第3話 秘密
今は誰にも会いたくなかった・・・
春人と顔を合わせるなんて絶対に無理だ・・・
春人にLIMEを入れた。
ごめんなさい。突然出張になってしまいました。
すごく大きなプロジェクトの絡みで、2週間くらい。春人、本当に迷惑をかけてごめんね。
馬鹿みたいな言い訳・・・
こんなの直ぐにウソだってバレる・・・
春人から問い詰められたら・・・
その時は・・・
全てを告白して別れよう。
ーーーーーーー
急いで家に帰って、着替えやその他色々をスーツケースに雑に突っ込んだ。
部屋の匂い、2人の写真、思い出の家具…
それらが視界に入る度に胸がひたすらに痛くて、苦しくて・・・
涙が止まらなかった・・・
家を出て、電車に乗って、家から離れた適当な駅で降りて
目についたビジネスホテルに入り、長期滞在の手続きをした。
真っ暗な部屋に入って
ベッドにうつ伏せで倒れ込んで
そこでやっと人目も憚らずに思いっ切り泣いた。
どのくらいの時間そうしていたのだろうか・・
不意に携帯が鳴った・・・
春人からだった・・・緊張で指が震えた・・・
「もしもし、涼香か?」
「うん・・・」
何も言葉が出なかった。
「いきなり急な出張じゃ大変だったな。」
「うん…」
「2週間したら帰って来るんだろう?」
「うん…」
「なら、頑張れ。ただし毎日一回は電話してきてくれ。出来るよな…」
「…うん、分かった・・・。」
「帰って来たら、とびっきり美味しい物を一緒に食べよう・・・」
「ゔんっ・・・」
「じゃあ電話切るよ。頑張ってな。」
「春人・・、あ゛りがとぉ・・・」
「あぁ、おやすみ…」
ツー…ツー…ツー・・・・
あ゛ァーーーーーーーーーー
あ゛ぁーーーーーーーーーー
私は枕に顔を埋めて、泣き叫んだ・・・
************
「パパー、頭洗ってー」
「はいはい、じゃあ髪濡らすよー」
春香の髪は涼香に似て、艶のあるストレートの黒髪だ。私もお母さんみたいに長くする〜ってよく言うが、今はセミショートにしている。
春香の髪を洗ってあげながら、ふと春香が産まれる前のことを思い出した。
涼香は一度だけセミショートにした事がある。
その直前、急に2週間の出張になったこと。
明らかに不自然だった・・・
電話越しに不穏な空気は感じ取った。
でも俺は・・・黙って涼香を信じることにした。
それまでに2人で培った信頼があったから。
涼香の愛に偽りは無いと感じていたから・・・
あの時何かあったのだろう・・・
でも俺はあの時の行動を後悔はしていない。
何が正解かなんて分からないから・・・
ただ時々、ふっと暗い気持ちと一緒に思い出す・・・
きっと良くないコトであったろう事だけは、直感で分かるから・・・
だけど知らないからこそ、救われる事もあるだろうから・・・
「パパ?大丈夫?」
「あっ、春香ごめん、ごめん。大丈夫だよ。」
春香の髪を優しく洗い流してあげながら思う。
今こんなに幸せなのだからと・・・
************
一晩中泣き明かした。
春人に対する罪悪感。
自分の愚行に対しての後悔。
これから先の不安・・・
思考回路はもうぐちゃぐちゃで、朝方になって力尽きたように眠りについた。
昼過ぎに目が覚めて、シャワーを浴びて何とか見れる程度に身なりを整えて、昨日とは別の産婦人科に行った。
受付に要件を記入する・・・
私はこれから・・・
自分の愚行の結果…子供を身籠り、
自分の都合で自分の子供の命を奪うのだ…
ただひたすら罪悪感に打ちのめされる・・・
診察室に呼ばれ、問診と診察を受けた。
私は医師の顔を見るのが怖くて、ずっと下を向いていた。
最後に手術日が決まり、ホテルに戻った。
医師から渡された同意書に名前を記入する・・
カタカタと手が震えて…上手く書けなかった。
自分の名前を書いた後、配偶者の署名欄を見つめる。
高岡春人
夫の文字を思い出しながら、自分で書いた・・
ごめんなさい、ごめんなさい・・・
心の中で謝罪を繰り返しながら…
もう後戻りは出来ない・・・
ずっとホテルに引きこもり、手術日を迎えた。
手術自体はあっさり終わってしまった・・・
命を一つ奪うのに・・・
1時間も掛からなかった…
2週間はあっという間だった。
このまま何処か遠くに消え去ってしまおうかと何度も思った…
でもただ思っただけ・・・
実際には何もする勇気も無かった・・・
春人に会いたかった・・・
こんな最低な女でごめんなさい・・・
私は不倫をしていた事、堕胎した事・・・
全てを春人に・・・
言わずにいる事を決めた。
春人とずっと一緒に居たかったから…
覚悟を決めてホテルを出ると
とても良い天気で、
優しい陽射しの太陽が、
私には眩し過ぎて眩暈がした・・・。
後悔 @gfdlove
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