迷い夏、探してます

切売

迷い夏、流してます

 夏が消えた。どこを探しても見つからない。何があったんだろう。事故とか、事件にまきこまれたとか。悩みがあったのかもしれない。学校にも来ていないし、家にも帰ってないらしい。送ったLINEも既読にならない。心配だし不安、だ。

 でも、一抹の野次馬根性というか、冷やかしじみた気持ちもあって、私にだけ事情を打ち明けて欲しい。好奇心っていうか。事情通になりたいのかな。何があったのか知りたいだけの身勝手な気持ちがある。あーだこーだ根拠がない下世話な想像とかしちゃってさ。

 純粋な心配、相手を想う気持ちだけで頭をいっぱいにできない自分をみっともなく思う。だけど、多分、だいたいみんなそうだよね。私みたいに、ここまで考えてる人の方がすごくない? めっちゃ気つかってる。ってまた、自分のことばっかり正しい扱いしてしまう。

 こんなこと考えている間にも、夏はひどいめにあってるのかもしれない。どこかに閉じこめられて、男の人に怖いめにあわせられてたりして。想像してぞわぞわする。

 あとね。夏がいなくなったのと一緒に、世界は夏になるのをやめてしまった。その日以来、日が落ちる時間は一秒も遅くならなくなり、気温も上がらなくなった。夏の風物詩たちは店頭から姿を消し、日中、歩いていても太陽のぎらぎら感に物足りなさを感じる。

 貼紙を出そうかな。迷い夏、探してます。冷やし中華、始めましたみたいなノリで、夏、ここにありましたって教えて欲しい。

 夏、見つかりましたよ。うちにいますって連絡来ちゃったりしてさ。でも、夏違いかもしれないから、ちゃんと確認するんだ。私の夏にも褒められたしっかり者ぐあいを発揮するんだ。

「その夏は、私の知ってる夏ですか?」

 頭に浮かぶのは、今まで出会ったいろんな姿の夏たち。小さな夏でも、意地悪な夏でも、涼やかな夏でもありませんか、と聞いたら怪訝そうにされっちゃたりしてね。夏は夏でしょって。そんな妄想をしている。


 夏は私に何も言わなかった。いつも通りだったし、最後に来たLINEは『明日の小テストの範囲これであってるっけ』だった。

 夏ってどんな子だったっけ。何を考えていたんだろう。

 よく知っていたはずなのに、わからなくなる。ここ一週間でした好きなアーティストの新曲の話、帰りに買い食いした唐揚げの油でテカる唇、その油をスカートに落としてげんなりしてた顔、元々の色も濃いしいけるかあって紺色のスカートを摘まむ指の伸びすぎたベビーピンクの爪。おさらいしてみるけれど、そんなことしていながら、内心、全然別のこと考えてたんじゃないか。私には言ってくれなかったことがあったんじゃないか。じゃあ、もういいよ。夏にとって私って大して仲いいやつじゃなかったんだ。嫌いになっちゃいそうに、なる。

 あの子は、どんな子だった? スマホに撮りためた写真をスクロールしながら、夏を探している。ピースサインの横の笑顔が、どんな感情の顔なのか見えなくなってしまいながら。

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