アマゲーマー

日野唯我

アマゲーマー

あっ、死んだ。


地面に寝そべっていた一匹の蝉が、動きを失って止まった。可哀そうだな、と思って、俺は形式的に砂を被せた。人は死んだら、どこへ行くのだろうか。不思議で不思議でたまらない。


公園には沢山の遊具がある。滑り台、ブランコ、シーソー、鉄棒、色鮮やかに塗られた遊具を、子供たちが楽しそうに走っては登り、登っては降りて、はしゃいでいる。


いいねぇ、幸せそうで。俺は再び地面に目をやった。公園の隅の、誰も目もくれない蟻の巣穴。俺はその入り口に木の棒を突き刺した。砂を被せて入り口を塞ぐと、帰る場所を失った蟻たちが、大慌てで入り口を探している。


俺も、生まれてから数年間は、あんなふうに楽しく走り回っていた。それが今では行き場も無く、ただただ彷徨う毎日だ。


よし。


「おーい、仲間に入れてよ!」


俺は子供たちの方へ、大きな声を出して駆け寄って見た。小学生くらいの子供たちは皆、ギョッとしてこちらを見る。幼稚園児ぐらいの子供が一人、近づいて来た。


「よし、一緒に遊ぼう!」


突然子供の手を、母親が引っ張った。


「ほらたっくん、こっちで遊びましょう!」


逃げるようにして親子は俺の前から去っていく。周りを見ると、子供たちはもう、遠くで鬼ごっこを始めていた。


ほら、やっぱりこうなるんだ。俺はもう、誰からも必要とされていない。子供にすら受け入れてもらえない。

はあ、終わりにしようか。俺はその日、踏切に飛び込み、答え合わせに向かった。


  ○ ○ ○


ゲーム・オーバー。画面に表示された文字を見て、俺は畜生、と叫んだ。

クッソ、ついつい夢中になっちまう。始める前は、絶対に生きてやるんだと意気込んでも、すぐに入り込んでしまって、またコントロールが効かないうちに自殺した。これで6周目だ。


コンテニュー、と書かれたボタンをクリックして、俺はゲームを続ける。今度こそ、自殺せずに生きられればいいな。


  ○ ○ ○


暗い闇の中から出ると、俺の周りを家族たちが取り囲んだ。眼鏡をかけた細身の男が涙を流して喜んでいる。母親の手の温もりを感じる。姉と思われる女の子が、笑顔でこちらを見ている。


「今度こそ、幸せになれるといいな。」


そう言った筈の俺の言葉は、オギャアという初期設定の無言語によって世界に響き渡った。私の人生が、今から始まる。

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アマゲーマー 日野唯我 @revolution821480

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