精神的な不安定さ
精神的な不安定さ
戦闘訓練場。
6歳になった。やっと、6歳児らしく刀を振れるようになった。
「シッ!」
「隆景様、お見事です。今日はここまでにいたしましょう。」
「先生、ありがとうございました!」
俺は体が動くようになったが、まだまだこれからだと感じていた。そしてもう一つ、気になることがあった、
ソファーに座り、メイドの坂口が入れてくれるお茶を楽しんでいた。
「それにしても、時々、精神的に不安定になるのはなぜだろうか?」
ここのところの悩みはこれだった。
前世は両親の言う通りのことしかやってなかった。だけど、やれば褒めてもらえた記憶が残っている。もちろん、隆景にも母親から可愛がられていた記憶は残っている。
そんな考え事をしている時だ。ドアがノックされた。
「どなたですか?」
坂口がドアの向こうへ声をかける。すると、男性の声が返ってきた、
「ご当主様が隆景様をお呼びでござおます。執務室までお越しくださいませ。」
どうやら父上がお呼びらしい。
「坂口、案内してくれ。」
「かしこまりました。」
魔道エレベーターを使い二階へ。長い廊下を歩き、父の執務室に着いた。坂口がドアをノックして入室を告げる。
「隆景様をお連れいたしました。」
中から父の声が聞こえる。
「入れ。」
父の執事、藤野がドアを開けてくれる。俺だけが執務室に入る。入ってすぐ、ドアが閉まり、俺は入室を告げる、
「お父様、隆景参りました。」
実務机に向かう茶髪の長髪男性がペンを置いてこちらに顔を向ける。俺をみるといかつい顔が柔らかい笑顔へと変わる。
「隆景! よくきたな。」
俺の体がふわりと浮いたかと思うと、目線が急に高くなる。どうやら父に抱き抱えられたみたいだ。
「ははは! 大きくなったな。それに重くもなった。さあ、ソファーに座ろう。」
父、隆虎は子煩悩なちちおやだ。だが、政治家としては利権屋と呼ぶのが正しい。いい人なんだけど、政治を習った相手、祖父から学んだのが悪かった。
「隆景、私は少し忙しいから、手短に伝えるぞ?」
「はい、お父様!」
「うん、いい返事だ。隆景、これから新たに茶道を勉強に増やすぞ。」
茶道? あの、花嫁道具のやつ? それって、やる意味あんのか?
「神茶の先生だから、意味もしっかり教えてくれるぞ。」
「頑張ります!」
「うむ、立派な人間になるのだぞ?」
「はい!」
こうして茶道が学びの一つに加わった。本当に茶道をやるのか? 神茶ってどんな茶道だ?
茶道のお稽古は大変だった。こんなにきついとは夢にも思わなかった。
自室のソファーに座り、坂口が入れてくれた薄茶を飲む。茶道を始めて気に入ってしまったんだ。だって、うまいんだもの。
「まさか、茶碗を回すのにも、相手を尊敬する意味が込められていたなんてな。」
それにしても、俺の体は相変わらず精神が不安定だ。茶道を学び始めて余計に分かった。
「これには、何か大きな原因があるはず。ちょっと調べてみるか。」
俺は隆景の記憶を辿る。母親、かすみとの記憶は3歳の誕生日を過ぎたあたりでぷっつりと消えていることに気づく。他にも、遊ぶ時間が少なすぎるとか、勉強詰め込み過ぎとか、あげれば出てくる。それでも、母親との関係が気になる。
俺は動き出すことにした。
「坂口、お母様の部屋へ案内してくれ。」
「かすみ様のお部屋でございますか?」
「ああ。何か問題あるのか?」
「いいえ。承知いたしました。」
坂口に案内されて母の部屋へやってきた。扉を開けて、俺は驚いてしまった。
「誰もいない?」
いや、それだけじゃない。家具も、カーテンも絨毯もない。部屋には何もなかった。僕の心が痛む。なぜかほおが濡れていた。
「あれ? 涙が。」
坂口はハンカチで俺の顔を拭く。坂口の表情は子を思う母親のように心配顔だ。
「坂口、お母様は?」
坂口は一瞬、何かを考えたような表情を浮かべてから、話し始めた。
「かすみ様は隆景様の妹君さくら様を近江になる前、大きな病にお係になられました。」
俺は、僕は、坂口から目が離せなくなっていた。坂口の話を聞くにつれて胸が破れそうな感じがました。思わず胸に手を押し当てた。
「母子共にお助けになろうといたしました。ですが、おさんの途中、かすみ様の体調が急変いたしました。せめて、さくら様だけでもとお医者様は全力を尽くされました。ですが、かすみ様もさくら様も帰らぬ人となられたのです。」
「そん、な。」
とめどなく流れる涙は、拭いても拭いても拭いきれなかった。まさか、隆景に、四条院家にこんなことがあったなんて。
自室に戻り、俺はベッドに突っ伏していた。
「はぁ。3歳児にこんなことが起きるなんて、精神的に不安になるに決まってるよな。」
前世の俺は甘ったれてたんだと、両親に甘えていたんだと、思いっきりわからされちまっていた。
「ハンマーでこめかみぶん殴られたみてえだ。」
俺は今世こそ精神的に自立した人間になりたいと、そう心から願うのだった。
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