実家に帰省したら蛇がいた

ちゃんこパフェ

第1話 こいつはなかなかヘビーだぜ…

2024年12月3日

天気∶晴れ

 母である大蛇恋慕(オロチレンボ)からこんな電話が来た


「正月の間どうせ暇なんでしょう?こっちもボケて竜也の顔忘れるようなことしたくないから、元旦あたりこっち帰ってきてちょうだい!」


 頼みごとにしては上からで、命令にしては愛のあるメッセージだった。俺自身も久しぶりの実家を拝んでやろうという気持ちが少し湧いてきている


 とりあえず、今のうちに友達との予定は調整したほうがよさそうだ


2024年12月29日

天気∶やや曇り

 12月30日に帰ること、夕飯を用意してほしいということをLI○Nで送った


 夕飯のリクエストを聞かれたので、ピザと答えたら飯抜きにされそうになった

慌ててカツ丼と訂正すると、パックの肉と卵、小麦粉の写真が送られてきていた


 実家での1食分はなんとか確保したが、もしこのリクエスト提出が正月の間に続くと考えると、少し背筋が寒くなった


∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼

 2024年12月30日の本日は、実家への帰省という一大イベントの日である。

11時頃に早めの昼ごはんを食べ、俺は3時間の電車ツアーへと向かっていった。


実家と言ってもあくまで関東域内。

都会のビル群を抜けたあとは、灰色の空と茶色い畑、葉のない木々と歯のなさそうなご老人がメインの風景である。暇つぶしのネット小説も読み終わってしまった俺は、少しばかりの睡眠をとることにした。


 乗り換えミスによる1時間ほどのツアー延長を経て、時刻は午後の5時。

冬の日照時間の少なさと、田舎の明かりの少なさが重なり、駅の外には深夜と見間違えるほどの闇が広がっていた。

肌に刺さるような寒さと、鼻に刺さるような堆肥の匂いが風に乗ってやってくる。

故郷による手厚い歓迎に鼻を啜るほどの感動を覚えながら、俺は1枚の板をポケットから取り出し、我が家の大黒柱に救難信号を送った。


「おかえり。ほれ、手厚い歓迎ってやつだ、受け取れ。」

「おー、ありがアッツ!!!今さっき買ってきたやつじゃねえかよ、そんなもん投げんな!!」

「ヘッヘッヘ」

駅での感動の再会にコーヒー熱弾頭を投げてきたおっさんは、父の大蛇大昌(オロチダイショウ)だった。

実家を出てから1年も経ってないのに、おじさん度が進行し毛根は全滅というアップデートが成されている。運営は随分と思い切ったものだな。


「ほれ、さっさと乗りな。こんな寒い中立ってたら俺の毛根も縮んじまうよ」

「ないもんが縮むかよ、お坊サマ」

「お前はそのお坊サマの息子だってことを忘れるなよ?たしか俺はお前くらいの歳n「お車失礼します」

父はたいあたりの返しにだいばくはつを放ってきた。失うものがない奴が強いというのは本当だったのか。


 車の中にいる間、俺達はお互いの近況を伝え合っていた。自分の知る人がどんなことをしているのか、自分がどんなことをしていたのかを話すのはこんなにも楽しいのかと、我ながら驚きながら父と話をしていた。


「ああ、そうだ。竜也、我が家に家族が増えた」

「…流石に18歳離れた弟妹は俺も嫌だぞ」

「そっちの体力は俺ももう持たないなぁ…。じゃなくてな?ペットを飼い始めたって話だ」

「ペットぉ?」


『アンタら以外の命の責任は持てないから、ウチではペット禁止だよ!』


 母の言葉が頭に響いた。ペット扱いされているのかと妹と共に怒りを抱いた小学三年生の記憶がフラッシュバックしてくる。


「ウチってペット飼わないんじゃなかったか?」

「お前が東京に出て暮らしに余裕ができたからだろうなあ。光音(ミツネ)が飼いたいって言い出したと思ったら、次の日には家族が増えてたよ」


 どうやら俺の妹はいつの間にやらに家族の言いくるめが上手くなっていたらしい。兄妹の成長に誇らしさを感じていると、いつの間にか辺は住宅街になっていた。


「そろそろ着くな。コーヒーは飲み切っといたほうがいいぞ、光音が騒ぐから」

「わかった。ところで、ペットって何飼ったんだ?犬?」

「…まあ、見ればわかるさ」「焦らすねえ…」

 変わってないだろうと思った我が家にペットというスパイスが足され、俺の気分は最高潮。

勢いでコーヒーを飲むと、肺に入りそうになってむせたのを父に笑われた。悔しい。


 田舎特有の広い庭に車を置いて、愛しき我が家の玄関に立つ。久しぶりに入ることによる緊張を見抜かれたのか、父にケツを叩かれた。


 「ただいまー!」「「おかえりー!!」」

 勢いをつけて扉を開けて大きな声を出すと、数の力で対抗してきた。ぼっちの都会暮らしの心は、おかえりという言葉が弱点になっている。目に熱がこもったことを見ないふりして、リビングへと足を進めた。


「おにーちゃんおかえりー」

おかえりの2度刺しをかました妹の光音は、こたつに入りみかんを食べていた。

「ただいま。おにーちゃんの分のみかんも剥いといてくれない?」

「やだー」

「お年玉」「剥きまーす」

 金を犠牲に妹に対する特攻手札を手に入れた

俺は、台所の方を向いた。


「母さん、どれくらいでメシでき…」

言葉が詰まった。

 久しぶりに見たパーマのかかる髪を持つ母の首がひどく野太く、そして暗い柄になっているのだ。

「あと10分ー…どうしたの?」

そう言って振り向いた母の顔の隣には、鱗をもった飛行機のような形に、鋭い目とY字の舌を出す生き物の顔があった。


────ペットって、蛇かよ!!!!!────


 


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