第4話 新世代への愚痴~勇者と直接戦うのはコスパ悪い~
「なんなんだよ!魔物としての誇りはないのか!だいたい近頃の若いやつは」
「まぁまぁ、最近の子は魔物余りの時代を知らないから」
リーダは、聖水を発酵させて作った、聖水酒をがぶ飲みする。
魔物が飲むと酩酊状態とともに、体のしびれが起きる安酒だ。
ここは、派遣魔王協会に併設されている酒場。
派遣魔王同士の親睦の中を深める目的で作られた。
ちなみに、料金は給料から天引きされる。
リーダの目の前にいるのは、元魔王リクル−魔王派遣
リーダの学園時代の親友で、派遣魔王としてしばらく活動した後、今は、派遣魔王協会職員として、派遣魔王のサポートをしている。
「まぁ、最近の子は私たちと変わったよね。昔は、勇者が来たら名乗りを上げて『われは四天王〇〇!いざ勝負』くらいは言ったのに。今は、『勇者はダンジョンでずっと迷わせて、餓死するのを待ったほうがいいんじゃないですか?』なんて言い始める始末だしね。」
「そう!リクル−は正しい。だいたい何よ!ダンジョンコンサルタントって。ダンジョン作りも外注して、戦うのは派遣魔王の私たち。正規魔王はなにやんの?私の尻でも触るのが仕事かよ!」
「ちょっとリーダ。口から炎が出てるって。ここ酒場だから火気厳禁」
「あぁ、ごめん」
リーダは、消化のために石灰の粉末を口にいれる。
「でも、リクル−は大変じゃないの?昔と比べて、戦う奴ら減ったでしょ」
リクル−は首が取れそうなくらい頷く。
「そうなんだよねぇ。もう、昔みたいに、四天王になって、勇者を倒して、魔王として一国一城の主にって古いのかなぁ。若い子はみんな、いかに効率よく勇者を倒すってことしか考えてないんだよ」
「そうそう!」
「だけど、協会に依頼してくる正規魔王たちは、勇者との戦いの中で名を残すこと、そのためなら死んでいいと思っている人たちだから。若い魔物のやり方に腹が立つみたいなんだよね。この前も、」
リクル−はリーダの飲んでいたジョッキに口をつける。
リーダは金欠のため、注文はしない。
代わりに、リクルーのおこぼれをもらっているのだ。
「勇者が途中で立ち寄る村を連続で焼き討ちにして餓死させたり、落とし穴を掘りまくって、魔王城に来る前に倒したり。挙句の果ては、勇者が冒険の旅に出る瞬間に魔物総出でボコボコにしたりして。最近の魔物たちは、とにかく勇者をやっつければいいって感じだからね」
「まったくなに考えてんだか」
リーダは、リクルーからジョッキを取ると、一気に酒を飲み干した。
「知ってる?若い魔物の間での勇者の殺し方のトレンド」
リクルーは魔物R二百五十の記事を見せる。
「うっへぇー、「一位餓死、二位トラップづくし、三位生まれる前に殺す」
「ひどいよね。これじゃぁ、勇者も嫌になっちゃうよ」
「うちの部下が三位の手法をやったわ」
リクルーの口角が引きつる。
「もしかして、それで」
「そ。契約打ち切り。おまけに天界を巻き込んで大混乱」
「あちゃー。だから課長が少しイライラしていたんだ」
「ごめんね。そっちに迷惑かけて」
リクルーは手と尻尾を振って否定する。
「リーダは悪くないよ。こういうときのために私たち協会がいるんだから」
「あんがと。こういうときに協会にいるありがたみを感じるわ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ただ、申し訳ないんだけど……」
「はいはい。分かってるわよ、罰金でしょ。」
「いやっ、罰金じゃなくて、勇者の取扱いに関する特別研修の費用を」
「要するに罰金よ。クイック宛に請求しといて。文句は言わせないんだから」
リーダがまた炎を吐きそうになったのでリクル−はそれ以上話すのをやめた。
「はぁ。私も勉強して、協会職員にでもなるか、フリーにでもなろうかな」
「えぇ!どっちももったいないよ!協会職員になったら机仕事がほとんどで、私最後に炎魔法使ったの、派遣魔王やめる記念の火山観光以来だよ。もう五十年くらいたつよ。せっかくリーダは才能あるのだからもったいないよ!」
「まぁ確かに、魔法を使えなくなるのはさみしいわね。でも、魔物界への貢献度で言ったらあんたのほうが上よ」
「そんなことないよ!」
「どうだか。慰めてくれてありがとう。とはいえ、フリーでやっても、待遇は派遣未満。仕事は正規以上だからねぇ。」
「んー、まぁね。フリーでやってくためには、大物勇者を倒さなくちゃ。それこそ、イチゲ」
リクルーはそこで口をつぐんだ。
リーダの瞳が殺意で満ち、持っているジョッキが割れそうになったからだ。
「ごっごめん」
「なんであんたが謝るの。」
「いやぁ、そのぉ」
「哀れみが一番嫌いって私何度も言っているでしょ。魔王は、下に見られたら終わりなの。たとえ派遣でもね」
そう呟くと、リーダは伸びをした。
「さてと、次の派遣先は?」
今回は話の話題がスムーズに変わったので、リクルーは一安心した。
「次の派遣先はっと、世界番号三三五三二」
「随分番号が小さいわね。これは勇者も弱いのかしら」
「数値と比例しているからね。多分大丈夫だと思う。もしかしたら、先に派遣した四天王だけで片付くかもね」
「ふーん誰?」
「えっとねぇ、あ!」
リクルーは引きつった笑顔でリーダの顔を見る。
「クイック君」
リーダは席を立って、急いで派遣先に向かう。
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派遣魔王リーダの奮闘記~派遣魔王は覇権魔王だ~ @wisteria28
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