第1話シナリオ

▶第1話のシナリオ


■夢(ぼやけた体育倉庫)・昼


<ダルい……>


<頭が痛い……>


どこからか水滴がパタタッと落ちてくる。


<涙……?>


<誰か泣いてるのか?>


ぼやけた顔の輪郭が視界に飛び込んでくる。


?「ごめん、ごめんね……」


視線が、泣いていると思しき目元に吸い寄せられる。


<だから誰だよ……>


<誰だよお前……>


■夢から覚める・朝


目覚まし時計がピリリリリリ! と鳴り響く。


自室のベッドで上半身だけ起こし、ぼんやりする主人公・日向あおい。


あおい(またあの夢か……)


■挨拶飛び交う教室・朝


<日向あおい 15歳>

<この春高校に入学したばかりの一年生だ>


自席の机で鞄をおろすあおい。

そのまま席に着きながら、あおいはチョイチョイと自分の前髪を直す。


<高校生活はわりと順調>


■あおい自宅前のポスト・放課後


<このことをのぞけば>


カタンとポストのふたを開けると、そこには差出人名の書いていない封筒が一つ。

あおいは思わず渋い顔をする。


あおい(また差出人不明……)


クルッと封筒を裏返すと、そこには【日向 あおい様】の宛名。

毎月恒例の不可解な出来事に、あおいは困り顔で天を仰ぐ。


■ひまりの通学路・放課後


同時期に別の場所で同じ空を仰ぐ女生徒の影。


■万国旗の飾られた校庭・回想


<コトの始まりは5月 体育祭>


■救急車・回想


<閉会後、体育倉庫で後片付け中>

<上から降ってきた道具が頭にぶつかったオレは>

<意識をなくして救急搬送された>


■打ち上げグッズの散らかる机上・回想


<予定されていたクラスの打ち上げもそのせいで中止>


■穏やかに笑うクラスメートたちの顔・回想


<後遺症もなく戻ってきたオレを>

<クラスのヤツらは温かく迎えてくれたけど>


■黒背景・回想


<正直、消えたい>


■宙に浮く封筒・回想


<そんな時に届いたのが>

<差出人不明の封筒だった>


■カーネーション・回想


<中身はカーネーションの栞>

<便箋はない>


■桜、カーネーション、紫陽花の舞う空間・回想


<よく見ると家のオレの机の引き出しには似たような封筒があって>

<中身は桜の栞>

<今月のは紫陽花>

<これで3通目だ>


■黒背景・回想


<が、>


■教室・朝


<正直気味が悪い>


目をつむりながら冷や汗を流すあおい。


あおい(身に覚えがなさすぎる)


クラスメート「あおいー!」


クラスメート「今日帰りカラオケ寄らない?」


目をキラキラ輝かせながらわらわら集まる女子たち。


あおい「そうだなー」


頭の後ろで手を組みながら答えるあおいの横を、ヒロイン・吉野ひまりが通り過ぎようとする。


あおい「吉野さん!」

ひまり「!?」


あおいが声を掛けると、ひまりは大袈裟なまでにビクリと肩を震わせる。


あおい「吉野さんもどう? カラオケ」


とびきりの笑顔でひまりを誘うあおい。

対してひまりの表情はひきつり、手元は荷物をギュッと抱え込んで力が入っている様子。


「……」


左を見るひまり。


「……」


ひまりは黙り込んだまま、今度は右に視線をやる。

直後、お辞儀をするや否や、そのままダッシュであおいたちから離れるひまりに、あおいは驚き声を上げる。


「あっ」


その間にも、ひまりの姿は見えなくなり、後にはあおいたちだけが残される。

あおいは頬を掻きながら首を傾げる。


あおい「……?」


そんなあおいを、クラスの女子たちはクスクス笑いながら揶揄する。


クラスメート「あおいも酷だねー」

あおい「え?」

クラスメート「吉野さん 喋れないんだって」

クラスメート「バメン?カンモク?とかなんとか」

クラスメート「先生たちが話してるのきいたことある」


<バメン カンモク……>


クラスメート「喋れない子カラオケ誘ったって歌えないじゃんねー」

クラスメート「ホントー 鬼畜ー」

あおい「どーせオレは鬼畜ですよ」


口を尖らせるあおいに、女子生徒たちはキャハハと笑いながらまとわりつく。


クラスメート「やだあおい 拗ねないでー」

クラスメート「ごめんて」


そこへ英語の先生がやってきて、授業開始を告げる。


先生「英語始めるぞー 席着けー」


あおいが頬杖をつきながらチラリと横を見ると、そこには既に自席に着くひまりの姿が。


あおい(いつの間にか戻ってきてる)


先生「じゃあまずは前回の続きの本文を今日の日直に――」


言いかけて何かに気づく先生。


先生「あー悪い 今日は吉野か」

先生「じゃあその次の芳原 読んでくれ」

芳原「えー!?」


ガタンと起立しながら先生に文句を言う芳原。


芳原「ちょ、なんでー!? せんせー!」

先生「吉野は問いの答え黒板に頼むなー」


そんなやりとりを見て、「ふーん」と感心するあおい。


あおい(先生も配慮してんだ)


■校舎・放課後

「バイバーイ」「また明日ねー」などとガヤガヤ賑わう生徒たち。

そんな中、朝あおいに話しかけてきた女生徒たちが、再びあおいに声を掛ける。


クラスメート「あおいー 朝言ってたカラオケどうする?」

あおい「おー」


生返事をしながら、横をスッと通り過ぎた、体操着姿のひまりが気になるあおい。


あおい「わりー また今度にするわ」

クラスメート「えー!?」


■中庭・放課後


ひまりを追いかけ、中庭までやってきたあおいは、キョロキョロと辺りを見回す。


あおい(こっちのほうに来たと思ったんだけど……)


そこで、探していたひまりの姿と、用務員の木島が会話をしているのを見つける。


あおい(あ、いた)

あおい(あれは用務員の木島さん……?)


木島「じゃあこの肥料、あっちのプランターによろしく」

ひまり「はーい」


<!?>


声を出したひまりに、あおいはびっくり仰天。


<しゃ、しゃべっ>

<喋……?>

<喋ってる…… よな……?>


動揺してる間も、ひまりと木島は言葉を交わす。

ひまりがその場をテクテク離れた隙に、あおいはスススーッと木島に近づき、ヒソヒソ声で話しかける。


あおい「木島さん、こんちは」

木島「おや日向くん、こんにちは」

あおい「今、吉野、普通に喋ってましたよね?」

木島「ん?」


あおいの問いに、木島は意味深な笑みを向ける。


木島「あ、あー そのこと?」

あおい「アイツ喋れないってきいたんスけど」

木島「そんなことはないよ」


作業するひまりを横目に会話するあおいと木島。


木島「ただねぇ 喋れるタイミングが限定的っていうか」

木島「おじさんもよく知らないんだけどね」


■時間経過


■あおいの部屋・夜


自室のベッドの上で、スマホ片手に仰向けになるあおい。

スマホの検索画面には「かんもく」の文字。


【家では普通に話すのに、学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない症状です。】

【「話さない」訳ではなく、「話せない」のがポイントです。】


あおい(場面緘黙……)

あおい「字 ムズ」


緘黙についての解説を読みながら、うとうとし始めるあおい。

そのまま眠りに就き、夢の中へ。


■夢(校舎)・放課後


クラスメート「あおいー!」

クラスメート「あれー? あおいどこ行った?」


あおいを探して廊下をうろうろする女生徒たち。

そんな彼女らから逃げて、あおいは壁の陰に隠れている。


あおい「……」

あおい(行ったか……?)


フー、と息を吐きながら壁から顔だけ出すあおい。

女生徒たちがいなくなったのを確認すると、窓の外を眺める。


あおい(たまにはほっといてくれっつーの)

あおい(アイツら帰るまでどっかで時間つぶすか)


■夢(中庭)・放課後


あおい「♪~」

あおい(ゲッ)


中庭に移動するも、女生徒たちが「こっちかなー?」と言いながら歩いてくるのを見つけるあおい。


あおい(どっか隠れるとこ……)


隠れ場所を探してダッと走り出すあおい。

目の前には肥料を抱えながら歩く???(ひまりの顔が黒く塗りつぶされている)の姿が。


あおい「!」

あおい(あれは●●さん!)

あおい「ごめん匿って!」

ひまり「!?」


ビクッと驚く顔の塗りつぶされたひまり。


■夢(花壇)・放課後

肥料の山の前で庭仕事をするひまり。

その後ろを、女生徒たちがバタバタと走りながら通り過ぎていく。


クラスメート「ねー、今こっちで声しなかったー?」

クラスメート「向こうかも!」

あおい「……」

あおい「行ったか?」


ぷはっ、と隠れていた肥料の山から勢い良く顔を上げるあおい。


あおい「助かったー!」

あおい「けどクッサ! 何この臭い!?」


キラキラの満面の笑みで言うあおいに、ひまりはきょとんとする。

直後、くすくすと笑いだすひまりにあおいは思わず驚いてしまう。


あおい「!?」

ひまり「?」


対するひまりは、そんなあおいの態度に不思議そうに首を傾げる。


あおい「●●さん、笑うんだ?」


あおいの発言に、ひまりは不満そうに「むー」と頬を膨らます。

徐にそばに落ちていた木の枝で地面に何かをガリガリ書き始めるひまり。

あおいは立ったまま、ひまりの手元を覗き込み、一文字ずつ読み上げる。


あおい「?」

あおい「ひ」

あおい「ど」

あおい「い」

あおい「酷い?」


首を傾げながら尋ねるあおいに、ひまりはコクコクと頷く。


あおい「ごめんて」


ハハッと笑いながら、あおいはそばの花壇に何かが咲き乱れていることに気がつく。


あおい「これ、なんかの花?」


あおいの問いに、ひまりは再び木の棒で地面にガリガリ文字を書く。

書かれた【スイートピー】の文字に、花のことがよくわからないあおいは「ふーん」という反応をする。


あおい「そうだ」


手をポンと打ち、何かを思いついた顔をするあおい。


あおい「さっきのお礼に手伝うよ 花壇の手入れ」

ひまり「……」

ひまり「…………」


長い沈黙の後、ひまりは地面にガリガリと【いらない】と書く。

ガーンとショックを受けるあおい。

そんなあおいをチラッと横目で見ると、ひまりはクスクスと口元に手を当てて笑う。


あおい「!」


その笑顔に、あおいはうっかり照れてしまう。


あおい「●●さん、実はイイ性格してるだろ?」


鼻の下に指を当てて目を逸らすあおい。

二人の影は、次第に遠くなり……。


■夢から覚める・朝


アラーム「ピリリリ!」


あおいの手には、緘黙を検索した画面のままのスマホ。

小鳥が囀る中、起き抜けのあおいはボーッとする。


あおい「……」

あおい(……なんか)


<大事な夢 見てた気もするけど>

<忘れた>


夢を思い出せないまま、もそもそと仕度を始めるあおい。


■校舎・朝


一方、既に学校の中庭にいるひまりは、両腕で肥料を抱えている。

揺れるひまりの瞳。

中庭で一人空を見上げる彼女の立ち姿は、どこか寂し気に見えるのだった。


(第1話 終了)

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僕らの好きの伝え方【シナリオ版】 望月 葉琉 @mochihalu

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