第2話 チャラ男、禁足地にダイブする。

 バイトは意外にもぬるかった。俺の担当はビーチにあるおしゃれな海の家でのさまざまな雑用。


「へぇ夢ちゃんのTシャツの下の水着ちょっとエッチじゃね?めくっていい?」


「きゃん!もうラプタくんのえっち!」


 俺は女の子と適当にじゃれ合いながらバイトしていた。けど特に叱られることもない。真面目に働かなくてもいい環境最高である。昼休みになって夢ちゃんとビートの陰で合体(/ω\)イヤンして仕事場に戻ってくる途中小さな男の子がかき氷を目の前で浜辺に落してピーピー泣き始めたのを見てしまった。


「おいおいがきんちょ。泣くなよ」


「だって!かきごおりがぁあああ!びぇええええええ!」


「全く子供ってのは」


 俺は肩を竦める。まだ海に入っていない子供の黒い髪は艶々と太陽を反射してまるで天使の輪のように輝いていた。なのに黒い瞳が涙で濡れているのはかわいそうだと思った。だから俺は海の家に戻り、かき氷を山盛りに作ってそこにとりあえずあるシロップ全部をぶっかけてやった。


「ほらがきんちょ。これやるよ」


「え?なにこれ?すごい!」


 シロップがまるで虹色の様に輝いている。豪華極まりないかき氷。


「ありがとうお兄さん」


「おうよ。気にするな」


「でもね。お兄さん。一つ忠告しておくよ」


 さっきまで泣いていたはずなのにがきんちょは大人びた口調で俺に問いかける。


「過去とすれ違っても縋っちゃいけなよ。その時は復讐はやめて島からすぐに出ていくことを勧めるよ」


 どこか悲し気にそう呟きながらがきんちょはかき氷を食べる。何を言っているのかよくわからない。放置しておこう。


「まあ。暫くはこの島を楽しむといいよ。きっと君の人生のターニングポイントとなるはずだからね」


 そしてがきんちょは颯爽と去っていった。一体何だったんだろう?







 そして夕暮れになってビーチの客はホテルに戻り始める。逆にビーチ沿いのレストランは繁盛し始める。俺はそこで適当にウェイターしていたわけだけど、その時にあり得ないものをみた。


「え?うそだろ?」


 砂浜に黒髪ロングに黒い瞳の美しい少女がいた。真っ白いワンピースを纏っている。その顔は良く覚えている。俺のかつての恋人。俺を振ったトラウマの女。俺は首をふる。目を瞑ってもう一度瞳を開けるとその姿はなくなっていた。


「見間違いだよな。はぁ。ちゃんと女遊び出来てるのにまだ振り切れてないのかよ」


 自分のメンタルの弱さが嫌になる。そんなにもフラれたショックはいまだに俺の心を蝕んでいる。なんでなんだよ。普通だろうにフラれることなんて。俺だってチャラ男やってからも何度もフラれている。だけど何にも気にならない。心はちっとも痛まない。彼女だけがいまだに特別なんだ。





 仕事終わりにホテルの方に戻る。俺たちバイトは従業員用の宿泊施設が用意されている。その近くには道路があり、島の中心部にある島民たちの街へと向かっているようなのだが、なぜかコーンが置かれて立ち入り禁止のテープが張ってあった。


「島民以外立ち入り禁止の街ってなんだよ」


 さっこんのオーバーツーリズムを考えると生活空間と観光地を完全に分けてしまいたいという発想はわからないでもない。だけど島民の住んでいるエリアにも入ってはいけないっていうのはなかなかやりすぎに思える。


「ふぅ。なんだかねぇ変な島」


 お風呂場の窓から見える街の明かりはどこか薄気味悪く見える。東京と違ってどこか暗い。そして風呂から上がって外の喫煙所に向かった。外にある灰皿で一服していると道路を遮る進入禁止のテープの向こう側に夕方みた彼女の姿を見た。俺は足が竦んだ。彼女はじーっと俺を見詰めている。その美しい黒い瞳はあの頃と変わらないままだ。そして彼女は泣きそうな顔で後ろを向いて街の方へと歩いていく。俺はすぐに煙草を灰皿に突っ込んで、彼女の後を追いかける。


「待ってくれ!!待って!」


 俺はテープを越えて道路横の歩道を走る。彼女の姿はもう見失った。だけどきっと彼女はまっすぐに歩いていったに違いないと確信している。ただひたすらに走り続ける。街では誰ともすれ違わなかった。そして小高い山の森の神社の前で彼女の姿を見つけた。彼女はこっちを見て首を振ってまた背中を向けて神社の鳥居をくぐって階段を上っていく。姿がまた見えなくなった。俺は神社の鳥居をくぐって階段を駆け上がる。そして境内に辿り着いた。


「はぁはぁ。どこ、どこだよぉ。どこにいるんだよぅ」


 ここから先には行けるところはなさそうだ。社務所に明かりがついていた。俺はそこのベルを鳴らして中の人を呼ぶ。


「はーい。いまでーまーす!」


 出てきたのは驚くことに白人の少女だった。金髪碧眼で巫女服を纏っている。コスプレかなにかか?


「え?黒髪黒目?え?うそ?!どうして街にそんな人がいるの?!」


 何が珍しいのか。日本人のほとんどは黒髪黒目だろうに。


「お父さん!お父さん!」


 金髪の少女は家の中に慌てて引っ込んでしまった。聞きそびれてしまった。


「あんた何処から来たんだ?!」


 刀を持った宮司の格好をした白人のおっさんが出てて来た。親子なのだろうかこっちも金髪碧眼だった。


「何処からって。ビーチのホテルだけど。それよりここに知り合いの女の子が入るのを見たんだ。心当たりはないか?」


「な?!ビーチから?!いや。そもそもこの神社になぜ入れたんだ?!セキュリティがちゃんとあるはずだ!余所者は入れないようになっているのに!」


「くそ。なんだよ。会話が噛み合わねぇな。もしかして日本語のニュアンスが微妙に伝わってない?英語ならできるからそっちで話すか?」


「ふざけるな!俺は日本人だぞ!バカにするな!それよりも黒い髪に黒い瞳ってことはおまえは余所者なんだろう!どうしてここに入ってしまったんだ!」


 金髪碧眼の白人のおっさんが日本人って主張してもあんまり説得力は感じられない。まあ帰化人の可能性はあるから何とも言えないけど。


「まさか仕来たりを破るものが俺の世代に現れるなんて!神よ!これが試練ですか!」


 おっさんは刀を俺の首筋につきつけてくる。


「ちょっと!なに?!あぶねぇよ!なにすんだ!」


「黙ってろ。おまえを牢に放り込む。ついてこい」


 刀を首につきつけられたまま俺は社務所の中へと連れ込まれる。そして奥にあった座敷牢の中に入れられてしまった。


「これから村の衆を呼んでくる。それまで大人しく待っていろ」


 なにこれ?どういうこと?おれなんかわるいことした?!全く解せない。


「すごい。本当に黒髪黒目の人っているんだ。テレビやネットだけだと思ってた」


 さっき会った金髪の少女が牢の前に立っている。隙間からペットボトルの水を差しだしてくる。


「お。あんがと。てか変なこと言ったな。黒髪黒目なんて世界で一番多い色だろうに」


「そうなの?この島じゃ一人もいないからびっくりしちゃった」


 何言ってんだろう。そんな土地が日本にあるというのか?


「みなさん。こちらです。神社に侵入をした余所者は」


 そして少女の後ろにさっきのおっさんが連れてきたであろう村の衆とやらがいた。みんな白人で目や髪の色も明るい人ばかりだ。いったいここはなんだなんだ?俺はただひたすらにはてなだけが頭を埋めていくのだった。

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因習村VSチャラ男(邦題:禁足地に入った俺が美少女たちと結婚する羽目になりそうになった件) 園業公起 @muteki_succubus

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