第2話 美容院に行こう
2013年6月頃
翌日。登校中に他の友人と談笑する芦田さんを見た。目が合って軽く手を振ってくれたのが嬉しかった。
けれどそれと同時に、彼女にとって私なんて所詮たくさんいる友人の1人にすぎないんだ。と思った。
彼女の隣にいたのが男子生徒じゃなくてよかったと思ったけれど、朝から情緒がめちゃくちゃだ。
芦田さんは私の一番だ。
けれど芦田さんは私のことをどう思っているのだろうか。
もっと彼女と仲良くなりたい。彼女の一番に私はなりたかった。
3時間目の5分休み、気がつけば私はこう言っていた。
「芦屋さんは、かわいいと思う髪型とか……ありますか?」
「林さん、イメチェンするの?」
「ま、まあ、そんなとこ」
「私的にはやっぱり髪型はショートが似合うと思う!林さん髪もちょっと茶色いしショートも絶対似合うよ!」
芦田さんは目をキラキラさせながらそう言った。
その眼差しが眩しすぎて目を逸らさずにはいられなかった。
芦田さんは私の容姿を褒めてくれた。
ショートが似合うと言ってくれた。
つまり、私の髪型はこれからショートだ。間違いない。彼女はそう言っていた。
私は姉にメールを送るのだった。
『お姉ちゃんがいつも通ってる美容院ってなんて名前』
『hair salon risa』
『ありがと』
『1人で行けるの?』
『難しいかもしれない』
私は放課後、姉に美容院に連れて行ってもらった。
姉がいつも行っている美容院だけあって思ったよりもずっとオシャレなところだった。
散髪中に美容師さんに色々と聞かれないか不安だったのだが、インキャだと察せられたのか一言も話かけられなかった。本当にありがたい。
今までなんとなく美容院は苦手だったけれど、悪くないと思った。
私は姉の真似をして、ミディアムの茶色い髪をショートボブにした。
目を隠していた重い前髪が一気に軽くなった。アイロンをかけてもらったので毛先はくるんとカールしている。
顔面レベルが30点から60点にアップグレードした気分。
結局普通以下だが、それでも自分の顔がだいぶマシに見えた。
芦田さんに見せたらどんな顔をするだろう。やっぱりかわいいって言ってくれるだろうか。
いずれメイクの仕方とかも覚えないといけない。芦田さんともっと仲良くなりたいから。
私はうっかり笑みをこぼしたらしい。そんな私を姉はにこやかに見ていた。
*
午後6時頃。姉は大学の寮に住んでいるので私1人で家に帰った。
毛量が一気に減って少しスースーする。
家に帰ったら、すぐ風呂に入った。
私は姉に買ってもらった新しいシャンプーを湯船に浮かせる。以前までは100円ショップの安物を使っていたが、今日は違う。美容院でおすすめされた少し高めのものを買ったのだ。
「いい匂い……」
私の家の風呂は1人で入るには広すぎるくらい大きい。だから足を伸ばせるし、肩まで浸かれる。
しかし今はなんだか落ち着かない。
芦田さんは今何をしているだろうか。もう家にいるだろうか。それとも部活で忙しいのだろうか。
体育館でバレーをする彼女を想像して、少し興奮してしまった。
風呂を上がった私は、新品の下着とおろしたてのパジャマに袖を通した。
ドライヤーで髪を乾かしてリビングに戻ると、母から声をかけられた。
「ちーちゃん、そういえば美容院いったんだっけ?」
「あー、なんか切りたくて」
「ふーん……いいんじゃない?結構似合ってるわよ」
母はそう言いながらふふっと笑った。
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クラスのマドンナを好きになったんだけど 細猫 @qoaWIqmskswm
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