急
美月は手のひらに汗をかきながら、再びスマホを握りしめていた。楓のLINEの通知が消えない。震える指で画面を開き、再度そのメッセージを見つめる。
「助けて…」そしてその後に送られた写真。目を閉じてみても、あの恐怖の顔が浮かぶ。何度も何度も繰り返し頭の中で再生され、心臓が締め付けられるような感覚に陥る。目を開けた瞬間、楓の顔がまたそこに現れた気がした。
その時、ふと違和感を覚えた。スマホの画面が、少しぼやけている。目の前の文字が、くっきりと見えない。自分の目が疲れているのだと思い、何度も瞬きをした。しかし、画面は一向に元に戻らない。
その瞬間、スマホの画面に映る楓の顔が、まるで本物のように動き始めた。「美月、お願い、助けて…」楓の声が、画面越しに直接耳に届いているかのように響く。その声は、画面から漏れてくる音ではない。まるで楓が、実際に自分の目の前にいるかのような感覚だ。 「何これ…」思わず呟く。その言葉が口をついて出るのと同時に、目の前の空間が歪んでいくような感覚に襲われる。部屋の壁が不自然にぼやけ、家具の角がひときわ鋭く突き出ているように見える。もはや、スマホの画面と現実の区別がつかなくなっていた。 「や、やばい…」足元がフワフワしている。息が荒くなり、心臓の鼓動が耳の中で鳴り響く。 画面の楓は、再び悲鳴を上げる。「美月、助けて!」その声が、ただのLINEのメッセージとしてではなく、目の前に直接届いているような感覚が、ますます強くなる。 「本当に、どうしたら…?」美月はパニックに陥り、震える手でスマホを握りしめながら、楓に返信しようとする。しかし、その時、画面に映る楓の顔が急に歪み、まるでその表情が変わっていくように見えた。目がただの黒い穴のように見え、口からは奇妙な歪んだ笑顔が浮かび上がる。その瞬間、画面越しに楓が現実世界の部屋に飛び込んできたかのような錯覚を覚えた。 目の前の部屋が一瞬にして変わり、まるで楓の部屋に自分が引き寄せられているような感覚に襲われる。
「何が起きてるの…?」その言葉を呟くことすら忘れ、ただただ現実とバーチャルの境界が曖昧になっていくのを感じていた。 ふと視線を移すと、部屋の隅に見慣れない影が浮かんでいることに気づく。それはまるでスマホの画面からそのまま抜け出てきたような存在だ。影は不自然に歪み、体の輪郭がぼやけている。その影は、ゆっくりとこちらに向かって歩み寄ってくる。美月の足がすくむ。 その瞬間、スマホの画面から「美月、もう遅いよ」と冷たく響く声が耳元でささやかれる。「遅い…?」その言葉を耳にした途端、まるで世界が一瞬にしてひっくり返ったように感じた。目の前の影がすぐそこまで迫ってきている。 「逃げなきゃ…」美月は一歩踏み出すが、体が重く感じて動かない。スマホの画面を握りしめた手が、まるで石のように硬直している。目の前の空間が歪み、楓の声が再び耳に届く。「美月、お願い…」その声が、今度はどこからともなく響く。声が現実とバーチャルの境界を越えて、実際に部屋の中で聞こえてくる。 その時、美月はようやく気づく。現実とバーチャルが交錯し、今や自分の目の前に広がる空間のすべてが、画面越しの出来事とつながっているのだ。スマホの画面の中の出来事が現実に影響を与え、楓が送ったメッセージの中に、恐ろしい力が宿っているのだということを。 美月は思わず目を閉じ、頭を抱える。声を上げたくても、体が動かない。身の回りの空間が、まるで全てが崩れ去るかのようにぐらぐら揺れ始める。「いやだ、いやだ、こんなはずじゃ…」必死に現実逃避しようとするが、もう遅い。 その時、目の前に現れた影が、静かに美月の顔に近づき、その冷たい手が美月の肩に触れた。目を開けたとき、画面の中の楓の顔が目の前に広がり、次の瞬間、深い闇が美月を呑み込んだ。 それが、彼女の知らない世界への入り口だった。
了解しました。美月の心の変化と現実と虚構の境界が崩れる描写を、3500字程度で書きます。しばらくお待ちください。
美月はその道を歩き続けていた。まるで自分を試すように、ただひたすらに歩き続ける。周りの景色はますます歪んでいき、目の前に現れる人々も、彼女に話しかける声も、すべてが異常に感じられた。まるで現実がぐちゃぐちゃに混ざり合っているような感覚だ。どれが本当の世界で、どれが虚構なのか分からなくなる。目を閉じて、深く息を吸い込むと、風の音が耳に届いた。風の音。昔、楓と一緒に聴いた、あの海風の音。それなのに、今はただ不快な音にしか聞こえなかった。
「なんでこんなことに…」
美月は呟いた。彼女の心の中で、楓のことが浮かんでは消える。SNSでのやり取りも、あの13日後を迎えた恐怖も、すべてがぐちゃぐちゃになっている。しかし、どんなに頭を振っても、その感覚は消えなかった。
突然、何もない空間から声が響いた。
「美月、どこに行くの?」
楓の声だ。美月は周囲を見回すが、楓の姿はどこにも見当たらない。しかし、その声は確かに自分の耳に届いている。あの日、楓が送ってきた「助けて」のLINEが頭をよぎり、胸が締め付けられる。美月は自分を責めた。あの時、もっと何かできたのではないか。あんなハッシュタグを使うなんて、どうして気づかなかったんだろう。でも、今はもう遅い。その時の自分が、楓を苦しめた。助けられなかった。
「なんで、楓…。なんで私だけ、こんなに苦しまなきゃいけないの…」
美月は怒りを覚えていた。自分に向けられた怒り、そして楓に対する怒り、SNSという場に対する怒り。すべてが無意味に思えてきた。世界はどんどん不安定になり、そしてそれが美月の心に強く作用していく。
「こんなに辛いのに、どうして誰も助けてくれないの?」
美月は声を上げた。周りの景色がさらに崩れていく。建物はぐにゃりと歪み、道路は波打っている。まるで夢の中にいるような気分だ。
「こんなもの、全部おかしい。誰も私を理解してくれない。SNSなんて、何も意味がない。私はただ、みんなの言葉に振り回されて、こんな目にあってるだけだ!」
美月は、怒りが抑えきれず、言葉をぶつけていた。自分が感じる理不尽さに対して、ただひたすらに叫ぶ。楓に、SNSに、周りの人々に、すべてに対して。
「こんな世界、消えてしまえばいいんだ!」
声が空に響いた。周りの景色が揺れ、煙のようにその場から消えていく。美月はただ歩き続け、叫び続けた。何もかもが自分の思い通りにならない。楓を助けられなかった自分が、どんどん嫌になった。あの日、あの時、何もできなかった自分が許せなかった。
「SNSなんて、やっても意味がないんだ。あんなものに依存して、何になるっていうんだ!みんな、みんな、こんなことに巻き込んで!」
美月は震えていた。息が荒くなり、手が震え、頭がぐらつく。目の前の景色が、再びひび割れていくような感覚を覚えた。どこかで楓が笑っているような気がした。しかし、それはどこにもいない楓の姿だ。
「ふざけんな、ふざけんな!」
美月は自分の足で、地面を蹴り飛ばした。どこか遠くで、笑い声が響く。楓だろうか。あの13日後の恐怖が、また蘇る。全てが、ぐちゃぐちゃになっている。
「くたばれ!全員!楓のやつもカフェであったやつも全員許さない!助けて...。誰か助けてよぉ。楓...お姉さん...。助けてよ。そしたら○すから。」
あはははははははははは
と美月は自分人身の声が頭の中でガンガンと反響する。
息が弾み、手のひらに汗が滲んでいた。周りの景色が、再び静まり返る。美月は、ただ立ちすくんだ。
「…なにをしてるんだ、私は」
静けさが支配する中、美月は自分の手を見つめていた。自分がどれほど無意味に怒っていたのか、ようやく気づいた。そして、その気持ちが、どんどん薄れていく。
「…何が、怖かったんだろう?」
その問いが、頭に浮かぶ。あの日からずっと、何かに追われているような気がしていた。楓が言っていた、「13日後に何かが起きる」その言葉に、ずっと縛られていた。でも、今、その恐怖は消えた。何も起きていないのだ。あれはただの虚構だった。自分が作り出した幻覚に過ぎなかったのだ。
美月はふと、振り返ると、暗闇の中に一筋の光が見えた。それは、まるで現実世界に戻るための道しるべのようだった。
そして、何事もなかったかのように、美月は歩き出す。その光に向かって、ただ歩き続ける。
次に目を覚ましたとき、美月は再び日常の中に戻っていた。SNSのアプリを開くと、目に飛び込んでくるのは、以前と変わらぬ友達からの投稿や通知。何も変わらない世界が広がっていた。
でも、心の中で何かが違うと感じていた。美月は、しばらくそのSNSを見つめていたが、ふとその手が止まる。そして、決意を固めたように、アプリをアンインストールする。
「もう、やめよう」
理由はよく分からない。ただ、もう二度とあの恐怖を味わいたくないと思った。SNSの中で求められる自分に疲れた。もう、誰かに振り回されたくない。それが美月の心の中で、しっかりとした答えとなった。
そして、普段の生活へと戻るのだった。何事もなかったかのように、美月は日常を送っていた。だが、彼女の中で一つだけ確かなことがあった。それは、あの日、あの恐怖の中で得たものが、彼女を強くしていたということだ。
13日の呪い 黒猫亭 @taropa
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