変化
変化
精神的な不安定さの原因がつかめた。俺の中にも変化が起きていた。
「そう。随分、作法が綺麗になりましたね。」
「ありがとうございます、先生。」
茶室には抹茶の香りが立ち込めている。俺はこの時間を結構気に入っている。
書庫の本で作動について調べた。そこで見つけたのは茶道が人格を育てるのに大変いいことだった。
確かに、作動を始めてから、感情の揺れに気づけるようになった気がする。それに、心のざわつきが起きにくいことにも驚いている。茶道を押し込んでくれたお父様に感謝だな。
「それでは、また来週、お稽古いたしましょう。」
「先生、ありがとうございました。」
俺たちは向かい合って礼をして、お稽古を終わった。
瞑想も取り入れた。魔力を増やすのとは関係ないやつね。
ベッドの上で胡座ですわり、目を閉じて力を抜く。
普段は気にも留めなかった音や温度、動きを感じるんだ。風の音。廊下を歩く誰かの音。肌に触れる影の感じ。ふわっとした暖かさ。
たまに眠ってしまうこともあるけれど、瞑想の後はものすごくスッキリした気分になる。ストレス解消にもってこいなわけが深く理解できたよ。
「坂口、小碓入れて!」
「はい、隆景様。」
瞑想の後の「薄茶」はまた格別なんだよ。坂口に薄茶を立ててもらい、和菓子と一緒にいただく。瞑想後の新しい習慣だね!
最近の俺は、僕が拒否し続けてきた芸術にも取り組んでいる。今日は舞踏室でダンスの練習だ。
「隆景さん、綺麗な姿勢ですよ。そう。ステップも上手ですよ。」
まさか、この俺が女の子と社交ダンスなんか踊ってるんだぜ。ダンスの先生の娘さん優里香ちゃんの手を取り、腰を抱き、腰を密着させて! 女の子ってすごく柔らかいんだな! それに優里香ちゃん、めっちゃ可愛いし!
「クイック、クイック、ターン。そうです。お見事ですよ、隆景さん!」
社交ダンスどころか、音楽に合わせて踊るなんて、前世から一度もなかった。今世の盛りだくさんぶりに得した気分だ、
「はい、素晴らしいダンスでした。隆景さん、大変素晴らしい踊りでした。」
「あ、あの、ありがとうございます。」
なんか、顔が熱い。女性から褒められ慣れてないせいか、照れが出てしまった。
「あ! 隆景君、顔が赤い!」
優里香ちゃんから指摘されて、照れたことがまた恥ずかしくなってしまう。
「そ、そんなんじゃ、ありません!」
やべ、また顔に熱が!? すると、なぜか、俺の体が柔らかいものにツッれる。
「うふふ、照れちゃって。ほんと可愛いんだから、隆景君は!」
こ、これはもしかして、俺、優里香ちゃんに抱きしめられているのか!! やべー! まだ胸はないけれど、女の子に抱きつかれるのがこんなに気持ちいいのか! 落ち着け、リトル俺!
「はいはい、優里香、そのあたりにいたしましょう。隆景さん、それではまた来週、レッスンいたしましょう。」
「魔理沙先生、ありがとうございました。」
ダンスの練習、違う意味で好きになっちゃいそうだわ。
器楽はチェロを選んだ。見た目だけなんだけどね。
「隆景君、それじゃ、レッスンを始めよう!」
「お願いします、たかちゃん!」
チェロの先生は小沢崇史先生。なぜか、先生と呼ばれるのを嫌う不思議な人だ。
「じゃ、いつも通りこれつけてごらん。」
チェロのレッスンの時はバングル型のデバイスをつけることから始まる。バングルをつけたらチェロを弾き始める。
「その動きをよく覚えてね。ルルールルルー♪」
バングルがあるおかげで楽正しいチェロの弾き方が体に染み込む。3回くらいバングル付きで練習したら、バングル無しで引く。
「そう! いいね。そこよく弾けたね!」
バングルを外すと少しずつ間違えたり、思ったようなタッチにできなかったりが出てくる。でも、俺にはそれがほとんどない。弾きたいと思うとなぜか弾けてしまうんだ。
「お見事! 隆景君、君にはチェロ弾きの才能がある! この僕が証明するよ!」
「はい?」
今の演奏で才能があるって本当かよ? 俺はたかちゃんの言葉を疑った。なのにたかちゃんはますます笑顔を深めた。
「その顔、僕のこと疑ってるな? なら、これを聞いてご覧よ。」
たかちゃんが取り出したデータチップを受け取り、自分のプレーヤーに入れる。そして、プレーヤーを再生させる。
さっき、俺が引いたチェロの音が聞こえてくる。確かにいい音だ。それに、何か心に沁みてくる。
「わかったみたいだね、隆景君。今、心が動かされた感じしたでしょ? これが君の才能なんだよ!」
そうか。確かに、エ◯ネムには心を高揚させられた。LM◯AOには体を動かさざるを得ないと思わされた。湘◯乃風には勇気づけられたり、泣かされたりした。俺にも心を動かす演奏ができるなんてな! すげー!!
「たかちゃん、俺は戦う方が好きだけど、チェロも頑張ってみるよ!」
「うん。才能を伸ばせば、来世にも持ち越せるからね!」
俺は自分の新たな才能に心が躍るのを感じた。
「……と、いうことがありました!」
「そうかそうか。隆景は音楽にも際の絵があるのか。」
音江様の執務室に呼ばれた俺は、お茶を飲みながら今日あったことを音江様に報告していた。音江様はいつでも俺の話を楽しそうに聞いてくれる。なぜか、僕の心だけじゃなくて俺の心まで温かく、ホッとするんだよな。不思議なもんだ。
「それにしても、ふふふ。隆景にそんな一面があるなんてな。」
「お父様、もうダンスのことはいいではありませんか!」
「だってなあ、いつも堂々としている隆景が、まさか顔を真っ赤にして。想像するだけで顔が綻んでしまうよ!」
「恥ずかしいからやめてください!」
お母様の死を知った以降、こうしてお父様と過ごす時間を積極的に持つようになった。ほんと、俺は隆景のことがエラやましくなるよ。
「さて、今夜はもう遅くなってしまったね。隆景、また明日も話を聞かせてくれるかい?」
「はい、お父様!」
自室に戻り、坂口に布団を被せてもらう。
「それでは、明日もまた午前6時に起こしに参ります。」
「坂口、いつもありがとう。」
「お礼の言葉、ありがたく頂戴いたします。それでは、お休みなさいませ。」
「おやすみ。坂口もゆっくり休んでくれ。」
「かしこまりました。」
坂口が部屋から出ると部屋の明かりが少し落ちる。俺が眠くなるにつれて明かり釜落ちていくんだ。これ考えた人すごいよな。
「さて、俺も寝るか。」
午後8時。俺はベッドに潜り込んでしばらくすると、すぐに眠ってしまう。なんとも子供らしい。こちらの世界に来てもうすぐ一年半だ。ずいぶんこちらの方に慣れてしまった。
現状、すごくうまくいっている。だが、本番はこれからだ。自分の破滅を回避しつつ、QOLまで高めてやる。前世、できなかった人生も全うしたいしね。
これから、もっともっと頑張るぞ!
微睡の中、俺はそんなことを思えのだった。そ
(仮)転生悪役貴族は。 松龍 @maz-ryu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。(仮)転生悪役貴族は。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます