クラスのマドンナを好きになったんだけど

細猫

第1話 芦田さん

 2013年6月頃


 私は浮いている。


 いや、物理的な方じゃない。クラスに馴染めてないということだ。

 高校に入ってからもうすぐ二ヶ月が経つがほとんどクラスメイトと話したことがない。


 理由は多分、私がコミュ障すぎるから。

 中学時代、私はほとんど学校に行ってなかった。だから授業の内容もほとんど理解できないし、クラスに友達もいない。


 そうなってしまったのは全部努力をしなかった私のせいであり、自業自得だ。


 正直今学校は辛いし、投げ出したくもなる。


 しかしそんな悩みを打ち消す「通いがい」が私にはある。


 芦田さん、クラスの委員長だ。

 成績優秀でスポーツ万能。そのうえ美少女で性格もいいという非の打ち所がない人間である。


 神は二物を与えずとはよく言ったものだが、そんな彼女に私は今恋をしている。

 女が女に恋をするなんてありえない、と最初は思ったのだがこの感情は本物らしい。


 彼女がいるから学校に行ける。


 芦田さんの隣の席になれたから今の学校生活を楽しめる。


──芦田さんともっと……


「ねえ、林さん」

「うわっ!」

 突然声をかけられ思わず変な声が出てしまった。


「そんな驚かなくてもいいじゃん」


 彼女はそう言いつつ、手に持った紙パックのコーヒー牛乳をチューチューと吸った。

 芦田さんだ。間違いない。この天使のように美しい声は間違いなく芦田さんの声である。


「ふふっ、今日私部活ないからよかったら一緒に帰らない?」

「あ、はい!いいよ!」

「おっけー、じゃあ放課後ここで待ってるね」


 彼女はそういうとそのまま教室を出て行った。

 突然の出来事に驚きと喜びで体が硬直した。

 あの芦田さんと放課後一緒に帰れるなんて夢だろうか。しかもわざわざ向こうから誘ってくるなんて。


 私はどくどくする心臓を必死に抑え、なんとか平常心を取り戻した。


*

 気がつけば16時半。


「それでね、私、ぞくってしてびっくりしちゃって、わーーっっって叫んじゃったの!おかしいでしょ?」

「確かにそれ私も苦手だけど、叫ぶことはないね」

 私たちはヘッドスパワイヤーについて語り合いながら学校からの帰路を辿っていた。


「あ、私こっちだから」

「うん、また明日ね」


 私は芦田さんと別れて家までの道のりを1人で歩いた。

 ヘッドスパワイヤーは正直どうでもよかったが、芦田さんと話せたことが何よりも嬉しかった。

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