舞台と背景

舞台とバックグランド

 主な物語の舞台となる地域はタイトルにもあるようにシーズン毎に変わる。ベースの土地は多摩、湘南、横浜、伊勢である。主要人物が住んでいる街だからだ。たまに移動しての物語もあるが、おおよそ基本設定は先に挙げた地域である。

 実在の街も多いが、いくつかは架空の町や神社も舞台となる。伊勢市や足利、横浜などはぼやかさず使っているが、相南市あいなみし(神奈川)、町山田市まちやまだし(東京)、多野市たのし(栃木)、鎌が台市(千葉)は架空の名称である。


 ファーストシーズンでの二つの街が町山田と相南だ。東京都町山田市まちやまだは東京都下にある郊外のベッドタウン。多摩急行という私鉄と横浜線の交差する町が舞台である。もう一つは、その町山田から多摩急線急行電車で二十分の場所にある相模湾に面した神奈川県相南あいなみ市である。


 まず町山田。あくまで架空の町だが、町田市と宇治山田(伊勢市)を掛け合わせたらどうかな? という発想から作られた。ただあまり宇治山田の香りはないが、『エピソードゼロ』の主人公、夏夫の母、初歩はつほが三重出身という設定でこの町が登場している。この時は続編など考えていなかったのでこういった名称の架空の街を設定して物語を書いている。また不二家ふじけの周りの景色は伊勢原市の外れや参宮線から見えた伊勢地方の景色を思い出して書くことが多い。櫛田川の辺りかな。


 かたや、相南市は湘南からさんずいを取っただけの訓読みの町(笑)。町の特徴は、鎌倉と藤沢と茅ヶ崎のごちゃ混ぜの町である。たまに葉山のイメージも入る。もともと大庭御厨おおばのみくりやのあった場所(御厨/みくりや=伊勢神宮直轄領、またはその荘園)。そのため、暦人御師(御師/おんし=歴史的には江戸期あたりに地方の人にお伊勢参りの案内役兼お札や暦を届ける仕事をするアドバイザーとコンダクターを混ぜたような役目の神職。平安時代からその原型はあったとする説もある)という、お伊勢参りの歴史的な職業を現代のSFにかぶせた設定になっている。


 そして町山田の日月社にちげつしゃや相南の岩戸神明宮いわどしんめいぐうといった神明系しんめいけい(一般には伊勢のアマテラスさまを主祭神としてお祀りする神社)の架空の神社を登場させて、そのご神域や境内の各処に陽光や月光の中で作られて、現れるタイムゲート(作中では『金色の御簾』『虹色の御簾』、『時の扉』などと呼ぶ)を使って時間移動をするという物語設定になっている。


 またセカンドシーズンでは横浜の桜ヶ丘神明宮(ここはファーストシーズンでも登場)や東京浜松町の芝ノ大神宮、足利の織姫大神宮など架空の神社を、旧御厨地域の「タイムゲート」を持つ時間移動の地域拠点にしている。これらの場所のタイムゲートを使って、人々の幸せや人助けを行う暦人の世界が広がって、世界観は繋がっていく。


 サードシーズンは、伊勢志摩の石神・志摩神明、熱田神宮、浜松と磐田などが、御厨と絡めて登場している。名古屋と伊勢の文化圏を中心に物語を組み立てているからだ。また伊勢市とその川下に当たる河崎の町や南伊勢の架空の村、六ヶ所村が話の中心となる。長く会話中での話だけだった伊勢と松阪の小宅家こだくけの人間も登場する。

 基本は熱田の山村愛珠やまむらあいすの取り組んだ過去の偉業と、朱藤富久あかふじふく、そして勘解由小路歌恋かげゆこうじかれんが持ち寄る知恵によって物語は進んでいく。




 フォースシーズンは、関東各地の御厨を舞台とするセカンドシーズンと少し繋がりもある。まずは東京の葛西御厨かさいのみくりやが第一話。本作のスピンオフ作品としてスタートした『思い出の潮風食堂』の舞台となる場所だ。そして千葉の船橋御厨と相馬御厨がそれに続く第二話で登場。第三話では飯倉御厨。その後、後半で舞台は多野市、足利市へと移り、夏見家と念動隧道、御厨と時の翁の仕事などがお披露目されていくことになる。そこで香澄流かすみながれ家や印旛家の子供たちが、ゲートを開けるのに一役買ってくれる。そしてその話は再び伊勢へと向かっていく。



 この作品を書きたいと思った動機はすごくシンプルなもので、日本神話やお伊勢さんのファンということと、歴史好きということだ。その二つの柱に、音楽(正確には楽器好き)や絵画、写真などの知識による味付けが出来そうと言うことからだった。

 お伽話風のファンタジーとSFのボーダーが曖昧になってきた最近のジャンル分けでは、しばしばどちらに入れようかと悩むときもある。時空郵政はSFだろうと思う。郵便番号の仕訳票で時間移動と場所移動が出来るのは人間を小包感覚で送り込む時空郵政ならではのタイムホールがあるからだ。夜の集配局にあるのだが、たまに特定局にもある。これは歴史的に古い特定局の立地条件に由縁する。このあたりの時空管理システムに関しては、眉村卓さん風の未来テイスト。時空の現業管轄の話などは、SFで間違いない。けれど暦人の存在や成り立ち、時神といった見えないパワーのあるお話はやはりファンタジー色が強い。


 そんな作者の思いも少しだけ楽しみながら、この案内と作品本体もぜひお読みあれ!

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新編 時間物語のサブテキスト 『時神と暦人』を楽しむために 南瀬匡躬 @MINAMISEMasami

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