第5話


 9時から13時の授業が終わって、ようやく一時間の昼休憩に入った。


 しかしただ昼食の時間というわけではなく、雑務をこなす時間でもある。


 教室のモニターに映し出された表にわらわらと人が群がっている


「花栗。適性試験の日程が出たみたいだね」


「早速だね、紅緒」


 適性試験。低難度ダンジョン挑む一年生パーティーを決める試験だ。


 VR技術で再現されたダンジョンに挑み、実際にダンジョン攻略をしてみて実力を測り、適正を判断するというもの。


 耳にするだけならゲームのようで楽しそうだが、娯楽感覚で挑めば危ない。


 ダメージを喰らえば体にとりつけた装置が脳にシグナルを送って、実際の痛みを経験することになる。例年、痛みに心が折れて退学者が続出するくらい厳しい試験だ。


 加えて、ここでの成績はパーティー決めに大きく関与し、頼もしい味方と組めればダンジョン攻略も円滑に進む。そうなればスノーボール式に強くなれるので、冒険者としての未来は明るくなる。


 とにもかくにも大切な試験で、真剣に挑まなければいけない。


「ああ……この人か」

「やったぞ! アタッカー科のエリートがパーティーにいる!」

「ど、どうしよう、足を引っ張らないようにしないと」


 仮のパーティーも掲載されているようで、一喜一憂する声がモニターの前で上がる。


「見に行きましょうか?」


「うん、そうだね」


 紅緒と一緒に見に行く。


「えっと、僕は……ええ!? この人たちと組むの!?」


 錚々たる顔ぶれに僕は目を丸くした。



 ***


 会議室。


 五学科会議の議論も大詰めを迎えていた。


「——議論を交わしたところで、班割についてはもう問題ないわね?」


 そう言ったジャマー科の代表、紫艶乃 に私は警戒心を覚える。


 今日も紫のセミロングヘアが色っぽい。顔も私の次くらいにはいいし、彼が誘惑されないか不安だ。私には足りない大人の魅力とかいうやつを使ってきそうで怖い。


「うん。俺は問題ないよ、アタッカー科はオッケー」


 アタッカー科の遊子勇二。男ではあるが優男。油断はしない方がいいだろう。


「ディフェンダー科も問題ない」


 ディフェンダー科の長身筋肉メガネ、狩富士勉 。2メートルを超える大男だが、彼が筋肉フェチならまずい。流石の私も筋肉バトルで戦うたtめのアイテムを見つけていない。


「私もイイかなー。全然大丈夫だよー」


 サポーター科の金髪ギャル、高坂茸。こいつは大丈夫、ギャルだし胸バインバインで下品だから大丈夫。


「では残るは、東條だけだ。君も異論がないな?」


「……待って」


 やべ、話聞いてなかった。今これ、何の話だ?


「ほう。学園が調べ尽くした前情報を議論し、完璧な班割だと私は思うが?」


 あ、班割の話か。資料は……これか。彼はどの班だっけ?


「流石は東條さんだ。俺には見いだせない懸念があったらしい」


「スゴいね! 流石はエレナちゃんだね!」


「ふんっ。どうせ、ケチをつけたいだけに決まっている」


 あった、あった。彼は……ええ〜。入試成績下位の人たちとパーティーじゃん。


 明るい未来のためにも強そうなやつと組ませてあげないと。実力だの何だの私がサポートしてあげれば問題ないし。


 ほでほでほんで、全部うまく行ったら彼にぼそっと、このパーティーは私が組ませたんだよ、って。そしたら、うへへ……。


 よし。


「花栗……彼をこちらのパーティーに入れてくれ」


 私は資料に書き足し、四人に向けて見せつけた。


「え、エレナちゃん、流石にそれはナイんじゃないかなー」


「そ、そうだぜ! 冗談キツイってまじ!」


「普通科というだけでなく、名も聞いたことがない生徒だ。このメンツに入れられるとなると不憫に思えるが?」


「問題ない」


「い、いやいや、考え直してエレナちゃん! 悪くいうつもりはないけれど、彼普通科だよ!? ここは各学科のエースで組まれたパーティーなんだよ!?」


「だからだ」


 キッパリ言うと、艶乃が何か意味深な目を向けてきた。何、怖い。


「……なるほど。彼にはそれほどの価値があると言いたいのだな?」


「価値しかない」


「わかった。ではそのように進めよう」


「おい! 紫、いいのかよ!?」


「遊子、誰に口をきいている?」


「す、すみません……ぐぬぬ」


 遊子が艶乃に黙らされている。艶乃は私に次ぐ実力者。どうやら強いものには逆らえないらしい。


「くそ。花栗か。覚えたぜ、その名前。適性試験でどんなやつか見極めてやる」


「そうだね〜。遊子くん、とはベクトルが変わるけど、気になっちゃうかも」


「見極めんとな」


 どうやら無事パーティは決まったみたい。


 それは良かったけど……。


 何か知らないけど、こいつら彼に興味を持ち始めた! やだあああ!




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ダンジョン配信者ランキング1位、ダンジョン攻略成績1位、冒険者美少女ランキング1位の美人先輩がヤンデレで卑しすぎる ひつじ @kitatu

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