問題ないだろう。
町から町へと依頼をこなしながら順調に進む勇者達は、凛々しい顔になっていく。
護衛依頼などもあり、やって来る獣や魔物を倒して自信をつけていっているのだろう。
しかし、その表情とは裏腹に彼らは大して成長していない。
それもそのはずで、彼らが違和感を覚えない程度に戦いやすく数も少ない奴らを吟味して通しているのだから、それはそうだろう。
雑魚は5匹、大物は2匹までとルールを決めていて、それでもやばそうな時は我が団自慢の狙撃手が、彼らの攻撃に合わせて倒している。
その際は依頼主役の団員に合図を送り、早く移動したいだとか、商品として素晴らしいからこの場で買い取らせて欲しいなどと様々な言い訳をつけて死体を吟味させない様に配慮もしている。
あっちで困り事、こっちでお使いと右往左往させながら進んでいくと、いよいよ魔王城が見えて来た。
勇者達も気持ちを引き締めた顔で城へと近づいていく。
ここでも一応設定は考えた。
四天王と呼ばれる強大な亜人を倒していかなくては魔王への挑戦権すら与えられないというものだ。
更にはその戦いで、亜人達の悲しいバックボーンが明かされていき、4人目ともなると気持ちのいい武人であるために、敵として戦ったは良いものの、もしかして全ての亜人が悪人ではないのではないかという懸念を抱かせるというストーリーとなっている。
突貫で仕上げた割には良い出来だ。
演劇マニアの団員と四天王役を行う亜人との共作で、こうするのにも訳がある。
というより、ここまでの旅で彼らに色々自力風に対処させているのにも訳がある。
一つは彼らが帰国した後に亜人を敵として認識されては困るからだ。
見た目は違えども、良い奴も悪い奴もいる人間と同じ存在って事をわかって欲しい。
もう一つは、おそらく姫は勇者に旅がどんな物だったかを聞くだろう。
それは作られたものとは言えきちんと経験させて来たものなので、真に迫った話ができるだろう。
それがドラマを産む。
俺たちから見れば茶番も良いところだが、これからの為に必要なのだ。
…もし彼らが想定より遥かに愚かで、相対した敵をそのまま敵としてしか受け入れられない様な馬鹿ならば、姫が帰る気になった後に俺が対処するしかない。
そうはならない事を願うばかりだ。
森で一晩身体を休めた勇者パーティは意を決して城へと歩みを進める。
この勇敢な面構えと雄大な雰囲気を持つもの達が、別に大して強くないし何も成し得てなんていないとは誰も思うまい。
目論見通り四天王戦が進む度に彼らはその対立に疑問を持ってくれた様で、この調子ならば俺の仕事はなさそうだ。
ならばよい。
その方がよい。
四天王最後の相手との友情も結び、いよいよ魔王戦だ。
後ろには囚われの姫がいて、それを見た勇者の心のボルテージも上がっていく。
もし本当に神のお告げだか加護だかがあるのであれば、光り輝く場面だろう。
剣が身体の周りのオーラあたりが。
魔王は相当器用らしく、単体戦闘力がとんでもないその力を使って互角の戦いを演出してくれる。
痛いけど大怪我も致命傷も負わない絶妙な力加減で感心してしまう。
やや勇者が不利になったタイミングを見計らい、間に割り込んで助太刀する四天王の男の亜人。
…いや、本当は人間なんだ。
あれ兜で顔を隠しているだけの団長だし。
ただ毛深くて、ムッキムキに鍛えている為に獣の様に見えちゃうだけだ。
部下思いで優しく上司なんだけどあまりにゴリラが過ぎるだけなのだ。
あれ?コイツはもしかして人なんじゃないかと少し疑ってあげて欲しかったところではあるが…美味しい酒を買って来てあるから、後で渡そう。
戦闘の間に挟まれる同情すべきストーリー。
勇者達がそれに呑み込まれ、魔王の目的、つまりは亜人の独立と人間との交流に理解を示して戦いは終わった。
「俺が…!
俺達が架け橋になってやる…!
…だから罪のない姫様を返してくれ。
人質が必要なら俺がなる。
説得が必要なら俺がする。
…だから!」
いやぁ、感動的だね。
姫も感動した様子で両手を握り見惚れている。
「勇者様…!」
だってさ。
アンタちょっと太ったよな?
どんな自堕落な生活してたんだよ、ここにいる間に。
分かり合えたところで返還されたムチムチの姫をその腕に抱えて勇者は勇者となった。
これはドラマチックだろう!
文句なしに!
とっとと帰れ馬鹿。
彼らが帰路に発った後に、魔王とをして国交が何とかなりそうだという話をした。
後に文官がやって来て細かい打ち合わせがあるから、魔王城あらため亜人国の本当の戦いはこれからであろう。
こんな茶番に付き合ってくれた彼らの今後に幸あれと思う。
帰国すると姫の帰還パーティーが行われており、勇者が高い所で手を振っている。
いやぁ、めでたいねー。
このお祭り騒ぎで経済も良く回ることだろう。
これから彼らはどうなるのだろうか。
増長されても活躍されても邪魔なのだがなぁ…。
亜人国の駐在員として働いてくれるのが理想的なのだが。
そんな懸念はすぐに解決した。
新たな戦いだか人助けだかを求めて何処かへ旅立ったのだった。
あんまりアレなら暗部に王から命令が行っただろうから一安心である。
…いや、一安心か?
今後は本来の実力でやって行かなくてはならないのに。
もしこの勇者の話が物語となりその続編が出るならば、何故だか戦闘力が初期化されてしまっていることだろう。
まぁ、よくある話だ。
過去の英雄が仲間になると意外と強くないとか、そんな話は。
神のみぞ知ると言った所だ。
お告げとかあって来たんでしょ?
大丈夫大丈夫。
これで俺の仕事も終わり、騎士団も通常業務に戻っていく。
…今回は疲れたな…。
数日の休暇を貰い、ゆっくり釣りでもして過ごそうと思う。
そう思い、兵舎の自室でのんびりしていると、王からまた呼び出しがあった。
なんなんだ!
また姫がやらかしたのか?
そう思い向かうと意外な任務を承ることになった。
「この度はご苦労だった。
褒美は追って付け届けることになるだろう。
…所でだ。」
あぁ…嫌な予感がする。
「姫の親友の侯爵令嬢があるのだが、隣国の王子と婚約していてな。」
えぇ…存じておりますよ。
凄く優しい、美人で賢い良い子だ。
「その王子がな…変な女に捕まって婚約を破棄しおった。
聖女とやらと自称する治癒魔法が得意な平民の女なのだが、そやつが令嬢の有る事無い事王子に吹き込んだらしくてな。」
あらら、滅茶苦茶しますね。
「まぁ、それは良い。
しかしだな、問題は侯爵は令嬢を追放しおったのだ。
家格を汚されたとかでな。
令嬢は結婚に乗り気ではなかった様子なのでそちらは悲しんでいる訳ではないらしいが、侯爵は政治的な足掛かりを失った怒りをそうして解消したのだろう。
考えなしの行為の罰はいずれ与えるが、まずは令嬢の保護だ。
これから秘密裏に令嬢の新生活をサポートせよ。」
…はっ。
いや、マジか。
困ったなぁ。
どうするか…なにか商売を始める様に誘導してサクラを使って成功させようか。
そうすれば貴族落ちから速やかに復帰させられるだろう。
それか帝国の皇子と感動的に出会わせて、そちらと婚約させられれば、隣国の王子なんて吹けば飛ぶ存在に成り下がるだろう。
よし、会議だ。
方針を決めなくては。
侯爵令嬢が追放されたが、なんらかの方法で上手くいって元婚約者を見返す作戦のな。
お姫様が拐われて勇者が旅立った…らしい まつり @omatsuri
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