第2話 リーダの過去~三日で四天王をクビに~

「はぁ。」

リーダは、洗面台の鏡を見つめる。

ラスボースに焼かれた赤髪の先端は縮れていた。

「あの、スケベ野郎。変なところで掟をもちだしてきやがって」

派遣魔王番号三七五六四リーダ。

ネームプレートに写っている顔写真は、少し緊張しながらも、凛々しい姿が写っている。

深紅の瞳に豊かな赤い髪。黒い角。真っ白な犬歯は彼女が人智を超えた生き物であることを示している。

しかし、今鏡の前にいるのは、寝不足で深いくまをつけて、赤い髪を焦がされ、ストレスによる歯ぎしりですっかり丸くなってしまった。犬歯だった。

彼女が魔王養成学校を卒業した時、全ては順調に見えた。

とある魔王のもとで四天王筆頭として働き始める。

ゆくゆくは、魔王として自分の城を持つ野心に燃えていた。

しかし、そこに現れたのが勇者イチゲキン。

彼は、一撃で四天王を倒し、二撃目で魔王を倒した。

復活の儀式で目覚めた頃には、四天王筆頭リーダは、無職リーダになっていた。

四天王筆頭として活動したのは、わずか三日。

そんなんでは、どこの魔王も使ってくれない。

というわけで、無職のリーダに天使(そいつは後に悪魔が化けていたことが分かる)が勧めたのが、派遣魔王である。

派遣魔王は、文字通り、各世界の魔界に派遣され、魔王の代理を務める。

そこで、戦績を残せば、正規魔王にも近づくという触れ込みだった。

しかしまぁ、派遣魔王を使うところなんて、ろくな戦況じゃないわけで。

大体、派遣されるタイミングが勇者との最終決戦であることが多い。

魔王がよく第二形態とか残しているが、あれは派遣魔王が代理になったときに姿が変わるのを第二形態とか言って誤魔かしているためだ。

派遣されて、いきなり勇者と最終決戦。

向こうはこちらを目指して長い間修行してきた勇者たち。

なんなら、神からチートスキルを授かったりしている。

こっちは、ついさっきまでこの世界に存在してすらいなかった存在。

そもそもリーダは、転生した場合、自分の魔力や身体能力にどの程度バフがかかるのか把握していない。

結果、ボロ負けしまくる。

自分より二百倍くらい背の高い巨人族の住む世界に派遣されたときは、夏場の虫の夜に逃げ回り、最終的に手で叩かれて終わった。

濃硫酸の海の世界に転生したときは、溶かされないようにバリアを張っている間に正規魔王がやられて契約を切られた。

そんな散々な現場に追いやられたせいで派遣される場所はどこも修羅場ばかり。

とはいえ、毎回そんな修羅場ばかり経験すれば、経験値はたまるわけで。

今では、通常の派遣魔王から、四天王付き派遣魔王にランクアップした。

とはいえ、これが悩みのタネ。

派遣の魔王という段階で苦労が耐えないのに、部下の管理まで行う羽目になったら、胃に穴が空いてしまう。

というか、空いた。

というわけで、痛み止め薬草をサラダのように食べながら、部下の管理をしつつ、派遣魔王として、奮闘する日々が幕を開ける。

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