聖騎士と泥棒猫は、髑髏の騎士の軌跡を追う
本黒 求
それぞれが進んだ道
「隊長、いつでも行けます」
「分かったわ……行くぞ、お前達!」
日が沈みすっかり闇が深くなったこの街のとある一角において、部下からアーサニークファミリーの下部組織による違法品の闇取引現場を差し押さえる為の準備が整った知らせを受けた私は、取引現場である倉庫に突撃を仕掛けようとしている。
先行して倉庫の入り口の見張りを無力化し、倉庫の入り口の前で私達を待っていた部下達が、私を含む突撃班の合図を確認すると、倉庫の入り口を勢いよく開けた。
勢いよく扉が開くと同時に、私達は倉庫内に一瞬で雪崩込む。
「
全員武器を捨て、大人しく投降し……ろ?」
私倉庫内に突撃した私は、堂々と自分たちの存在を声高らかに名乗り上げる!
つもりだったのだけど、私は目の前に広がる状況を頭が理解していくにつれて私の声のトーンは落ちていった。
なんせ今私の目の前に広がっている光景が、私達が捉えようとしている悪党達が纏めて何者かの手によって叩きのめされ、尚且つこの取引の為に用意された違法品が堂々とテーブルの上に広げられている。
犯罪者が証拠品と共に転がっているなんて、俗に言う”カモがネギをしょっている”と例えられるなんとも美味しい状況なんだろうけど、私達はありとあらゆる危険を想定し、覚悟を決めて突撃したというのに、こんな状況が目の前に広がっていたら、拍子抜けも良い所……
だけど、この既に荒らされた現場が【ヤツ】によって作られた状況であるなら、話は全く持って変わってくる。
現場の状況から見て、まだヤツがこの状況を作り上げてから大して時間が経ってないと踏んだ私は、周囲に素早く目を向けると、入り口とは別に外に続く扉が半開きになっている事に気が付く。
恐らくヤツはあの扉から出て行ったに違いない。
「この場は任せた! 私はヤツを追う」
部下達にそう伝えると同時に、私の得意とする光魔法を使って己のスピードを極限まで高め、そのまま扉の先目掛けて私は駈け出す。
光魔法で身体強化された体から閃光を放ちつつ、倉庫の外に勢いよく飛び出ると、そこは狭い路地裏に繋がっていた。
(まだ近くに居るハズよ!)
私はまだそんな遠くに行っていないであろうヤツの姿を、暗い路地裏で目を凝らしながら探し続けていると、暗闇の中でも僅かに黒光りする物が私の目に入ったので、私はヤツがそこに居ると確信し、一瞬黒光りした物が目に入った場所に閃光の如く迫る。
するとソコには私の読み通りヤツの姿が!
「見つけたわよ!
先の現場を荒らした張本人の姿をハッキリと捉え、私は現場を荒らした犯人に向かって高らかに叫ぶ!
しかしヤツも、既に私が迫ってきている事を察知していたようで、その手に得物を握りしめ既に臨戦態勢に入っていたので、私も愛剣を鞘から抜き、そのままヤツとの距離を一気に詰めると、ヤツ目掛けて切りかかった。
”ガキーン!!!”
私の愛剣と、アイツの得物が激しくぶつかり合う音が暗闇の路地裏にて響く。
「今日こそ覚悟してもらうわ! 髑髏の闇騎士!!
我らパラディン・ナイツに対する度重なる公務執行妨害、危険かつ捜査権を持たない人間による越権行為! その他多数の容疑が掛かっているキサマの身柄、今日こそ押さえさせてもらう」
私は騎士らしく堂々と身柄を押さえる事を宣言した後、私はヤツ目掛けて何でも剣を振る。
しかし私の放つ剣戟を、ヤツは全て受け流しつつ、一切反撃する様子を見せないまま私からの追撃を振り切ろうとするのは、
「毎度の如く私をやり過ごして逃げようとしているみたいだけど、今日こそは絶対に逃がさないわ!」
毎度奴を捕らえようとしてヤツと打ち合っても、ヤツはこちらに一切攻撃を仕掛けず、常に逃走経路を意識して動く。
だから今日こそは”逃がすまい!”と意気込みながら剣を振り続け、奴を捕らえるのに有利な壁側に追い詰めようとするが、ヤツもその事は想定済みのようで、中々ヤツを逃げ場のない場所に追い込むことが出来ず拮抗状態が続く。
「いつもならこのままやり合っていれば、お前は隙を見て逃げ出すんでしょうけど、今日の私は一味違うわ……奴を囲え、ホーリウォール!!」
私は逃げようとするヤツの逃げ道を防ぐために新たに開発した魔法を発動し、私とヤツの周囲に光の障壁を周囲に展開して、閉鎖空間を形成してやった。
するとヤツはその手に持ったライトアックスを、私が作った光の障壁目掛けて思いっきり振り下ろし、私の展開した障壁を破壊しようと試みたが、その結果は路地裏に”ガキーン”!!という鈍い金属音が鳴り響いただけで、私の展開したホーリウォールはアイツの渾身の一撃を耐えきって、未だに奴を逃がさない為の閉鎖空間を維持し続けている。
「フッ、この時の為に開発した私のホーリウォールを、易々と破る事が出来るなんて思わない事ね!
さぁ、今日で私とお前の追いかけっこも終わりのようね!」
遂に奴を追い詰めた私は、じりじりと奴に滲み寄り、奴との距離を詰めていくと
”グオォォォォォォ!!”
突如私とヤツの間に漆黒の激しい竜巻が発生したので、私は一端足を止める事となった。
「くそ、小賢しい真似を!」
私は目の前で発生した竜巻を、光魔法を込めた愛剣の一撃にて払い除け、今度こそヤツを捕らえるべくヤツとの距離を一気に縮めようと足に力を籠めるが、竜巻を払い除けた先にヤツの姿は見当たらなかった。
(奴は何処に行ったの?)
その答えは私にとって最も望まない形で分かった。
ヤツは先程発生した黒い竜巻で足止めを食らっている内に、私がホーリウォールで作った包囲網で、唯一天井には壁が展開されていない事に気が付いてようで、先程発生した黒い竜巻は、私の目をくらます為ではなく、奴が包囲網から脱出するために展開した魔法だった。
竜巻に乗って建物の上に乗ったヤツは、屋根の上から私を見下ろしつつこの場から去って行く。
ヤツがこの場から去って行く姿を何もできないまま見ていると、ヤツ意外にも目にしたい思わない存在の姿が、一瞬だが私の目に入る。
私は嫌な予感がしたので、急いで取引現場に引き返した。
「急いで今回の取引で準備された資金を探して!」
取引現場に急いで戻った私は、ヤツによって叩きのめされた悪党共を縛っていた部下達に、今すぐこの取引の為に準備された資金がこの場に残っているのか確認するように指示する。
どうして私がそのような”指示を出したのか”直ぐに察した部下達は、迅速にこの取引で使われる予定だった資金を探し始めたが
「隊長……既にやられてました」
そう言って部下の一人が私に見せて来たのは、既に蛻の殻となった金庫と、金庫の中に残された一枚のカード。
そしてそのカードには、私が忌々しいと思うもう一人の存在の真っ黒なシルエットと、私達宛の忌々しいメッセージが記載されている。
『騎士団の皆様今日もお勤めご苦労様です。
今回も皆さんのお陰で、私は大した苦労もなくお金を頂けました!
また次回も私の為に派手に暴れてくださいね』
「く....…くっそぉぉぉぉぉぉ~! またしてもやられたわ~!
あの
私はやり場のない怒りを込めて大いに叫ぶ。
こうして私が率いるパラディン・ナイツは、状況証拠を押さえ、不法な取引を目論んだ悪党を捕らえるという最終的な目標は達成出来た。
しかし、そこに至るまでの過程で
子悪党その1である”髑髏の闇騎士”に今日も先を越されて悪党を成敗された挙句、子悪党その2である”銀青の泥棒猫”に我々が回収すべき資金を持ち逃げさせる。
この街の治安を任された存在としては、なんとも納得しがたい内容だったため……今日も私のストレスは最高潮に高まっていた……
*
「んっぐ…………ちょっとウィル! 聞いてよ?」
「どうしたんだい、エレン? 今日は随分荒れてるみたいだけど、捜査で何か上手く行かない事でもあったのかい?」
「今日は、じゃなくて、きょ・う・も・よ! またあの”現場荒らし”に先を越された挙句取り逃がすし、おまけに”コソ泥”には一杯食わさせるしで、散々な一日だったのよ~ ううぅぅ……」
私はこのバーのオーナーであり、幼馴染でもあるウィルに向かって、今日も仕事が上手く行かなかった事を、ヤケ酒を煽りつつ愚痴ってしまう。
「その言い回しだと、今日も捜査現場に巷で噂の『髑髏の闇騎士』と『銀青の泥棒猫』が現れた! って事かな?」
「そうなのよ~!
ホントに何なのよアイツ等!!
私達の仕事の邪魔ばっかりしてくれちゃって!!!
そして今日も愚痴ばっかりでごめんね~!!!!」
私は今日もウィルのバーにて、大いに愚痴を喚き散らしてしまうけど、彼はいつも私の話を黙って聞いてくれるし、私のこの状況に理解も示してくれる。
昔からの縁もあるという事もあって、ウィルは私にとって数少ない気心の知れた仲だからか、ついつい思った事を全て話してしまう。
王国から栄誉ある
(なんせ今日だって、私が愚痴を喚きちらかしてしまう事を察してか、お店を貸し切り状態にしてくれているしね)
そんな気遣いをしてくれるウィルに、私は今も昔も甘えてばかりな気がする。
「エレンの今日の仕事がどれだけ大変かつ、上手く行かなかったのかは分かってあげれないかもしれないけど、エレンが誠実かつ真摯に仕事に取り組んでいる事だけは分かってるよ。
だからそんな一生懸命仕事に取り組んでいるエレンの愚痴なら、僕は幾らでも聞くに決まってるよ」
「ありがとう~!
ウィル、ウィルだけだよ~!!
こんな不出来な騎士の私に、そんな優しい事言ってくれるのって~!!!」
「そんなの当たり前じゃないか。
エレンは毎日この街の事を思って身を挺してこの街の為に働いてくれているんだから、そんなエレンが不出来だなんて誰も本気で思ってないよ」
「そうかな!?
でもそうだと思って行動したって、結果は付いて来ないから……現実は非常なのよ~!!」
「アハハハ……そんな悲観的にならないでくれよ。
僕としては、エレンが危険な目に遭う事無く無事に僕の前に居て、こうして今日の出来事を話してくれる事が、僕にとって一番嬉しい事なんだから」
(うっ! 優しい、優し過ぎるのよウィルわ~!!)
流石私の元婚約者様! もう私を甘やかす事に関しては、両親以上に上手いかもしれない。
今日も彼の心から私の無事を祝ってくれる言葉は、私の心の大きな癒しとなるのだけど、ウィルがここでこうして働いている姿を見ていると、どうしても未だに捨てきれないウィルに対する数々の未練と、あの時の出来事について私は深く後悔してしまう。
「ねぇ……私今だって思うの。
ウィルがあの時私を庇って怪我さえしなければ、今頃ウィルは私なんかより優れた騎士になって、私と一緒にこの街を守っていたハズだし、ウィルのお父様とお母さまだって……」
「ストップ、エレン!」
「……でも!」
「前にも言ったよね?
僕の左手の怪我は僕にとっては『当時婚約者だった君を守った名誉の負傷』だと!
それに、僕の両親が死んだのだって君の所為じゃないんだ!
だから『もしも』を考えるより、お互いこれから『先の事』を考えようって約束したよね?」
「ごめんなさい……もう『この話は終わり』って二人で約束したのにね……それなのにまだ口に出してしまうなんて、私相当酔ってるわ……」
「僕がエレンの立場だったら、僕だって君と同じ気持ちになってると思う、だから気にしないで!」
ウィルから、「もうこの話は終わりにしよう」、と言われてしまったので、これ以上この話題を進める事はしなかったけど、いくらそう言われても、私にとっては未だにあの事件で起きた出来事は、割り切ろうにも割り切れないでいる。
(ウィル、あなたがいくらそう言ってくれたとしても、私はあの時の事を未だに、「あの時悪党に立ち向かう勇気があったら……」、って考えてしまうし、ウィルが私を庇って怪我さえしなければ、今頃ウィルは私なんかより立派な騎士となって、私の隣に堂々と立ってくれているウィルの未来の姿を想像してまうの……)
私の家系であるバーキン家は、騎士の家系かつ、この街の防衛に携わって治安維持に務めている。
そしてこの街を何度も外敵から守り続けたその功績が王都に認められて子爵位を得た事で、この街の有権者の一人にも数えられる名家だけど、そんなバーキンが家が活躍してきた裏には、この街の領主を代々務め、この街の住民に最も信頼されると同時に、最も高い伯爵位を持つウィルの生家でもあるオーウェン家の支えがあったからだ。
良好な関係を築いていた両家が「一つになってもいいのでは?」、という話は、以前から何度も出ていたらしんだけど、様々な事情があって中々そうなる事はなかった。
だけど私達の代で両家が一つになる為の様々な問題がクリアされたので、ようやく叶う両家の念願として、私とウィルは婚約者となったけど、私達はそんなお堅い家の事情なんて関係なしに、婚約者になる前から仲良くやれていた。
だけどその関係も、今から八年前に起きた忌々しいあの事件が発端で終わりを迎えてしまう。
その時の私とウィルは、まだ12歳の只のお嬢様とお坊ちゃまで、その時は下手したら王都より治安が保たれている噂されるほど平和なこの街で、大きな事件なんて起きるなんて誰もが思っていたし、誰もがこの街で平穏にずっと暮らしていけると思ってたんだと思う。
だけど突如としてこの街の平和は、何の前触れもなく壊された。
今から八年前、この街を支配しようと企てたマフィア達が、突如この街に対して大規模な抗争を仕掛けてきたのだ。
突然のマフィア達の襲撃で、街は大混乱に陥いると同時に、その混乱に乗じてマフィア達はこの街の有権者達を次々と襲い始め、マフィア達はこの街に進行して僅か一瞬間でこの街の実権を握った有権者の半分以上がマフィア達の手により命を落とすと同時に、有権者達が管理していた地域がマフィアの支配下となった。
このマフィアとの抗争で、当時この街の領主を務めていたウィルの両親も命を奪われた事を考えると、私もだけど、ウィルにとっては途轍もなく深い遺恨を残された忌々しい事件だ。
私の家は騎士の家系かつ、この街の治安維持に務めていた事もあって、攻め入ってきたマフィア達と最も激しく抗争していたのだけど、突然の襲撃で大混乱となったこの街の状況の混乱を落ち着かせようとしつつ、各地で暴れ回るマフィア達の侵攻を同時に対処しなくてはならない状況に翻弄され、本来の力を上手く発揮出来なかった事も、マフィア達が短期間でこの街の支配域を伸ばした要因の一つであり、この状況をひっくり返す事は、残った街の有権者達が力を合わせても、簡単にはひっくり返せない状況まで事は進んでいたし、この街の力は時間が経つにつれて徐々に削がれているのが目に見えて分かる状況でもあった。
だからこのまま時間が過ぎれば、いつかマフィア達にこの街が占領されてしまうのは、誰の目から見ても明らか。
そんな最悪の流れを打破すべく私の両親は、王都や隣領に援軍の要請に向かうと同時に、私の両親が援軍要請に向かった情報をあえてマフィア達に流す事を提案する。
そうすれば、この優位な状況を覆させまいとマフィア達は、何がなんでも私の両親を止めるためにそれ相応の戦力を追撃に回すだろうし、同時に街を襲撃するマフィアの進行度合いも抑えられると踏んだのだ。
こうして私の両親は、危険を承知かつ街の命運を背負って街の外に援軍要請に向かったのだけど、その際私は当時婚約者であり、現状最も安全であるとされるウィルの家に預けられる事になった。
しかしこの読みは大いに外れる事になった。
なんと私の両親が街の外に出た事に気が付いたマフィアは、私の両親を追って援軍を呼ぶのを止めるより、この街で最も強い勢力が抜けている間に、この街の最有権者であるオーウェン家を潰すことに全力を注いできたのだ。
こうしてマフィア達はウィルの生家であるオーウェン家に総攻撃を仕掛けてきたのだけど、もちろんこの街の人間達もその可能性は考慮していたし、オーウェン家はこの街の名領主として住民にも大変慕われている事もあって、この街の住民達は固い結束の絆で結ばれいたからこそ、街の人達は自発的に自警団まで結成してくれて、オーウェン家の防衛に参加してくれた。
だからマフィア達の総攻撃に対してもオーウェン家は、私の両親が援軍を呼んでくるまでマフィアの総攻撃に耐えうる防衛力が築かれていた。
だけどいくら防衛力があると言っても、こちらは殆どがまともに争った事がない一般人の集まり。マファイ達からすれば付け入る隙は幾らでもあった。
だから負傷者に暗殺者を紛れ込ませるなんて容易い事だったようで、マファイ側が仕向けた暗殺者が最初のターゲットとして狙って来たのは、まだ大した力を持たない私とウィルの命だった。
暗殺者は私とウィルが籠っている部屋に姿を現すと、私とウィルに向かって刃物を突き立て来たのだけど、その際私は初めて自分に向けられた殺気に対する恐怖で怯えてしまい、その場で腰を抜かしてしまった。
その様子を見たマフィアから、真っ先に殺害対象として私は狙われてしまったのだけど、その際ウィルが身を挺して私を庇った所為で、ウィルは利き腕である左手に大怪我を負ってしまったのだ!
もはや絶体絶命の状況に追い込まれた私とウィル!
だけど私達が籠っていた部屋の異変に気が付いたウィルの両親は、颯爽と私達の前に駆けつけてくれた。
私の両親と共に武芸を習っていたウィルの両親は、そこいらの並みの騎士よりよっぽど腕が経つこともあって、スグに暗殺者を撃退した後、急いで大怪我を負ったウィルに今出来る最低限の手当を施すと同時に、腰が抜けて動けない私を宥める為に寄り添ってくれた。
だが、その際暗殺者の息の根はまだ完全に止まっておらず、暗殺者は初めからその手を使って目的を果たすそのつもりだったのか、その身に隠し持っていたある物を発動させる。
それは己の魔力を媒介に、己が周囲を吹き飛ばす爆弾となる禁忌の魔道具であり、その魔道具で己が爆弾となって、暗殺者は私とオーウェン家を纏めて消し去ろうとしたのだ。
そして自爆用の魔道具が発動する直前、ウィルの両親は私とウィルを守ろうと、持てる全ての力を私達を覆うように作られた防壁魔法に注ぎ込むと同時に、少しでも爆発の衝撃から私達を守ろうと私達に覆いかぶさった。
その直後、爆発魔法が発動し、身を挺してまで私達を守ろうとしたウィルの両親の姿は、この世から跡形もなく消し去られる…
この爆発が起きた直後に、私の両親が援軍を引き連れて戻ってきた事で、形勢は一気に逆転し、この街とマフィアの抗争は終わりを迎えたのだけど、マフィア達がこの街に残した傷はあまりも大きかった。
まずこの街を支えていた多くの有権者を失った事で、この街は以前から築き上げていた統率された体制が大きく崩れてしまい、その隙を付いてこの街に多くのならず者が流れ込んできたのだ。
そしてそのならず者達は犯罪を犯す無法者となり、平和を取り戻すとするこの街の新たな脅威となるのと同時に、その無法者達を取り込んで勢力を拡大したのは、この街の有権者を殺してその地を牛耳るようになったマフィア達の生き残り。
こうして奴等は独自の勢力を築き上げると同時に、この街に根付てしまった。
そして独自の力を持った彼らは、先の抗争で命を奪った有権者達が管理していた領域を奪い取っただけでなく、彼らの後釜の如くこの街の政や治安にまで関わってくるようになったことで、今もなおこの街の治安は安定の兆しを見せていない。
そして事件が一端収束を見せた後、私を庇った腕の怪我で入院していたウィルと面会出来るという連絡を受けて、大急ぎでウィルの元に向かったのだけど、その時のウィルは、私を見てもいつものように笑う事はなかった。
だけどそれは当然だと思う。だってウィルは私の所為で両親を失っただけでなく、私を庇った時に追った大怪我の所為で、利き腕だった左手はまともに動かせないという事実をお医者様に言い渡されたから、私と夢見ていた騎士への道を、ウィルは断たれてしまったのだ……
そんな非常で残酷な現実を一挙に突き付けられたウィルの表情は、絶望で焦燥しきっていたし、そんなウィルの姿を目にした瞬間
『ウィルがこんな目にあってるのは……全部私の所為?』
私はそう思わずにいられなかった。
そしてその場でウィルから
「今の僕じゃ君を支える事は出来ないから、僕たちの婚約をなかった事にしよう」
そうウィルに直接と言われてしまった時は、本当は婚約破棄の承諾なんてしたくなかった。
だけど、『私の所為でウィルの人生は滅茶苦茶になってしまった…』、という後ろめたさもあって、私はウィルの提案に、ただ黙って首を縦に振る事しか出来なかった。
その後私は自分に伸し掛かる罪の重み耐えきれないで、しばらくショックで塞ぎこんでしまっていたけど、ウィルが別れ際に
「エレンは立派な騎士になる夢を叶えてね」
と言ってくれた事を思い出し、「このまま塞ぎこんでも私はウィルに何の罪滅ぼしも出来ない」と思い立った私は、二度と恐怖に負けないし、騎士の夢を絶たれたウィルの分まで私が騎士となってこの街を守る」、という新たな目標を叶える為に私は立ち上がった。
そして騎士の最高峰とされるパラディンになる為に、お父様とお母様に頼み込んで王都にある騎士養成学校に通い、そこで意地でも優秀な成績を収めて王国の騎士になった後、パラディン選抜試験に合格して晴れてパラディンとなって昔の弱い自分と決別した私は、再びこの街に戻ってきた。
だけど私がパラディンになったからと言って、未だにウィルに対してはとてつもなく強い罪悪感が拭えないでいる。
久しぶりにこの街に戻ってきてウィルに再会した際、ウィルは、「もうあの事件の罪悪感に苛まれる必要はないんだ、だからお互いこれからの先の事を考えよう」、と言ってくれた。
だけど、ウィルの左腕がコップ一つまともに物を握る事も、持ち上げる事やっとな姿が目に入った瞬間、私をあの時恐怖に屈していないで暗殺者に立ち向かえていれば、ウィルは私と共に子供の頃から共通の夢としつつ、目標でもあった騎士の道と、彼にとって大切な家族を失う事はなかった事を思い知らされ、私は「どうすればこの罪を償えるの…」と未だに考えてしまう。
なんせ当時のウィルの剣の腕は相当の物だった。
7階位ある魔法属性の中で、ウィルの属性は最下位属性で最も力の弱い属性である【闇】なのにも関わらず、「剣の腕だけで最上位属性である【光】を扱う聖騎士にも匹敵する実力者になれる!」、と当時私達に剣を師事してくれた聖騎士から太鼓判を押された程の腕前だったし、ウィルも将来「この街をエレンと守る立派な領主になるために、エレンと一緒に騎士になるんだ!」、と言ってくれていた事は今でもハッキリ覚えている。
だけど、あの事件でウィルが私なんかを庇った所為で、今のウィルは昔のように剣を振る事さえ叶わない。
その事を未だに引きずり続けている私は、未だにウィルに対する様々な未練が捨てきれないんだと思う。
でもあの事件で起きた事に関する後ろめたさから、ウィルに向かってその思いを打ち明ける事が出来ない。
だけどなんとかしてウィルとの関係を繋ぎ止めたいがため、ウィルが領主の仕事の傍ら経営しているこの街外れのバーに通い詰めてしまっている。
それに私が聖騎士となって、自分の隊を率いてこの街に戻ってきたのも、全てはウィルとこの街を守る為だ。
それに今日だってウィルの前で喚いているのも、こうしたらウィルは私に寄り添って話を聞いてくれるという何とも自分勝手な理由であって、結局私は未だにウィルに縋ってるだけ。
そしてこの状況に甘えて未だに私は本心をウィルに伝える事ができないでいるのも、もしウィルから拒絶されたれら立ち直れる自信がないから、この状況から抜け出せないだけ。
(はぁ……こんな本当の私の姿を知ったら、ウィルは幻滅するだろうな)
そう思うとせっかくウィルが愚痴を聞いてくれたお陰で少しだけスッキリした気分が、再びどんよりとしてきたので思わず深いため息を付いてしまうけど、コレも全部この街で好き勝手動いて、私の率いる聖騎士隊の面子を潰してくれるあの二人の所為だ!
【闇が深くなる時、漆黒の髑髏の騎士が悪を裁く】
この街には住民達は口を揃えてそう称える存在がいるのだが、その存在こそ私がさっき対峙した素性の知れない謎の存在、髑髏の闇騎士だ。
ヤツは漆黒の甲冑で全身を包み、素顔を隠す兜には髑髏を模る意匠を凝らすという見たら嫌でも印象に残る姿をしているというのに、その活動は基本的に裏で可能な限り誰にも知られないようにかつ、事を荒立てないよう動くと言う、格好と行動が矛盾しているのが少々不可解だが、その活動はこの街に根付いてしまった悪党共を人知れず成敗している存在であるため、この街に住民に【悪に堂々と立ち向かう存在】として称えられいる。
それ自体は悪い事ではないかもしれないのだけど、我々パラディン・ナイツとしてはヤツの活動方針が非常に気に食わない!
なんせヤツは、いつも私達が目を付けている悪党の元に私達より先に現れて、悪党の汚職や不正行為といった犯罪現場を襲撃する。
そして私達が悪党の元に辿り着いた時にその場に残されているのは、不正取引に関する数々物的証拠と、ヤツに打ちのめされて無力化された悪党達。
ヤツが毎度の如く犯罪者を虫の息まで追い詰め、ご丁寧に犯罪の証拠まで揃ってる状況を作って去るという事は、ヤツが悪は法で裁かせようと考えているのは分かる。
だけどこの行為を単独でやってのけるという事は、この街を守る為に王国から任命された我らパラディン・ナイツの事を【犯罪者を自分達で捉える事が出来ない無能】と言って馬鹿にしているのと同義であり、ヤツのやっている事は立派な公務執行妨害かつ、捜査の権限を持たない者の危険行為かつ越権行為に値する。
そしてこの状況が未だに続けられるという現状も、我々パラディン・ナイツという特務部隊の沽券に大いに関わってくるからだ!
そんな奴だが腕は確かなので、こちらも一度ヤツと共同戦線を張れないかと考え、話し合おうとこちらから歩み寄ろうとした事もあった。
だけど、ヤツはこちらの提案を断るかのように、こちらの声明に対して何も応じる事はなかったどころか、相変わらず私達より先行して悪党を裁こうとする姿勢を貫く。
よって私達とヤツは、決して相成れない関係だと私は結論付けた。
そして今日もいつものようにヤツに先を越され、悪党を先に成敗されてしまっている現状を思いしれば思い知る程、私は惨めな気持ちにさえなってくる。
なんせ今日の捜査だって必死に積み重ねた捜査や、このバーでウィルが拾い集めてくれた情報を元に、あの悪党共を現行犯で捉えてやろうと入念に準備を進めきた。
そしていざ、「犯行現場を押さえてやろう!」、と息巻いて現場に向かってみれば、ご丁寧に無力化された悪党共と不正取引の証拠がセットで転がっている。
こうして「今日もアイツに先を越された!」、という現実を思い知らされると同時に、アイツにまた逃げられたばかりか、闇取引に使われる資金はこの街の人間が
私達がヤツの次に厄介者として敵視している銀青の泥棒猫は、その名の通り猫のような俊敏さと、闇夜にコラットの毛並みのような銀青色に輝く髪を靡かせながら悪党の資金を専門に狙うコソ泥だ。
そしてこのコソ泥、悪党から奪った資金を身寄りのない者や、悪党から不当に奪われてしまった人間といった立場の弱い者の元に与える義賊として、この街の人間から髑髏の闇騎士とは別のベクトルで非常に高い人気を得ている存在でもある。
だけどいくら出所が不正な資金とはいえ、やっている事はただの泥棒かつ捜査現場を荒らしている行為である以上、私達聖騎士隊からするとこのコソ泥も、ヤツと同様にパラディン・ナイツが取り押さえる対象としているけど、このコソ泥の厄介な所は非常に俊敏かつ狡猾な所で、我らパラディン・ナイツが悪党達と争っている隙を狙って、悪党の資金を音もなく根こそぎ奪っていく所にある。
だから例えその存在に気が付いたとしても、その存在に気が付いた時の大半は、既にコソ泥が金品を奪い去った後であり、追いかけて捕まえようにも、このコソ泥が得意とする魔法属性”風”の魔法を駆使し、建物の僅かな隙間を縫うような立体的な動きで逃走するため、逃げる事に関しては、こっちの子悪党の方が質が悪い。
そんな訳で私のイライラは今日も最高潮!! コレはもう飲まないとやってられない気分だったから、仕事を終えた私は部下達を引き連れ、今日も私にとって最大の癒しの場であるウィルのバーにてヤケ酒に入り浸っているんだけど、最近私にとっての癒しの場にも、唯一気に食わない存在が現れた!
そんな事を考えていると、私にとってこの場において唯一気に食わない存在は、相変わらず素っ気ない態度のまま私の元にやってくると、酒が入ったグラスを私に差し出し
「……今日も辛気臭い顔してますね。
もしかして今日も髑髏の闇騎士と銀製の泥棒猫でも取り逃したんですか?」
この子は~!
よくも私がテンションダダ下がりの状況下で、今最も話題されたくない存在×2について腹立つ余計な一言を平然と入れてくれるわね!!
「……だったら何なのよ?」
「……いえ、別に」
「言いたい事があるならハッキリ言ったら?」
「じゃあお言葉に甘えて。
エリート騎士である『聖騎士』かつ、魔法七階位第一位の光属性持ちのエリートの中のエリートで『光の騎士』なんて大層な称号を頂いてるだけでなく、『聖騎士隊』なんていう特務部隊の隊長を務めてるっていうのに、子悪党と罵る人間を未だに一人も捕まえられない。
もしかしてエレノアさんの実力って、言うほど大した事ないんじゃないんですか?」
「へぇ……今日も好き勝手言ってくれるじゃない?
いいわ、今日こそあなたが小馬鹿にした存在の実力がどの程度のものか、その身を以て教えてあげるから、表に出なさい!」
「……業務中なのでお断りします」
カッチーン!!!!!!!!!!!!!!!!
私は毎度私の事を挑発してくるこの店の新人かつ、どうにもいけ好かない女事、”マリリン”に対して、今日と言う今日は、この小娘が馬鹿にしてくれた光の騎士の本当の実力を教えてやろうと思い、マリリンを取り押さえてやろうとするが、この子は思いのほか身のこなしが軽く、無表情で私の出した手を躱して来るので、私はムキになって席を立ちあがり、マリリンを追いかけ始める。
既にお酒が回っているのもあって、普段より動きの鈍っている私の手を、上手く躱し続けるマリリン。
そんなマリリンの姿がどうしても、昔よくウィルと共に遊んでいた
「……もしかしてもう疲れたんですか? やっぱり聖騎士って口だけなんじゃないんですか?」
前言撤回! こんな可愛げのないガキが、あの子の訳がないわ!!
こうして今日もこのバーにて、私とマリリンの壮絶な追いかけっこが始まったのだが
「二人とも……いい加減にしなさい!」
そう言ってウィルは、私とマリリンの間に入ると、私とマリリンの頭にチョップを振り下ろし、私とマリリンの頭から、『ゴツン』という音が同時に響き渡った!
「ううぅ……お酒が回った頭に響く~……酔いが回った人間の頭に攻撃を入れるなんて、騎士を目指していた者としてはあるまじき行為よ! ウィル!!」
「い゛、だぁぁぁい……ウィルフレッドさん! 何するんですか? か弱い女の子に手を上げるなんて男として最低だと思わないんですか!?」
「はぁ……二人とも、お店で暴れたら他のお客様の迷惑になりますよね?
最低限のマナーが守れない方は、誰であろうと今すぐこのお店から出て行って頂きますが……」
『それでよろしいでしょうか!? お嬢様方!!』
ウィルは顔こそ笑顔だけど、割と本気で怒っているようで、何とも言えない圧力を放ちながら私とマリリンに詰め寄ってくる。
「「……ごめんなさい」」
私とマリリンはつい先程まであれだけ不仲な様子を見せていたハズなのに、ウィルに対して謝罪を入れる時は、事前に打ち合わせしていたかの如く息をピッタリ合わせてウィルに深々と頭を下げていた。
*
「「「「「今日も隊長のお世話をしていただき、ありがとうございました!」」」」」」
「いいんだよ、それよりパラディン・ナイツの皆様も毎日お疲れ様です。
またのお越しをお待ちしてますよ」
ウィルさんはそう言った後、酔いつぶれる手前まで飲んだくれたエレンさんを介抱しながらお店から出ていく聖騎士隊の人達を見送った。
そして誰も居なくなったことをウィルさんは確認した後、この店唯一の従業員である私に向かって
「……マリリン、君はどうして毎会エレンに必要以上に突っかかっていくのかな?」
ため息を付きながら私がエレンさんに突っかかる理由を尋ねてきた。
「……別に、ただ私は現状をハッキリとエレノアさんに伝えてあげただけです。
私は間違った事を言ったつもりはありませんよ、ウィルフレッドさん」
ウィルさんにそう淡々と伝えた後、私は黙々とバーの片付けを始めた。
そんな私を見て、頭を抱えつつ困った表情を浮かべるウィルさん。
私がこのバーで働くようになってからしばらく経つけど、ここ最近毎度の如く私とエレンさんがひと悶着起こしすのがウィルさんにとっては悩みの種のようだけど、私としてはあの毎度の茶番劇こそ私が情報収集を開始する為に必要な確認事項だから仕方がない。
そもそも酒に飲まれていない状態のエレンさんなら、私みたいな小娘の挑発に乗っかってこないし、いくら私が泥棒稼業で鍛えた身のこなしと、私の得意な風魔法を駆使したって、本来ならあの狭い空間でエレンさんから私が捕まらず逃げる事なんて出来る訳ない。
それなのにあの人が私を捕まえる事が出来ないという事は、相当お酒が入った証拠であるし、私とエレンさんの追いかけっこを見て聖騎士隊の人達も、本来なら聖騎士が一般人を追い回すという聖騎士としてあるまじき事態を面白がって止めないで見ているという事は、聖騎士隊の面々も相当お酒が回っている状況。
それはつまり私がこのバーで次に狙うターゲットの情報を聞き出しやすい状況に入った証拠。
お酒って人の判断力を鈍らせるから、いくら職務に忠実な聖騎士とは言え、酔いが回った状態だとこの場では決して口にしてはいけない情報を完全に口にしないとはいえ、うっかり断片的に話してしまう事が増える。
後は聖騎士達の話に聞き耳を立て、気になる話題が出たらそれとなしにその話題について触れると、その内容の核心までは話してくれなくても、私が只の小さな町娘だと思って油断して、つい断片的とはいえ私が求める情報をうっかり口にしている事を聖騎士達は気が付いてない。
後はその僅かな情報をかき集めて、私が次に狙う
これこそ私事、
(って言っても、この流れで安定して盗みが成功するようになったのは、このバーで働くようになって情報収集できるようになったからなんだよね)
そこに関しては、このバーで働く事を、条件付きで許可してくれたウィルさんに感謝している。
私はこのバーで働く前から、悪党専門と呼ばれる泥棒稼業を初めていたんだけど、実際は悪党を専門的に狙っていたというよりは、私個人の復讐のために悪党から金品を奪っていただけだった。
そして世間は「私が盗んだ金品を弱き者にバラまいている」というけど、実際にバラまいている相手は、私の生家である”モーリス家”が以前管理していた土地に住んでいた人達で、私がやってる事なんてお金を本来の持ち主達に返してるだけ。
なんでこんなことを私が始めたのかと言えば、私の生家であるモーリス家は、この街の領主を代々務めているオーウェン家や、騎士の家系であるバーキン家のように大きな力を持つ家系ではなかったけど、この街の有権者の中で最も管轄区域に住まう人達と上手に付き合っていたから、この街で最も多くの住民が住まう地域を管理していた。
だけどその状況が仇となり、広大な管理地を治めていたけど武力を持たないモーリス家は、私が七歳の頃に起きたこの街とマフィアの抗争において真っ先に狙われてしまう。
だからと言ってモーリス家と、モーリス家を慕う住民達はマフィアの侵攻に抵抗の意思を示したけど、マフィアに逆らった者に対する見せしめの如く、モーリス家はこの街とマフィアとの抗争で最初に滅ぼされた有権者となってしまった。
そしてモーリス家が管轄していた地域がマフィアに奪われても、その地域に住んでいる人達はマフィア達の侵攻に屈しまいと、その場に留まって抵抗する姿勢を未だに見せている。
だけど現在モーリス家が管理した地域を現在管理しているのは、八年前の抗争でモーリス家を亡ぼしてこの地域を我が物顔で掌握する権限を奪い取った私にとっては憎くて仕方がない存在、アーサニークファミリーで、アイツ等は
「今の土地に住みつづけけりゃ俺らに従え、従わなかったら只じゃおかない」
と言わんばかりに、ファミリーに逆らう者には暴力で訴えかけるだけでなく、重税を課したりと様々な非道な方法を使い、モーリス家を慕ってくれた人達の生きる気力を徐々にかつ着実に削いでいる。
その現状をもはや見るに耐えれなくなった私は、モーリス家唯一の生き残りかつ、パパとママがマフィアの手に掛かる直前まで心配していた住民を何とかして救う為に、一人でアーサニークファミリーと戦う決意を固めた。
だけど私がいくら魔法七階位における高位属性である第三位の風属性に適合を持ったとしても、その属性をどれだけ上手く扱えるのかは、扱う人次第。
正直に言って私は今までロクに争いごとに魔法を使った経験もなければ、モーリス家がマフィアに滅ぼされてからも息を潜め、世間から隠れるように生きて来たので、私自身は非力かつ私の風魔法は逃げる事に特化した方向に育っていたため、戦闘には不向きな性質の風魔法になってしまった。
今さら戦闘用に魔法を鍛えるより、このまま逃げに特化された私の風魔法を活かして、私の家族を奪った奴らに一泡吹かせてやれそうな事と言ったら、精々奴らの活動資金を奪ってやる事ぐらいしか思いつかなった。
だから正直こんなコソ泥じみた事ぐらいしか出来ない自分に不甲斐なさを感じながらも始めた悪党専門の泥棒稼業だけど、世の中がお金で回っている以上、私の地道な泥棒活動は思いの他アーサニークファミリーにとって痛手だったようで、私の事をファミリーが警戒し始めた時は、少しだけ奴らに対する復讐心が満たされた。
憎き相手に一泡吹かせられた事で、少し自分のやってる事に自信が付いてきた私は、もっとアイツ等にダメージを与えてやろうと、調子に乗って大規模取引現場を狙う。
だけど今まで狙って来た小規模の取引の為に準備された少額の資金を奪うのと、大規模な取引の為に用意されたお金を奪うのでは警備から警戒までレベルが違い過ぎて、無謀とも言える挑戦をした私は、手痛いしっぺ返しを食らった。
大規模な現場の警戒体制は、小規模な現場と比べようもないぐらい厳重かつ、ファミリーが完全に敵とみなした者に対する攻撃は非常に苛烈だったため、自分の力を過信していた私など、いとも簡単に奴らに死の淵まで追い詰められた。
だけどそんな私を、颯爽と現れ救ってくれたヒーローこそ、ダークナイト・スカルだった。
正直この街の悪を成敗して回っているダークナイト・スカルの姿を見た時は
(……私も終わりだ)
正直そう思ったから、この後自分がダークナイト・スカルからどんな目に合わされるか想像したら、体の震えが止まらなかった。
いくら私がターゲットにしている相手が、悪徳な方法で金品をこの街の住人からお金を巻き上げている存在でも、私のやってる事は窃盗に違いない。
だからこの街を守っている騎士達に変わって、隠れた悪を成敗して回っている存在に見つかってしまった以上、私もダークナイト・スカルに成敗されるのを覚悟した。
だけど、あの人は私には手を出さない所か、私を追い詰めた奴らを一瞬して片づけると、怪我を追ってロクに動けない私の手当を始めると同時に、恐怖で震える私の手に優しく握ってくれた。
(ああ……私が怖いと思った時に、こんな事して私を安心させてくれたのって、お兄ちゃんとお姉ちゃんにしてもらったのが最後だったかも……)
そんな懐かしいあの頃の思い出が何故か思い浮かんだ。
私の手当が終わった後、私を安全な場所まで運んでくれたダークナイト・スカルは、そのまま何も言わないのでその場を去ろうとしたから
「裏で悪党を裁いている人間が、小悪党は助けるなんて笑えない冗談ですね」
とまだ内心恐怖で怯えている事を悟られないように、必死に強がって皮肉めいた一言を言ってしまった。
今思うと命の恩人に対して、とんでもない事を言ってしまったと思って反省してる。
だけどダークナイト・スカルは、そんな私の一言なんて気にする様子もなく
「君がやってる事は法の上では悪なんだろうが、君は罪が無い人間に対して危害を加えた事がないだろ?
そんな人間に鉄蹄を下すなんて、あまりも馬鹿げている話だと思わないか?
それに法の上では悪党で、今となってはやり遂げた所で何も帰ってこない復讐心を持って悪党に挑んでいるのは、こっちだって同じだ」
そう言ってその場から姿を消したダークナイト・スカルの姿を見て、私がやっている事をほんの少しでも理解しつつ、私のやってきた事を認めてくれる人が居るという事を知って、私は救われた気がした。
この日を境に、私の活動の目的の一つとして、私を救ってくれたダークナイト・スカルに恩を返そうと考えるようになった私は、ダークナイト・スカルの後をとにかく追うようになった。
そしてあの人を追って情報を集めている内に、ダークナイト・スカルが出現するタイミングが、”聖騎士隊が定めた標的を、聖騎士隊が捕まえる手助けをするかのように現れている”という事に気が付いた私は、あの人の行動に関りのある聖騎士隊が通い詰めているというこのバーに辿り着く。
そして聖騎士隊の今後の動向を探り、私が出来るだけ盗みを成功させやすい状況の把握と、あの人に命を救ってもらった恩を報いる事が出来るその時の為の情報を少しでも得る為に、このバーで働けないか頼みこもうと店に入ると、そこには私が出来るだけ顔を合わせたくないと思う人物が姿を現す。
その相手こそ、この街の現領主でありながらこのバーを経営しているウィルさんだ。
実はウィルさんには、まだモーリス家が健在だった頃、この街の有権者達が集う集まりで、元婚約者のエレンさんと一緒に良く面倒を見てもらっていた事もあって、あの二人は私にとって憧れのお兄さんとお姉さんだった。
だけどそんな二人だとしても、今の私には八年前の事件においてモーリス家が滅んだ要因の一つのように考えてしまう。
(どうして? どうしてもっと早くモーリス家に救いの手を差し伸べてくれなかったの? もっと早くオーウェン家やバーキン家が動いてくれたら、パパとママやモーリス家で働いていた人達や、街の皆は死なないで済んだんだよ?)
そんな憎しみの思いが未だに私の中にはあって、どうしても二人には昔のように気安く接する事が出来なくなってしまった。
だけどこのバーで二人と再会して、二人を間近で見るようになってからは、ウィルさんのグラスを握るのがやっとのレベルまで落ちてしまった左手や、聖騎士になる為の修練で、女性の手とは思えない程傷ついているエレンさんの腕を見た時。
それに二人の婚約関係が既に解消されたと知った時、この二人もきっと私と変わらないぐらい「あの抗争」が切っ掛けで苦労してきた事が嫌でも伝わってきた。
だからこの二人に憎しみを向けるなんて……こんな考えを持ってあの二人と接する事自体が間違いだと考えるようにもなった。
だけど、私が七歳の時に体験したあの恐怖と憎しみが、そう思って割り切る事を決して許してくれない。
(パパとママ、それに優しくしてくれた使用人の皆や街の人達! 私の前で死んでいった人達の恨みを、皆が死ぬ事になった要因達に思い知らせなくちゃいけない!)
私の中でそんな怨嗟の言葉が木霊し続ける限り、私はきっとあの二人を心の底から再び慕う事が出来ないんだと思う。
それに幸か不幸か、私の事は二人とも忘れているみたいだし。
だって何度話しても、二人とも私の事を
正直マリリンという名前も、久しぶりにウィルフレッドさんに会って緊張しちゃったから、名前を名乗る時に噛んだ事を誤魔化す勢いで、「マリ…リン」って言っちゃただけだし……別に未だに私がマリリンじゃなくてマリンだって気が付いてくれてないから、淡々と接して訳じゃないけどね……
こうして久しぶりに元憧れの二人と再会した私は、ウィルさんに頼み込んでこのバーで働かせてもろう事となったけど、その際の絶対条件として
「まずこのバーで知り得た事は、絶対僕に教える事、そして僕意外絶対に誰にも漏らさない事!
なんせこのバーで知り得た事を迂闊に誰かに話した結果、どんな危険が君を襲っても僕は責任をとれないからね!!
その事を約束出来るなら君を雇おう」
という事を念押し気味に言われたけど、そもそもここで知り得た情報を誰かに話すつもりなければ、どうしてそんあ当たり前の事を念押し気味にウィルさんが言ってきたのかは、最初は良く分からなかったけど、実際このバーで働いていると、ウィルさんの言いたい事は良く分かった。
街外れにあるこのバーに来るお客さんは、非常に様々な人間がやってくる。
そして酒の席になると人は思わず普段は口に漏らさない事を、うっかり口に漏らしてしまうに事が多い。
そんな状況下でウィルさんは、マスターを務める傍ら、このバーで交わされる会話に耳を向け、何気なしに飛び交っている会話から、この街に関する様々な情報を収集しようとしているみたい。
確かに会話している人間の会話内容によっては、誰かに話せば自分の身に危険が舞い降りてもおかしくない会話だって所々聞こえてくる。
つまりこの何気ない会話から洩れて来る情報を得る為に、ウィルさんはこの街の領主傍らこのバーを経営している。
正直この街の領主として顔が割れちゃってるウィルさんがバーのマスターやって情報集だなんて馬鹿げた事をやってると思ったけど、どうもウィルさんは何かしらの方法で自分が領主とは別人だと周囲に思い込ませているらしい。
恐らくだけど、領主のウィルさんとこのバーのマスターであるウィルさんが同一人物だと気が付いているのは、私とエレンさんだけだ。
それに隣で働いていると、以前ウィルさんが「領主としての視点だけでは、この街の現状が見えてこないから、こうゆう場での情報が欲しい」と言って意味が、私にも理解できてきた。
今やこの街には、私が敵として付け狙っているアーサニークファミリー以外にも、八年前のマフィアとの抗争が切っ掛けでこの街に根城を構えたならず者の集団が、まだまだ数多く存在する。
そんな奴らの情報をバーのマスターとして少しでも収集してエレンさんに伝えたり、この街の目が届いてない情報を積極的に収集して、以前のような誰もが穏やかに暮らせるような街に戻そうとしているのが、隣に居ると否が応でも伝わってくるんだよね。
(だからウィルさんやエレンさんの事を憎みたくても、憎み切れないのかな……)
私はため息を付きながら店の片付けを進め、最後の片付け先である、先程ひと悶着あった人の席の片付けを始めた。
(……そういえば、どうしてエレンさんとウィルフレッドさんが話している姿を見ていると、どうしてあんなに苛立ちゃうんだろう?)
昔から二人を慕っていた事もあって、久しぶりにこのバーで再会した時は多少後ろめたい気持ちはあっても、苛立ちを感じる事なんてなかったのに……そもそもエレンさんを怒らせるような事を言わなくなったって、聖騎士隊がベロベロに酔った状態なんて、簡単に判断出来るぐらい私はこのバーで働いているから、最初はあんなエレンさんに毎度喧嘩売るような事を態々言ってなかったよね?
(考えれば考えるほど、どうして自分が態々あんな憎まれ口を叩いてまであんな事やるようになったのか分かんない……)
結局その後も片付けを終え、店を閉め終えるまでその理由を考えてみたけど、結局私の中でその答えは見つける事が出来なかった……
*
店を閉め終え、マリンが家路に向かうのを見届けた後、僕も我が家に帰る道を歩き始めると、そこには長年オーウェン家で執事を務めてくれているアルフォンスが、僕を迎えに来てくれていた。
「今日もお疲れ様でした。ウィルフレッド様」
「ありがとう、アルフォンス。
今日も色々と大変だったよ……」
そう言った後僕はアルフォンスが用意してくれた車に乗り込むと、アルフォンスは我が家に向かって車を走らせる。
「今日もお嬢様方の争いを鎮めるのに苦労してたみたいですね」
アルフォンスがここ最近顔を合わせたら毎度のように衝突するあの二人の様子を知っているのは、アルフォンスにはあのバーで話した会話を、魔道具とアルフォンスの土魔法を駆使して全て記録してもらっているからだけど、ここ最近この話題がアルフォンスが振ってくるのが、車内で当たり前になってきた。
「……全くだよ。
どうしてあの二人は、ああも仲が悪くなってしまったんだろうね……二人とも僕の事を未だに慕ってはくれているみたいだから、僕の前で争う事なんかしてほしくないんだけど、どう対処したら良いと思う?」
そう言ってため息を付きつつ、ふとエレンとマリンが昔は二人で我が家の庭で仲良く遊んでいたあの頃を思い出せば、どうしてあの二人が店で毎度のように喧嘩してしまのかが不思議で仕方がない。
「フフフ、それに関しては自分でお考えください。お坊ちゃま」
アルフォンスにお坊ちゃま呼ばわりされたという事は、この件に関しては”まだまだ子供”だと比喩表現されたの一緒なので、思わず苦虫を潰したような表情を浮かべた後、このままお坊ちゃま扱いされたくない僕は、あの二人が争う理由を必死に考える。
「……僕には女心なんて到底理解出来そうにないみたいだ」
結局幾ら考えても、あの二人が争う原因が分からない僕は、両手を上げてアルフォンスに降参のポーズを示すが、やはりこの事については何度もアルフォンスに揶揄われ、その度に答えが分からないから降参のポーズを示しても、やっぱりアルフォンスはこの答えを教えてくれない。
「……答えは自分で見つけろって事か」
「なにかおっしゃいましたか?」
「なに、アルフォンスはやっぱり手厳しいな、とボヤいただけだよ」
そう言うとアルフォンスは笑っていたけど、やっぱりこの事に関してアルフォンスは、これ以上何も言わなかった。
「しかし、二人とも強く美しくなれましたな」
「ああ、エレンはこの街を守る聖騎士に。
マリン……じゃなくてマリリンは裏から悪党を懲らしめる義賊に。
どうして二人揃って自ら危険な道に進んでしまったんだろう……」
僕としては、幼いころから親交が深かった二人には、危険かつ目的を果たし終えたしても何も残らない道なんて歩んで欲しくなかった。
「二人ともそれぞれの思いがあって、その道に進んだんだと思いますよ?」
「それは分かっているつもりなんだけどね……」
例えそうだとしても、二人とも本当の敵の強大さが見えていない事が問題なのだ。
きっとエレンもマリンも、あの八年前の事件が切っ掛けでこの街に根城を築き上げた悪党達の残党を倒せば、二人にとっての戦いは終わると思ってるのかもしれない。
だけど実際は違うんだ!
8年前に起きたこの街とマフィアの一大抗争において父と母、そしてそれ以外にも多くの物を失うと同時に、利き手である左に大怪我を負った所為でまともに剣を握る事さえ出来なくなった僕は、失った多くの物に対して悲しみに明け暮れる時間もなかった。
なんせ父と母だけではなく、僕意外のオーウェン家の人間は皆抗争の犠牲となって帰らぬ人となってしまった事で、僕は抗争が終結した直後に12歳という若さでオーウェン家の当主になると同時に、この街の領主に就任する事となり、多忙な毎日を送る事となった。
しかし、この状況は良くも悪くも僕が多くの物を失った悲しみに暮れる時間を奪ってくれた事で、僕はオーウェン家の当主かつ、この街の領主として、多くの物を突如背負わされたプレッシャーに押しつぶされないように、毎日何かに追われて奔走し続けていた日々の中、父の書斎を整理していると、厳重に管理されていた古い手記を見つけたので、何となくその手記が気になった僕は、その手記を読み始める。
するとその手記には、予想だにしない事が数多く記されていた。
実はこの街が誕生した切っ掛けは、オーウェン家が持つ
そしてオーウェン家が『全てを賭して管理せよ』と王国から託された物こそ、この世界を作ったとされる七つの神がこの世界に残したとされる神遺物の一つであり、僕がダークナイト・スカルとして活動するに当たっての必須物でもある”シェイドの鎧”だ。
そして八年前にマフィア達が突如大群で押しよせ、この街を乗っ取ろうと企てた本当の狙いこそ、このシェイドの鎧だったのだ。
なんせ、「もう左腕はロクに動かせない、動かせるようになったとしても、精々軽い物を持てればいい方だ」、と医者にハッキリ宣言された僕の左腕は、シェイドの鎧を装着すれば再び自由に動かせるようにしてくれるし、シェイドの鎧の力で利き腕として復活した僕の左腕は、パラディンの中でも間違いなく五本の指に入るとされるエレンと、左腕だけで互角以上に打ち合える程の身体能力を与えてくれる。
【神遺物を全て揃える事が出来た暁には、この世界を思うがままに出来る!】
などという一見大げさな伝承が今でも世に伝えられているが、実際この鎧の効果を体感した僕からすると
『割とこの伝承は洒落になってないね……』
そう思わせるには十分すぎる効果を見せているし、こんな規格外の効果を持つ物がこの街にあると知らなければ、マフィアが全滅する危険を冒してまでこの街に抗争を仕掛けるメリットが、あまり希薄だった事も僕の中ではずっと引っ掛かっていた。
この街の良い所と言えば、気候と土壌が良く、王都からも近い。
だけど王都から外れてはいるから発展度合いはそれなりだし、独自の田舎臭さも残っている地域も多いので、誰もが住みやすいとされるが、それはあくまでもこの地に住まう一般人の意見でしかない。
ではマフィア達やならず者にとってこの街が魅力的か?と言われたら、そうとも言い切れない部分があまりに多いんだ。
だといういのに奴等がこの街を狙ったのには、「別の狙いがあるのでは?」と考えていた事もあったけど、まさかその考えが的中するとはこの時は思ってもいなかったよ。
そして当主と領主の業務を遂行しながらあの抗争を仕掛けたマフィア達について調べていると、どうもあの抗争を仕掛けたマフィア達は、ある秘密組織の末端であった可能性が徐々に浮かび上がってくる。
その組織の名はイルミナーテンと呼ばれ、世界を股に掛ける闇の組織の王であると噂され、名前が独り歩きして実在しない組織ではないのか?とも言われている謎の多い組織だった。
しかし父の残した手記には、オーウェン家とイルミナーテンが過去に何度か神遺物であるシェイドの鎧を巡って争ってきた過去が記されてるだけでなく、イルミナーテンに関する情報もしっかりと書き残されていた。
その手記に残された記録をヒントに、僕はこの街に抗争を仕掛けて来たマフィアがイルミナーテンの末端組織だという事を調べ、なおかつイルミナーテンが実在する巨大な組織だと認識すると同時に、僕から多くの物を奪った復讐すべき真の敵として戦うべき相手を悟った。
こうして僕は新領主としてこの街の復興に力を注ぎつつ、僕が復讐すべき敵の情報を探るという目まぐるしい生活を送っていると、何時の間に七年と言う時間が過ぎていた。
この頃になると、何とか僕もオーウェン家の新たな当主としても、この街の新たな領主としてもある程度板につき始めた頃、僕と婚約破棄した後に騎士になる夢を叶えるべく王都に移り住んでいたエレンが、魔魔法七階位の最上位属性である光属性に覚醒し、王国の騎士団にて最上位騎士の称号であるパラディンの地位に就いただけでなく、パラディンの中でも上位の実力者にしか与えられない称号であるシャインナイトの称号得たという情報は僕の元にも直ぐに届いた。
だけどエレンがその権限を駆使して、この街を守る為の特務部隊パラディン・ナイツを結成してこの街に帰ってきた時は、色んな意味で驚かされた。
だけど翌々考えてみれば、王国もこの街に神遺物が隠されているのは主知の事実だろうし、きっとこの街が未だにイルミナーテンに狙われている事を知っている事を考えたら、この街に王国の重要な戦力を送ると言う異例の措置も、実際の所は当然の措置だったんだろう。
こうして鳴り物入りでこの街に帰ってきたエレンは、己が率いるパラディン・ナイツと共に、マフィア達との抗争が残していった負の遺産でもあるこの街に根城を築いた悪党達を次々と成敗し始める。
正直言って贔屓目にもエレンの騎士としての活躍は目覚ましい物があり、エレンがこの街戻って次々と悪党達を成敗してくれるお陰で、全体的に見ればあの忌まわしき抗争以来悪化の道を進んでいたこの街の治安の悪化が止まったぐらいだ。
しかしそのあまりに派手で目立つパラディン・ナイツの活躍は、決して怒らせてはいけない存在の逆鱗に触れようとしている事をエレンは知らない。
そう、エレンの活躍は多くの犠牲を払ってまでこの街に自分たちの拠点を構える事に成功したイルミナーテンにとっては、鬱陶しくて邪魔な存在なのだ。
エレン自身はまだ気が付いていないけど、イルミナーテン側も自分たちの計画を邪魔して回る存在として、パラディン・ナイツに目を付け始めている。
今はまだイルミナーテンも本腰を入れてエレン達をを始末しようと重い腰を上げる様子を見せていないけど、大規模な闇組織が本腰を入れて攻めに入ったとなれば、パラディン部隊の一つや二つ消す事など容易い事だ。
だからこのままエレンが活躍を続ければいつかエレンが両親のように消されてしまうと感じた僕は、イルミナーテンにとってエレン以上に厄介な存在となるため、ダークナイト・スカルとして活動を表立って開始する事を決意する。
要はイルミナーテンにとって、エレン達より僕の方が厄介かつ組織の勢力を削っている主原因と認識させる為に、エレン達パラディン・ナイツには申し訳ないけど、僕はエレン達の活躍を奪う立ち振る舞いをする事にしたのだ。
その結果ダークナイト・スカルはエレンにめちゃくちゃ怨まれているけど、正直言ってダークナイト・スカルとしてエレンと対峙する度あーだこーだと文句を言われるのは、あまりいい気分じゃない……
こうする事でエレンから嫌われる覚悟は決めていたつもりだけど、実際未だに目の前で罵声を浴びせられると、内心「キツイな……」と感じている僕だけど、エレンに今まで見た事がないくらい悲しい表情をさせてしまった【婚約破棄】を突き付けといて、我ながら何様だと思うよ。
だけどイルミナーテンの一番の狙いが、僕が扱うシェイドの鎧という神遺物であり、僕が現状最もイルミナーテンに大打撃を与えている以上、否が応でもイルミナーテンは僕を追わざる負えない。
それに僕がエレン達より先に悪党を無力化させておけば、エレン達に対しての危険は大いに減る事に繋がるし、ダークナイト・スカルには法の下で悪を裁く力を一切持たないので、悪党達はエレン達王国騎士団という法の元で裁く力を持つ存在にしっかりとその罪を明るみにして裁いてもらうのも、自分たちの存在をまだ公にしようとしないイルミナーテンの活動を抑止する事に繋がる。
だからエレン達のパラディンの存在も、この街を以前のような誰もが住みやすい街に戻す為には絶対に必要不可欠な存在なのだ。
そして僕にとってはもう一人見逃す訳に行かない人物が、エレンとほぼ同じタイミングで僕の前に現れる。
その人物こそ、僕がダークナイト・スカルとして悪党と戦うようになった頃とほぼ同時現れ、今や陰では市民から絶大な人気を得ている存在、シィーヴィング・コラットことマリンの存在だった。
彼女もまたイルミナーテンにとっては活動資金を掠めていく厄介な存在として、イルミナーテンに目を付けられ始めていた。
おまけにその正体が、かつて妹のように可愛がっていたけど、あの抗争に巻き込まれて命を落としていたと思っていたマリン・モーリスだと知った時は驚いたけど、まさかマリリンと名乗って僕の情報収集用のバーに姿を現した時はもっと驚いた!
マリンが、シィーヴィング・コラットとして活動している背景には、マーリンの両親や親しい人達を奪った復讐として、この街に巣食う悪党達をターゲットに金品を奪っているのだが、実は僕としてはこの活動非常に助かっている面がある。
実は悪党達の不当な資金を騎士団が回収した場合、その資金は騎士団本来の管理者である王都に一度受う渡され、その後不当な資金がどうなるのか決められるので、エレン達が回収した資金が再び悪党に搾取された人たちの元に戻るには時間が掛かるし、必ずしもその資金がこの街に還元されるとは限らないので、いくら悪党を片付けた所で、悪党から不当な搾取を受けた者達の状況が直ぐには改善される訳ではないからね。
コレに関しては行政においても様々な問題があるから迂闊に手を出せなくて困っていたのだが、マリンが資金を奪われた者達に返してくれるのであれば、その問題を完全ではないにせよ大幅に解決してくれていた。
そのため、今やこの街の状況としてはとても助かっているマリンの活動にも、僕は出来る目を向けていた。
だけど僕の体は一つしかないし、その目をエレンの活動にも向けなくてはいけない以上、二人の活動にそれぞれ目を向ける事には限界があった。
だから何とか既の所で間に合いはしたけど、危うくマリンの命が失われる危機に直面した時は、本当に気が気がじゃなくて、正体がバレる可能性のリスクなんて一切気にしないで、思わずマリンの手当した後に、安全な場所まで運んでしまったのは、正直我ながら身内と思った人間に甘いと思ったよ。
それと同時に、「このままだとまた大切な者を失ってしまう」という恐怖が僕の中で大きくなる。
だからその不安を少しでも解消できないかと、何とかエレンとマリンを危険から出来るだけ遠ざける方法がないか?と頭を悩ませていると、突然マリンが僕の情報収集用のバーに現れて
「お願いですからここで働かせてください!」
と頼み込んできた時は
(この街を良くも悪くも騒がせている三人がこの場に集う状況を作るのは流石に何が起きるか読めないからマズい……)とさえ考えた。
でも冷静に考えると、エレンとマリンに上手く情報を与えれば、二人の活動を上手くコントロール出来るんじゃないかと僕はふと考える。
なんせエレンは僕が彼女の邪魔をしているから僕を捕まえようと追いかけ、マリンは僕が以前彼女を助けた事に恩を感じているからか、僕の後を付いて来ようと必死に探している。
(そう考えたら上手く情報を流しさえすれば二人の行動は以前より把握しやすくなるのでは?)
そう考えた僕は、マリンが僕の店で働く事を承諾したんだけど、きっとこんな考えをもって二人に接している事を知られたら、きっと僕の事を二人とも軽蔑するだろうな……
だけど全ては二人をこれ以上危険な目に遭わないためでもあって、エレンが表で動く光の騎士だとするなら、僕は裏で動く闇の騎士となり、マーリンがこの街にとって貧しい物を助ける心優しい義賊であるなら、心優しい義賊が輝くための汚れ仕事は、僕が全て引き受ける。
その為にも、僕はこの街を狙う巨悪と一人で戦う事を決意したからこそ、二人が僕の本当の姿を知り、僕の事を恨んだとしても僕はこの道を突き進むと心に誓った。
(だから僕の事を未だに慕ってくれてる二人には悪いんだけど、僕はエレンともマーリンとも同じ道を決して歩むことは今後絶対にないだろう……)
そう心に誓いダークナイト・スカルとして今日も活動を続けてはいるが、今日エレンが【共に、騎士となって街を守る未来】についてぼやいてた事をふと思い出してしまった後、エレンとマリンが昔のように追いかけっこしている姿を見たら、ほんの一瞬だけど今となっては決して叶わない未来を、僕とエレンが騎士となって街を守り、それを隣でマリンが隣で応援してる未来をほんの僅かだけど想像してしまった。
もはや叶う事のない夢だというのに、まだ子供の頃に思い描いた夢を諦めれていないから、そんなもはやあり得もしない世界を想像してしまうのだろう。
もはや儚い夢でしかない僕の姿だというのに……いや、だからこそ僕は、闇に紛れて活動する髑髏の騎士となって、この街とエレンとマリンを裏から守り、父と母を死に追いやった真の元凶に裁きを下す為に、僕は闇の存在として生きる道を選んだのかもしれない……
そしてこの時僕はまだ気が付いていなかった。一見違う思惑で動いている三人だけど、目指すべき先は同じ場所だという事に。
そしてその事に三人が気が付いた時こそ、この街に真の平和が訪れる時だという事に。
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