後編
「あんたさ、いつになったら1人前になってカウンターに立てるの?」
「えっと、その......」
ポンコツでお荷物な私が、1人前になってカウンターに立つには......
「半年後ですか?」
その瞬間、静かだった店内に店長や先輩達の失笑が響き渡った。
「あんた、私の話を聞いてた? あんたの同期はもうカウンターに立っているのよ? それなのにあんたは半年後? 冗談でしょ?」
「え、ええっと......」
割と本気で言っていたのですが。
すると、店長が呆れたようなため息をついた。
「分かった。それじゃあ、来月からカウンターに立たせる。その間に色々準備をしておいてね。本当は今日にでも立たせたいんだけど......まぁ、まともに仕事が覚えていない今のあんたを立たせるのは、店としては危険だから仕方ないわよね」
「あ、ありがとうございます」
「ハッ、本当にやる気があるのかしら? 私だったら悔しくて悔しくて仕方ないんだけど」
こうして数日後、私はカウンターで接客し始めたのだが、思うような接客が出来ず、もちろんノルマを未達で、店長や先輩達から怒られる頻度も増えた。
分からないから聞けば、大半は『自分で考えろ』と言われ。
自分で考えて接客したら大方、後で『どうして聞かなかったの!?』と怒られ。
それでも私は、先輩達のようになりたいと、この店の戦力になりたいと、休日返上で機種やサービスについて勉強したり、客のフリをして他の店に行って接客を学んだりしていた。
例え、入社2ヶ月目で店長や先輩達から見放されていたとしても。
◇◇◇◇◇◇
そして、入社4ヶ月目に突入した頃、その時は唐突に訪れた。
この頃、満足に眠れなくなり、母の勧めで精神科の病院に通院していた私は、店長や先輩達に怒られる度に泣くようになり、その度に店長や先輩達から呆れられていた。
「あんたにはもう何も期待しないから好きにやって。そして、お客様に怒られればいい」
店長からこんな心のない言葉を言われたのは、奇しくも私の誕生日だった。
その翌日、いつものように接客していた時、私の接客を見かねた店長が、突然カウンターから私を強引に外すと、たった一言。
「あんた、もう帰っていいよ。お疲れ様」
それは、正しく戦力外通告だった。
嫌だ! 私はまだやれる! 店の役に立てる!
そう思った私は、カウンターに戻してもらえるよう説得しようとしたが、店長や先輩達から冷たく睨まれ、更にはお客様がいらっしゃった手前、『申し訳ございません』と深々と頭を下げると、身支度を済ませて大人しく店を出た。
その時、私の中にあった張り詰めていた糸がプツンと切れた。
あぁ、もう実家に帰ろう。こんな場所にもう居たくない。何も考えたくない。
一人暮らしをしていた私は、空っぽになった気持ちのまま荷物を纏めると、両親に連絡せずに実家へと帰った。
◇◇◇◇◇◇
私の話を黙って聞いてくれた両親が、アイコンタクトを交わすと、母が静かに口を開いた。
「そう、それならしばらく休みなさい」
「ううっ、ありが、とう......」
母からの温かい労いの言葉に、泣きながら頷いた私は、しばらく実家に引きこもった。
その後、通院していた精神科の病院から診断書を貰った私は、会社と話し合った上で自主退職した。
実家に帰った 温故知新 @wenold-wisdomnew
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