ズズイシツ。帰る。

サカモト

帰るを開封動画で考える。

 帰るを開封動画で考える。

 たとえば、全国鎖式展開無休営業の小型店舗の店頭にて、無作為商品梱包食玩を見つける。しかも、その箱の正面、あるいは側面、背面に印刷された商品群の中に、個人の物欲を刺激する商品を発見する。所持する自由資産の許容範囲と商品価格を並べ、購入するか否か、心の葛藤との折り合う展開したとし、しかし、商品は無作為商品梱包食玩であり、箱の中身が求める品が入っているとは限らない。かりに、ここにある商品を出荷梱包単位数で買えば求める手に入る可能性は極めて高い。だが、それは莫大な資産を失うことと同居となる。もとより、来店の目的は、200ミリリットルの低脂肪牛乳をひとパック買い求めに来ただけなのに。無作為商品梱包食玩を買う、と、そういうつもりでの来店ではなかった。また、実際の品が箱に描かれたものと、同等の品質なのかへの疑惑もまた同時進行となる。商品は写真と違う場合があるよ、という、箱の注意書きへの懸念が捨てきれない。それに、そう、もし出荷梱包単位数で購入とて確実に入手とならない場合もあるよ、との注意書きもあり、いわば出口を塞がれた状態になる。

 やはり、やるしかないのか。だが、出荷梱包単位数で買うと巨額の出費になるし、未来ぶんの食費、あるいは衣類の新規購入を再検討することになる。しかたがない、やめておくか。ここに挫折は完成する。無論、一度、自由に上昇した心の高まりは強固に残る、それでも、これでいいんだ、これでよかったんだのさ、と言葉だけで抑え込みつつ、家へ帰ることになる。しかも、空からは突然の雨が降りだし、あいにく傘はない。そこへ激しい稲妻が鳴る。ところが、ここに至り、稲妻の光は天啓の光と同期し、そうか、開封動画を撮影する名目にして、出荷梱包単位数で購入すれば、なにかに許される気がする。

 汝はすぐさま、踵をきび返す。

 汝は馳せる全身で、ふりしきる雨をはじきとばし、店へ帰る。

 汝はずぶぬれで出荷梱包単位数で買う。低脂肪牛乳も買う。

 そうさ、帰りにこそ、人生の開封を得ることがあるのかもしれない。


 

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