ある日のボク

瑠璃垣玲緒

目覚め、そして冒険

 あ~良く寝たな。さてと、ここはどこかな?

 入っていたカバンの内ポケットから出て、外へとゆっくりと顔を出す。

 ここはテントの中だ、ということは今日の野営地っていう場所だね。

 ご主人はどこ?

 カバンの中からはい出し、カバンの上に乗る。

 ご主人は外だな、ボクが起きて外に飛んで行かないように入り口を閉めてあるじゃん。でも甘いな、ボクはかしこくなったから出られるんだ!

 ボクは火蜥蜴という種族だから飛んで外を出ることが出来るんだ、すごいでしょ?

 だから入り口の布地が下りているんだ。飛んで入り口まで行き、そして入り口の布地に張り付くように着地する。そして地面に向かって降りて行く。この時注意しなきゃいけないのは、明るい光の方へ行くこと。光がないところは出られないって覚えたんだ、すごいでしょう!

 テントの入り口のすきまから無事脱出して、周りを見てもご主人はいない。

 やった~、今のうちにちょっとだけ冒険しちゃおう!

 久しぶりに木がいっぱいある広い場所に来てテンション上がる!

 よし先ずは1番太そうなあの木を目指すゾ!


 大きな木に到着したのでちょっとだけ一番下の枝の上で休憩。ボクはまだ子どもだから、たくさん続けて飛べないからね。せっかくだから少し歩いて登ろう。木は登りやすくて大好き。だんだん楽しくなって来てスピードを上げて登っていく。

 途中でリスがボクを見て慌てて逃げて行ったよ。ボクは小さいけど竜の一種だからね、当然強いんだ!

 えっ、種族名に蜥蜴って付いているじゃないか?って。

 羽があって鱗があるのが竜種なんだよ、だからボク達は竜の一種なんだ!

えっ、走竜や海竜は羽が無いけど竜種だから違うって?

 大きくなるのも竜種の特徴の一つだし、羽で空を飛ぶ代わりに、素早く走る丈夫な足や海を自由自在に泳ぐヒレがあるんだって。

 とにかく竜種は羽があるか、羽の代わりにめちゃ早く移動出来る手段があるんだ!

 忘れるところだった。竜種と蜥蜴の一番の違いは爪と牙があるか、ないかなんだ!それで納得出来たなら良かったよ。


 良さげな風が来た時は飛んで上まで行き、疲れたら枝の根本に下りてちょっと休憩。また歩いて登るっていうのをくりかえし、時々鳥の巣や幹に開いた巣穴を覗いては、生き物達を驚かせて楽しんだりしたよ。

 一番てっぺんに着いて周囲の景色をまんきつした。


 さてご主人のところへ帰ろうっと!帰りは滑空して気をらせん状っていう方法で、木の周りをぐるぐる回りながら降りていくんだよ。でもそろそろ枝に休憩しようと思った時に、強い横風が吹いて来てバランスを崩しちゃって、枝の先の方に降りるつもりが幹の方になっちゃたの。枝葉のおかげで勢いが少し落ちたからぶつからずに済んで良かったよ。

 出発しよう、ん?視線を感じるゾ。

 視線の先にはボクを余裕で呑み込めるくらいの蛇が飛びかかって来ていた。とっさに飛び上がり、すぐに炎を吐き出す。びっくりしたから威力はなかったからやっつけることは出来なかったけど、慌てて逃げて行ったから大丈夫だろう。

 さてと、気を取り直して出発。


 らせん状ってやつは結構気を使うので大変かも。こんな高さまで登ったことないし、ご主人の家の近く以外で長く飛んだこともないし。でもご主人のところに帰りたいから、迷わないように降りるにはこの方法しかないんだよね。もう少し視界が良くなったら、ご主人のテントが見えるかなぁ。


 あっ!火だ。きっとご主人がテントに帰って来てご飯を作り始めたんだ。あっちに向かえば楽に帰れる、やった~。

 火を感じる方向へ滑空をした。


 自分で思っていたよりもずいぶん遠くに来ていたらしい。滑空だけで帰れず林の中だから途中の木の枝に止まり体勢を整えて飛び立つ。

 早くご主人に会いたい。だってボクまだおはようのあいさつしてないもん。カバンの中に居たってことは、ボクを寝たまま連れて行ってくれたってことだもん。

 起きてる時は肩のところに乗せてもらうんだよ。それで疲れたり、眠くなりそうな時には胸ポケットの中に入るの。ポケットの中は暖かくてとっても安心するの。起きるとポケットから顔を出して外を見るんだよ。でもポケットは歩いている時以外は落ちちゃうことがあるから、最初から寝ている時にはご主人は入れてくれない時が多いの。残念だけど。


 テントが見えたから広場の手前の木でちょっと休憩。ご主人の様子を伺うとテントに向かってる。こっそり帰るのはなしになっちゃったな。一気にテントまで飛ぶために歩いて少し上に登った。広い場所なら滑空からそのまま飛ぶのも簡単だもんね。大人になればどんなところでも自由に飛び回れるんだけど、まだボクには難しいんだ。


 無事にテントに着地したよ。開いてる入り口の隙間からご主人の肩に後ろから飛びついた。

 「鞄のポケットにいないから探そうと思ったよ」

 そう言ってボクを見て笑って撫でてくれたよ。

 「キュイッ!(ただいま)」

 「ん?その鳴き声はただいまだな?という事は抜け出して外に居たのか」

 あッしまった!ここは『会いたかった』とか『おかえり』とかだった。

 「もう閉めてもテントから出れる様になったって事かぁ。成長して嬉しいけど、まだ子供だから心配なんだよなぁ」

 困った様な顔で笑いながらボクを撫でつつテントを出るご主人。今はご主人の相棒達は居ないみたいだからボクがひとりじめ。先輩達は優しい、きっとボクが寝ていたから気を使ってくれてる。だから思いっきり甘えさせてもらうんだ。


 優しいご主人はボク達の帰る場所なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある日のボク 瑠璃垣玲緒 @reo_na

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画