第3話 勇者を攻撃した部下はろくな奴じゃない
「クイック君?ちょっといいかな?」
リーダは猫なで声で、新人四天王クイックに話しかける。
クイックは、二百歳代の四天王業界ではかなり早めに役職についた、雷系の魔物である。
キャッチコピーは『出世も攻撃も最速のクイック』
本人は時間単位でどれだけ効果が出るかを重視する、今どきの魔物だった。
今も、死の眠りの囁きを聞きながら、魔界ニュースを見つつ、最近の勇者解説系動画を倍速で見ながら、毒リンゴジュースを飲むという離れ業をやっていた。
当然リーダの声は聞こえていない。
「クイック君!今回のことで話したいことがあるんだけど」
当然、無反応である。
リーダは、クイックの後頭部を蹴り飛ばしたいという欲求を抑えながら、極力和やかな笑顔を保ちつつ彼の目の前に立つ。
「クイック君!ちょっといいかな」
クイックが視線を上げて一瞥するも、またすぐに画面に視線を戻す。
「なんすか?忙しいんですぐに用件を言ってください。」
「今回勇者を倒したじゃない。それで」
「3,2,1」
「カウントダウンするのやめれくれない?」
「なんすか。今忙しいんすよ」
「この前のラスボース様の案件だけど」
クイックはわずかに舌打ちして、リーダを睨みつける。
「なんすか?勇者は倒したじゃないっすか」
「いや。受精卵の段階で倒すのは倒すと言わないから。ただの外道だから」
「魔王って外道な存在じゃないんすか」
「いや、そうなんだけど、そうじゃないというか」
リーダは、察しの悪いクイックに苛立ち、足で地面を繰り返し叩く。
「あーあれっすか」
小馬鹿にしたようにクイックは笑う。
「魔王の掟とかプライドってやつですか?非効率っすよ。いまどきそんなの気にしているの、千歳レベルの化石みたいなおじいちゃん魔王じゃないですか?」
「そのおじいちゃん魔王から仕事をもらっているのが私たちなの。彼らの機嫌を損ねると私たちの契約が切られちゃうから」
「大丈夫ですよ。今、派遣業界は魔物不足ですし。次の派遣先なんていくらでも見つかるっす。それに、」
そこで、クイックの瞳に自暴自棄にも似た、憂いの色が映る。
「そういう魔王としてのプライドとかは、正規魔王の奴らがやればいいじゃないっすか。俺等は派遣魔王に派遣四天王っすよ。どんなに完璧に勇者を倒したって、最終的な手柄は正規魔王のものじゃないっすか」
「いやそれは」
リーダは否定しようとして口をつぐんだ。
たしかにそういう傾向があるのは否定できない。
「というわけで、」
クイックは新たな画面を表示させ、淫魔がスライムと格闘している動画を見始める。
「そんなに気張らなくていいんじゃないっすか。適当にやりましょうよ。適当に。」
そして、再びマルチタスクの世界に没頭し始めてしまった。
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