土曜日と日曜日

 10時頃の電車のいつもの車両のいつもの場所で待ち合わせをした。


『電車乗れました』

 イェイというポーズの犬のスタンプと一緒にメッセージが送られて来た。

『俺も乗れます』

 了解というスタンプと返事をする。


 自然とにやけてしまう俺がいた。ホームにアナウンスが流れ電車が入ってくる。いつもの朝の電車と違ってこんなに到着が待ち遠しい電車は初めてだ。


 目の前を車窓が右から左へ流れていく。早く。早くと気持ちが急く。


 停車してドアがプシューと開く。そこにはいつもの人の壁はなく、いつもの服よりもカジュアルで可愛らしい恰好の川田さんが照れ臭そうにニッコリとはにかんで立っていた。


(女神かっ!)


 俺まで照れ臭くなりながら電車に乗りこむ。


「おはよ」

「おはようございます」


「ちょっとなんか照れるね…川田さんその服似合ってる」

「あ、ありがとうございます……内海さんもスーツ以外を初めて見ましたけど…素敵です…よ?」


 顔を真っ赤にしながら川田さんが言ってくれて素直にお世辞だったとしても嬉しかった。多分、俺も顔が赤くなっていると思う。


(きゃぁ!もぉ!恥ずかし!中学生かよっ!)


 コホンと咳をしてから自分を落ち着かせた。


 その日二人で見た映画はコメディ映画だ。俺の大好きなコメディ監督の作品。初デートに選ぶような作品じゃないのかもしれないけれど提案した際に川田さんもその監督が好きという事が発覚し意気投合した。


 映画代は最初の約束通り川田さんに出してもらい、その後の代金は俺が出させてもらった。すごく恐縮していたが、やっぱり映画は誰かと見てネタバレを気にせず感想を共有できるのってものすごく楽しいし、その楽しい時間を過ごさせてもらってる訳だからと固持した。


 話が尽きる事がなく気付けば夕食で少し酒も飲ませてしまった。お酒に弱いのか川田さんはすごく赤くなっていて可愛いけどちょっと心配になった。


 帰りの電車。離れがたくて

「家まで送らせて」

 とお願いする。


「いや申し訳ないですから」

 と川田さんは固辞したが


「うん痴漢の事もあったし電車で別れるとその後の方が心配になっちゃうからさ、酔ってるし。家の前まで!送り狼になろうとかそんな事はないから!!大丈夫だから!お願い!」


 両手を合わせてお願いすると川田さんは逡巡してからコクンと無言で頷いてくれた。俺は心の中でガッツポーズを取ったのは言うまでもない。


 川田さんをマンションの入り口まで送り、川田さんの部屋の電気が点いたのを確認して帰る事にした。


 川田さんは電気を点けたらベランダまで出て手を振って見送ってくれた。もうそれだけで胸がぎゅぅぅっと締め付けられて幸せだ。


 別れてすぐなのにもう川田さんに会いたくて会いたくてしょうがない。もうこれはもうマジで川田さんの事が好きだと実感した。


 翌日も溜まった家事を終えたらちょうど川田さんから連絡が来て図書館にいるというので押しかけた俺である。読んでいた本も趣味があってやっぱり感想を言い合って楽しく過ごし同じように送った後、ベランダで見送ってもらった。


 こんな楽しく充実した週末は久しぶりだった。


 








 

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