殻の空洞に残る物
noi
これは何だ
(ああ、寒い)
自分は今、何も無い部屋で座っている。胡坐をかいて背を丸めて寒さから逃れようとしている。
(寒いなぁ)
電気の通っていない部屋で白い息を吐きだす。なんでこうなっているのかも分からない。虚しさが心を満たしている。自分が何かで満たされているだけでも感謝しなければいけない。
(暖まりたい)
何でも良い。温もりを感じたい。もう、何を食べても胃の中の熱さえも感じない。血の巡りさえも感じない。
(燃え尽きた)
熱意など、とっくの昔に燃え尽きた。生きる理由は中身の無い身体を動かすためでしかない。
(どうしようか)
過去も無い、未来も無い。この皮と肉に何の価値も無い。ただの殻っぽだ。
(音がする)
2筋、流れる物があった。まだ、自分にも熱が残っていた。ピリピリと何かが破れる音がする。
(汚いな)
辺りには殻が散らばった。薄汚い埃を撒き散らしながら落ちている。
(残っている)
自分の周りにあるのは殻の欠片と埃だけ。自分の型がゴミのように落ちている。
(見つけた)
まだ、残っていた。さっき溢れた小さな小さな既に熱を失った水滴が。
(風が吹いた)
水滴が乾いた。熱も殻も欠片も無くなった。
(これは何だ)
殻の空洞ですらない。
殻の空洞に残る物 noi @noinonoi
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