この漢字の羅列はなんだ、と一瞬考えるが、あぁ、あれのことか、とすぐに思い当たるものに出くわす。
と、また見慣れない漢字の羅列が現れる。
固有名詞をことごとく排しているのだ。
なぜそんなことをするのか。
漢字10文字で表すより、カタカナ4文字で表せる便利な言葉があるのに。
そこにこそ、この文章の面白みがある。
あえて遠回りをする。
そうすることで、普段何気なく使っている言葉を、再認識しているのだ。
などと悦に入っていたのも束の間、「私は今、何を読んでいたんだっけ」と、一時茫然とする。
そうだ、「帰る」ことに関するエッセイを読んでいたのだった。
ここで作者の罠が発動する。
「帰る」などということも言わば自明のことで、その手触りを再確認しているのだから、冒頭の前振りがここに来て生きてくるのだ。
ちゃんと「帰る」ことの論考に帰結しており、まんまと良い時間を過ごさせてもらいました。