第2話 ゴブリンキング

目を覚ますと、そこは赤黒い炎が立ち上る地獄でも金色(こんじき)の空が広がる天国でもなかった。辺り一面、土の壁。冷たい風が吹き、道が一直線上に続いている。どこかの洞窟だろうか。「……どこだよ、ここ。」

わけも分からず立ち上がって辺りをぼーっと見渡していると、前から小さいなにかがこっちに走って近づいてくる。

どうすることも出来ない僕は立ち尽くしていた。

走ってくる何かは直ぐに僕の目の前に来た。

緑色の肌、尖った大きい耳。細い目に不気味な笑み。

……姿を見て一瞬で分かった。

あれはゴブリンだ。RPGゲームやファンタジー漫画でよく見るモンスター。

モンスターが好きな僕もノートにいくつも書いていた記憶がある。

そんなゴブリンが今僕の目の前に存在している。これは夢なのか……?でも、さっき僕は確実に……。

困惑している僕を気にも留めずゴブリンは僕を見上げて口を開いた。

「クロノス・ノア様。お待ちしておりました。

どうぞこちらへ」

ゴブリンは両手を掴み、僕を引っ張ってどこかへ連れていく。

クロノス・ノア?俺の名前はそんなんじゃないんだけど……

「ちょ、ちょっと人違いがありませんか?僕の名前は、降矢 碧(ふるや あおい)なんだけど!?」

「いいえ。あなたはクロノス・ノアです。あなたは選ばれたのです。"あのお方"に早く会わなければなりません。」

意味が分からない。選ばれた?あのお方?

状況が追いつかない中、僕はゴブリン達に引っ張られる。

洞窟を少し真っ直ぐ進むと右手に分かれ道が見えた。

「ここを右に曲がります」ゴブリンにそう言われ、右へ進むと、ひとつの大きな部屋?のような場所に着いた。

入口からずーっと続く長いレッドカーペット。そして僕は目の前の光景に呆然とした。

巨大な玉座に座る、巨大なゴブリン。恐らく5メートルはある。そのゴブリンは、小さい王冠を被り、光り輝く杖を持っている。耳には紅に輝くルビィのイヤリング、指には青く光るラピスラズリの指輪をしている。

ここの王と言わんばかりの、威厳、圧、風格をしていた。押し潰されてしまいそうな感覚が体全体に感じる。

レッドカーペットを挟み、双方には沢山のゴブリンが一列に立ち並ぶ。

「お越しいただきありがとうございます、クロノス・ノア様。私はゴブリンキングと申します。我々はあなた様が来るのを心待ちにしておりました。」

ベースのような、体の芯にくる重低音の声。ピリッと、ますます緊張感が増す。

「あなたは誰なんですか!?ここはどこなんですか!?そもそもクロノス・ノアって……僕は降矢 碧なんですけど!」

勇気を振り絞りゴブリンキングに聞いた。

ゴブリンキングは頬杖をついた。

「もちろん、あなたが"元々"降矢 碧という御方である事は我々一同承知しております。ですが、あなたは我々に選ばれたのです。我々の救世主として。」

意味がさっぱりだ。

「さっきも聞いたのですがその"選ばれた"というのはなんなんですか?」

「私たちのダンジョンは今、経営の危機に直面しております。冒険者は他のダンジョンを利用し、常連も、最近できた別のダンジョンへと移られてしまいました。このままではこのダンジョンは潰れ、私たちは野生での生活を余儀なくされることでしょう。私達はその危機を脱するため、あなたの死後、別の世界から呼び出したのであります。」

死んだ後に呼び出した?というかここは俺がいた所と別の世界?

「いわゆる異世界転移というやつでしょうか。体は、前世のあなたとは容姿が全く異なりますが、年齢は同じものになります。」

ってことは、僕は今17歳……反射するものがないから容姿は全然分からないけど、手を見た感じだけで何となく違うとわかる。

「なんで、そんなことができるんですか?」

「それが私の力なのです。私に与えられた神の力。」

神?よく分からないが相当凄い人なんだという事だけは分かった。

「この世界は、人間とモンスターが共存しております。ダンジョンはひとつの"施設"という形で、冒険者の戦闘の練習や、経験を積むために運営をしているのです。」

……僕が知っているダンジョンとは全く違う。

ダンジョンって聞くと地下迷宮とか洞窟とか、自然にあるものだと思ってた。けど、それを運営しているとは……

「先程も話したように、ここ最近売上がなく、ここは潰れかけております。そこで、あなた様にここの運営者になってもらい、私たちを助けて欲しいのであります。」

「そんなにすごい格好で、僕をここに呼ぶこともできる。そんなすごいお方なら、何とかできるんじゃないですか?」

「私もこの身につけてるものが売れるなら売りたいです。ですが、これを外すことが出来ないのです。外すと神の力は消え、私はこの世から居なくなってしまう。私は神の力によって延命しているのです。」

指輪や、イヤリングは彼の命綱、いや命そのもの……なのか。

「でも、ダンジョンを運営って。僕、何も分からないし...」

「その辺はご心配なく。うちの者たちに、いつもここでやっている事をあなたに教えますし、サポートも手厚く行いたいと思います。

それに、もちろんタダではやって頂きたいとは思っておりません。このダンジョンの景気が復活し、もう困る心配がなくなったら、あなた様を元の世界に"生きている状態"で戻しましょう。」

それってつまり……生き返れる、のか!?

「そんなことができるのですか!?」

夜真那のノートを僕は絶対に返さなくてはならない。そして、彼女に謝らなければならない。彼女に対する気持ちは、友情なのか、恋なのか。僕には分からないけれど、初めて自分に優しくしてくれた彼女にこのまま会わない訳にはいかない。

「えぇ。可能でございますよ。神の御加護により、一回だけ。」

何がなんでもいい。自分の後悔を、もう一度やり直せるのなら。

「どうでしょう?クロノス・ノア様。私達からのお願い、引き受けてもらえないでしょうか。」

これから、どうなるのかなんて僕には分からない。だけど、僕はもう決めている。

「やります。やらせてください!!このダンジョンを、世界一にします!!」

ゴブリンキングは安堵し、頬笑みを浮かべた。

周りのゴブリンたちは、歓喜の声を上げ盛り上がった。

やるからには徹底的に。

これから僕の……ダンジョン生活が始まる。

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勇者よりダンジョン経営の方が儲かる件について あした ハレ @tacookey

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