第5話 ボスゴブリン戦
駅前ロータリー中心の植え込みにダンジョンが発生したようで、そこからゴブリンが溢れ出たようだ。そして人型のデカいゴブリンが現れた。ボス戦が始まる。
「うおおおおっ!!」
自己鑑定を解除。時が動き出す。叫びながら突っ込んだ。なけなしの体力を全てつぎ込む。走り始めてしまえば、狂うのは簡単だった。外からみたら、殺意まみれの顔で笑って襲いかかっているだろう。自分を威圧して、恐怖を殺しているのだと思う。
仮称ボスゴブリンは長くて幅広な剣を手にしていた。青竜刀が近いか。迎撃しようと振りかぶる。そこだ!
「オオオぁああッッ!!」
全力で威圧。欲しいのはほんの一瞬の時間。レジストされるにしても一瞬あればいい。向かって左、ボスゴブリンの右目に傘が突き刺さった。
「燃えろォォォ!」
戦闘で使える要素を考えたら、威圧か生活魔法しかない。着火でもなんでもいい。ともかく刺さった傘の先に向けて、火よ着けと念じる。これでもかと押し込みながら。
「ゴオオオオオ!!」
時間切れだ。反撃で剣を振り回してくる前に手放して離脱。上着をかすめたが、無事。傘はそのまま目に刺さった状態、いや、垂れ下がった。余計にエグれたと思ったのだが、それをヤツは片手で引き抜き、へし折って捨てた。俺の傘~。
これで武器はゴブリンナイフだけ。幸運にも初手は成功した。ここからどう繋げるべきか。マトモに戦ってナイフで勝てるとは思えない。ためらう贅沢は許されない。
「光よ!」
魔力らしきが抜けていく感覚。ボスゴブリンの顔の前に光りが灯る。初めての魔法体験。成功! そこまで眩しくはないが、ヤツが邪魔そうに手を振る。それだけでは消えなかった。
(土か砂か、出ろ!)
手の中に土が生まれる。また魔力が減った。そう何度も使えそうにない。ナイフに威圧を込める。魔力を込めるのは難しかったが、こっちはなんとかなった。右手に威圧ナイフ。左手には目潰し用の土。
相手は片目だ。距離感は正確じゃない。動いて間合いを外すべきだろう。前後に、左右に、ジグザグに動く。空振りを誘ってなんとかしたいが、武器の間合いが違いすぎる。試してみよう。
周りを回るようにしながらチャンスを伺う。思うように振り回してこない。敵の消耗を待つ狼の気分だが、こっちの体力も限界が近い。焦らずに仕留め切るのだ。
(もうすぐ。そこだ!)
設置した灯りを利用して、視界を遮るように誘導。その合間に背後に回り込む。相手は武器を大きく薙払ってきた。やはり隙はない。
そうして振り向いたボスゴブリンの顔に、土を投げつけた。2段構え。目潰しに成功した。
足音をたてながら、相手の周りをぐるぐると周り、威圧し、声を荒げ、相手に消耗を強いる。当然、ボスは武器を振り回して近づけないようにしてくる。チャンスは一度あるかどうか。
目をしきりにこすっている。片目が見えるようになるまで時間がない。ここが勝負どころか。
唐突に使い続けていた威圧を消した。背後から飛びかかるようにして、右の鎖骨のくぼみにナイフを突き刺す。……ボスの手から剣が落ちた。
咄嗟の動きだった。剣を蹴っていた。金属の擦れる音と共に道路の上を滑っていく。ここからはアレの奪い合い、徒競走だ。同時ぐらいにスタートを切り、ダッシュする。ああ、ボスゴブリンの方がわずかに速い。間に合わないのか!? ……まぁ、わざとなんだけど。
足払い。盛大な転倒。
行きがけの駄賃に首裏を踏み抜いて、ゆうゆうと先にゴール。剣を持ち上げる。かなり重いが、両手なら振り回すぐらいはなんとか。
「終わりだ」
体を起こしたボスゴブリンの首に切りつけ、斬り抜けた。刎ねるところまでは行かなかったが、中ほどまでは切れている。大量の出血。道路に広がっていく血の海。油断なくその場を離れる。距離を保ち、死ぬまで待つ。強めの再生能力があっても、血までは回復しないだろう。
やがて黒い煙が立ち昇った。ボスの死体が音もなく溶けて、消えていく。
「なんだと!?」
一部は俺の体に吸い込まれたが、大半がロータリー中央のダンジョンへと戻っていく。黒煙の流れを遮るように間に立っておく。なぜだ?俺の傘も一緒に黒い煙になって、ダンジョンへ入っていく。
あの傘が、世界線移動の原因? 奪われたのなら、取り戻さなきゃならない。因縁が生まれたようだ。リポップするだろうボスゴブリンと再び戦う日を予感する。
手に持っていた元ボスの剣は、黒い煙を出して形が変わった。使い易そうな片手半剣。いわゆるバスタードソード。互いのメイン武器を交換した形かもしれない。
一応、終わったけど、……これからどうしよう?
次の更新予定
駅前ダンジョン『群れの王』 宇礼儀いこあ @uregis-ikoa
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