第24話 「歪みの間」
獅子原神社の境内を満月が照らし出す中、空間の歪みは次第に広がりを見せていた。月斗の漆黒のカードが放つ波動が、まるで異界への門を開くかのように、夜気を揺らめかせる。
「これが...」
レオが二枚の獅子座のカードを掲げる。
「父が守ろうとしたもの?」
『気をつけて』
イヤホンから凛の警告が響く。
『その歪みの向こうには、12年前の...』
言葉が途切れた瞬間、境内の空気が大きく波打つ。月斗の周りに渦巻く闇が、まるで生き物のように蠢き始めた。
「準備はいい?」
月斗の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「獅子座の継承者、そして...新星霊団の諸君」
アカネの三枚のカードが、不穏な波動に反応して輝きを放つ。水瓶座の青、蠍座の赤、そして中央の赤紫の光が、闇を押し返すように明滅する。
「行きましょう」
綺羅が一歩前に出る。
「私たちにしか、できないことが...」
「まずは、結界を」
翔が持参した装備を広げる。
「音楽室との通信を確保するために」
カズマが素早く小型のスピーカーを設置し始める。境内の四隅を結ぶように、慎重に機器を配置していく。
『こちら音楽室』
みらいの声が響く。
『通信、クリア。波動の増幅装置も起動します』
双葉と柊の奏でるピアノの音が、スピーカーを通して静かに流れ始める。その音色が空間を包み込むように広がっていく。
「さあ」
月斗が境内の中心へと歩み寄る。
「扉が開かれる。12年前、星霊術士たちが最後の選択をした場所へ」
漆黒のカードの波動が強まり、空間の歪みが形を成し始める。それは巨大な円形の門のような形状で、その中には渦を巻く闇が広がっていた。
「レオさん」
アカネが声をかける。
「私のカードたちが、あなたのカードと...」
言葉の途中で、アカネの三枚のカードとレオの二枚のカードが呼応するように輝き始めた。五枚のカードから放たれる光が、まるで星座のように繋がっていく。
「この配置」
翔が目を見開く。
「獅子座と蠍座が...!」
『そう』
凛の声が説明を加える。
『かつて、星霊術士たちが結界を張る時に使った、基本の星座配置』
五枚のカードの光が交差する中、空間の歪みがさらに大きく広がっていく。そして、その中から何かが—。
「響いてくる」
綺羅が耳を澄ます。
「星天の協奏曲の...音が」
歪みの中から響いてくる旋律は、みらいたちが音楽室で奏でているものとは違う。より古く、より深い響きを持つ音色。それは次第に形となって現れ始めた。
「見えます」
アカネの声が震える。
「光の...回廊?」
歪みの中から浮かび上がったのは、半透明な光の柱が立ち並ぶ空間。その柱には星座の紋様が刻まれ、淡く輝いている。
「12本...」
翔が素早く観察する。
「各柱に、獅子座、蠍座、水瓶座...十二星座の紋様が」
『そう、ここが』
凛の声がイヤホンに響く。
『かつての星霊の間。星霊術士たちが、星天の協奏曲を奏でていた場所』
月斗が一歩前に進み出る。
「さあ、入りましょう。時間はない」
「待って」
レオが声を上げる。
「僕たちを導くつもりなら、まず説明を」
月斗はゆっくりと振り返り、漆黒のカードを掲げる。
「説明は中で。ただし—」
その時、空間に異変が起きた。光の柱が不規則に明滅を始め、床から異様な振動が伝わってくる。
『注意して!』
みらいの警告が入る。
『波動が急激に...』
アカネの水瓶座のカードが強く反応を示す。青い光が渦を巻くように広がり、何かを警告するように点滅する。
「これは」
綺羅が息を呑む。
「まるで、拒絶されているみたい」
「この反応...」
月斗が静かに言う。
「星霊の間が、あなたたちの資格を試しているのね」
光の柱からの振動が強まる中、レオの二枚の獅子座カードが突然、強い輝きを放ち始めた。
「父さんのカードが...!」
その光は、まるで記憶を呼び覚ますように、空間に映像を映し出していく。
そこには12年前の星霊の間の姿が。星霊術士たちが円を描くように並び、中央で星天の協奏曲を奏でている。その中に、若かりし日のレオの父の姿も。
「待って」
翔が映像を食い入るように見つめる。
「術士たちの立ち位置、これって...」
カズマが地面に素早く図を描く。
「星座の配置そのものです。術士たちは星座を模して—」
その時、アカネの三枚のカードが一斉に反応。蠍座、水瓶座、そして中央のカードから放たれる光が、空間に新たな形を描き出す。
『分かった!』
音楽室から双葉の声が響く。
『私たちも同じように並ばないと』
「そう」
月斗が頷く。
「星霊の間に入るには、かつての星霊術士たちと同じ配置で...」
しかし、その言葉が終わらないうち、さらに激しい振動が走る。光の柱が不規則に明滅を繰り返し、まるで時間切れを告げるかのよう。
「綺羅ちゃん!」
アカネが叫ぶ。
「北極星、中央に!」
「位置は、こう!」
翔が素早く指示を出す。
「綺羅さんを中心に、12星座の配置通りに」
メンバーが円を描くように散らばっていく。中央に綺羅、その周りにレオ、アカネ、カズマが。翔は装置の前で配置を確認する。
『こちら音楽室』
柊の落ち着いた声が響く。
『波動の同期を開始します』
双葉と柊の奏でる星天の協奏曲が、スピーカーを通して流れ始める。その音に合わせるように、全員のカードが光を放つ。
「星霊の配置、確認」
月斗が静かに詠唱するように言う。
「北極星、中心に」
綺羅の北極星のカードが、純白の光を放つ。
「獅子座、東の柱に」
レオの二枚のカードから、真紅の光が交差する。
「蠍座と水瓶座、南西と北東に」
アカネの三枚のカードが、それぞれの方角で輝きを増す。
その時、予想外の出来事が起きた。光の柱から、新たな旋律が響き始めたのだ。
『この音は!』
みらいの驚きの声が入る。
『星天の協奏曲の...原型!』
光の柱が一斉に明るさを増し、床から天井まで貫くような光の帯となって伸びていく。同時に、メンバーたちの足元に星座の紋様が浮かび上がり始めた。
「来ます!」
月斗の警告と共に、空間全体が大きく波打つ。
「みんな、カードを!」
綺羅の声が響く瞬間、全てのカードから放たれる光が一点に交わった。
そして—。
眩い光が交差した瞬間、星霊の間の空間が大きく歪んだ。床も壁も天井も、全てが光となって溶け出していくような感覚。
『みんな!』
イヤホンから双葉の声が震えながら届く。
『波動が...想定を超えて...!』
その時、中央に立つ綺羅の周りで、奇妙な現象が起き始めた。北極星のカードから放たれる純白の光が、まるで万華鏡のように空間に無数の光の結晶を生み出していく。
「これは...星々の記憶?」
アカネが息を呑む。
一つ一つの光の結晶の中に、過去の映像が映し出されていく。星霊術士たちの日々の訓練、星天の協奏曲の演奏、そして—。
「あの日の...!」
レオの声が震える。
結晶の一つに、決定的な映像が浮かび上がる。12年前、星霊波動増幅装置が暴走を始めた瞬間。術士たちが必死に食い止めようとする姿。そしてレオの父が、ある決断を下す場面。
「父さんは...」
『気をつけて!』
みらいの警告が入る。
『記憶の波動があまりに強くて、このまま巻き込まれたら...!』
その時、月斗が一歩前に出る。
「記憶は、真実を映し出す」
彼の漆黒のカードが、不思議な輝きを放ち始めた。
「でも、それを受け止められるかどうかは...」
突如として、全ての光の結晶が一斉に明滅を始める。そこに映し出される無数の記憶が、まるでフィルムが高速で回るように次々と切り替わっていく。
「これは...!」
「この波動を...制御しないと!」
翔が装置の出力を調整しようとするが、もはや制御不能な状態。無数の光の結晶が、渦を巻くように回転を速めていく。
『星天の協奏曲で!』
音楽室から、みらいの声。
『でも、今の私たちの演奏では...!』
その時、アカネの新しいカードが突然、強い輝きを放った。その赤紫の光は、まるで音符のように空間を舞い始める。
「アカネちゃん!」
綺羅が叫ぶ。
「さっきの、原型の旋律!」
「うん...聴こえる」
アカネは目を閉じ、カードの波動に意識を集中する。
「星霊術士たちの...本当の想い」
彼女の声に呼応するように、空間に新たな旋律が響き始めた。それは、彼らが今まで聴いたことのない、より深い調べ。
「これが...」
月斗の表情が変化する。
「失われた星天の協奏曲の、真の姿」
アカネの蠍座と水瓶座のカードも共鳴を始め、三枚のカードから放たれる光が、渦巻く記憶の結晶に溶け込んでいく。
「レオさん!」
アカネが呼びかける。
「あなたの獅子座のカードも...!」
「分かった!」
レオは二枚のカードを掲げる。
「父さん、僕たちに託した想いを、今こそ...!」
レオとアカネのカードから放たれる光が交差した瞬間、渦巻く記憶の結晶が一斉に止まった。空間全体が、まるで時が止まったかのような静寂に包まれる。
『この波動...』
凛の声が震える。
『まさか、これが本来の...!』
静止した結晶の中で、一つの映像がクリアに浮かび上がる。12年前、星霊波動増幅装置の暴走の瞬間—。
「違う...」
月斗が静かに言う。
「あれは暴走ではなかった」
映像の中で、星霊術士たちは円を描いて立ち、まるで今の彼らと同じように星座の配置を形作っている。中央には、若きみらいの姿も。
「増幅装置は」
翔が映像を見つめながら言う。
「結界を強化するためのものだった?」
「でも、予想以上の力が」
月斗の説明が続く。
「術士たちの想いが、装置に集中しすぎて...」
その時、アカネの水瓶座のカードが青い光を放ち、新たな真実を映し出す。装置に集まった波動は暴走などではなく、むしろ術士たちの強すぎる想いが具現化したものだった。
「父は...分かっていた」
レオの声に、感情が溢れる。
「だから、カードを封印したんじゃない。未来に...私たちに...」
『そう』
みらいの声が静かに響く。
『私たちは失敗を恐れすぎていた。でも、レオくんのお父さんは違った』
「想いが強すぎた...」
綺羅の北極星のカードが、純白の光で空間を包み込む。
「だから星霊術士たちは、次の世代に望みを...」
静止していた光の結晶が、ゆっくりと融けるように溶け始める。それは床から新たな形を作り出していく。螺旋階段—。神々しい光を放つその階段は、星霊の間の中心から地下へと続いていた。
「ここが」
月斗が階段を見下ろす。
「全ての始まり」
アカネの新しいカードが、さらに強く脈動する。その光が階段に触れると、かすかな音が響き渡った。
『この音...』
凛の声が感動を帯びる。
『紛れもない、星天の協奏曲』
「父の想い、そして星霊術士たちの望み」
レオが二枚のカードを掲げる。
「全て、ここに...」
『でも、気をつけて』
柊の冷静な声が入る。
『波動の変化が...まだ読めない』
階段の先から、異様な振動が伝わってくる。光の結晶から溶け出した記憶の波動が、まるで生命を持つかのように蠢き始めた。
「行きましょう」
アカネが一歩を踏み出す。
「この先に、きっと...」
光の階段を一段一段、慎重に降りていく。足を置くたびに、星座の紋様が浮かび上がり、かすかな音を奏でる。
『まるで鍵盤のよう』
みらいの声がイヤホンに響く。
『一つ一つの音が、星天の協奏曲の音符になっている』
先頭のアカネの三枚のカードが、まるで道標のように光を放ちながら、階段の音色と共鳴していく。
「翔くん」
カズマが後方で計器を確認する。
「深度、もう地表から50メートルを超えてます」
「ここまで深く...」
翔がデータをチェックしながら呟く。
「12年前の星霊術士たちは、一体何を...」
その時、レオの二枚のカードが突然、強く反応した。階段を照らす光が、壁面に新たな映像を映し出す。
「これは!」
綺羅が息を呑む。
映し出されたのは、巨大な装置の設計図。星霊波動増幅装置の真の姿だった。
「父たちは、この装置で」
レオの声が震える。
「星々との繋がりを、もっと深いところまで...」
月斗が静かに言葉を継ぐ。
「そう。人の心と星の光を、完全に調和させようとした」
階段を降りるにつれ、空気がより重く、神秘的な雰囲気を帯びていく。そして、その先には—。
階段の先に広がっていたのは、円形の巨大な空間。中央には、星霊波動増幅装置の本体と思われる構造物が。十二本の光の柱がそれを取り囲み、天井まで伸びている。
「これが...」
月斗が前に進み出る。
「星霊術最大の到達点」
『この波動...』
凛の声が緊張を帯びる。
『12年前のまま、装置は活きている』
中央の構造物から、かすかな振動が伝わってくる。アカネの水瓶座のカードが、それに反応するように青い光を放つ。
「水瓶座の術士も、ここで...」
アカネの声が震える。
突然、空間全体が大きく共鳴し始めた。十二本の光の柱が一斉に輝きを増し、中央の装置が活性化の兆しを見せ始める。
「これは!」
翔が計器を確認する。
「波動レベルが急上昇...このままでは!」
『みんな!』
音楽室から、みらいの切迫した声。
『このままじゃ、12年前と同じことが...!』
その時、レオの父のカードが、これまでにない強い光を放った。光は中央の装置に向かって伸びていき、そこに—映像が浮かび上がる。
装置に映し出された映像の中で、レオの父が語りかけるように立っている。
「この装置は、完璧な調和を目指した」
映像の中の父の声が、まるで現実に響くように鮮明に伝わってくる。
「だが、それは間違いだった」
周囲の十二本の光の柱が、その言葉に呼応するように明滅する。
「星霊術の本質は、完璧な調和ではない」
父の声が続く。
「人の心と星の光が、互いを理解し、高め合うこと。それは、永遠に続く対話なのだ」
その瞬間、アカネの新しいカードが強く反応する。赤紫の光が空間に広がり、まるで父の言葉を証明するかのように、星天の協奏曲の旋律を奏で始めた。
「分かります」
アカネが目を閉じる。
「カードたちが教えてくれた。完璧な調和を求めすぎて、逆に失ってしまうもの」
『その通り』
みらいの声が重なる。
『私たち術士は、力の完成形を追い求めすぎた』
中央の装置が、さらに強い振動を放ち始める。天井まで届く光の柱が、不安定な波動を放っている。
「だから父は...」
レオが二枚のカードを掲げる。
「この装置を止めるんじゃなく、新しい可能性として...」
「分かった!」
翔が叫ぶ。
「この装置は止めるんじゃない。私たちの力で、新しい可能性に...!」
装置の振動がピークに達し、十二本の光の柱が激しく明滅を繰り返す。その中で、月斗が静かに前に出る。
「これが、試練の本当の意味」
彼の漆黒のカードが、深い輝きを放つ。
「完璧を求めるのではなく、不完全さの中に可能性を見出す」
『聴こえる...』
音楽室から双葉の声が震える。
『新しい旋律が...!』
アカネの三枚のカードが、それぞれ異なる音色を奏で始める。水瓶座の青い光が透明な旋律を、蠍座の深紅の光が力強い和音を、そして中央の赤紫のカードが、それらを結ぶ新たな調べを。
「みんな!」
綺羅が北極星のカードを掲げる。
「私たちの奏でる星天の協奏曲を!」
レオは父の映像を見つめながら、二枚の獅子座のカードを高く掲げた。
「父さん、僕たち、きっと見つけます。完璧じゃない、でももっと深い—」
その時、全てのカードが共鳴を始めた。それぞれが放つ光が、異なる音色を奏でながら、中央の装置へと向かっていく。
装置へと向かう光の渦が、空間全体を染め上げていく。カードたちが奏でる旋律は、次第に大きな協奏曲へと変わっていった。
『驚くべき変化です』
翔の計器が新たな数値を示す。
『波動が...調和を始めている!』
中央の装置が、まるで目覚めるように輝きを増す。しかし、それは12年前の暴走とは全く異なる、穏やかな光だった。
「レオくん!」
アカネの声が響く。
「装置に...歌いかけるの!」
レオは頷き、二枚の獅子座のカードを前に差し出す。
「父さん...私たちの選んだ道を!」
その瞬間、装置の中心から新たな光が生まれた。それは純粋な白色ではなく、様々な色が織りなす、まるで星雲のような輝き。
『この波動は...』
凛の声が感動を帯びる。
『完璧な調和ではない。でも、だからこそ美しい...』
十二本の光の柱が、それぞれ異なる色と音色で輝き始める。かつての星霊術士たちが目指した完璧な調和とは違う、新たな可能性を示すように。
「見える!」
綺羅が叫ぶ。
「星霊の境界が...生まれ変わろうとしている!」
装置の上空に、巨大な星図が浮かび上がる。それは12の神社を結ぶ古い結界とは異なり、もっと自由で、柔軟な形を描いていた。
空に浮かぶ新たな星図が、ゆっくりと形を変えながら広がっていく。それは固定的な形ではなく、まるで生命を持つように呼吸をするかのよう。
『この形は...』
音楽室のみらいが気づく。
『まるで、波紋のよう』
「そう」
月斗が静かに説明する。
「かつての結界は、外界から守るための壁。でも、これは...」
「対話のための波紋」
アカネの言葉に、三枚のカードが呼応して輝く。
「星々の声が、私たちに届くように」
その時、装置の中心から新たな変化が起きた。光の渦の中から、一枚の楽譜が浮かび上がる。
「父の...遺したもの」
レオの声が震える。
『これは!』
凛の声が興奮を帯びる。
『獅子座の楽章...でも、これまでと違う』
確かに、そこに記された音符は、彼らが知る星天の協奏曲とは異なっていた。より自由で、即興的な要素を含んだ楽譜。
「完成形じゃない」
翔が理解を示す。
「むしろ、これは...対話を始めるための」
突如、空間全体が大きく共鳴を始める。装置を囲む光の柱が、まるで万華鏡のように色を変えていく。
光の柱の変化と共に、空間全体が共鳴を強めていく。床から天井まで、あらゆる場所が波打つように震え始めた。
『この振動...!』
双葉の声が緊張を帯びる。
『地上まで届いています!』
「でも、違う」
月斗が静かに言う。
「これは破壊的な波動じゃない」
確かに、この振動には12年前のような危険な気配がない。むしろ、まるで大地が息づくような、生命的な震えだった。
「みんな、見て!」
綺羅が天井を指差す。
上空の星図が、さらに大きく広がり始めた。波紋のような形は、いくつもの同心円を描きながら、神社の境内を超えて外へと伸びていく。
「繋がっていく...」
アカネの目が輝く。
「他の神社とも!」
『確認できます』
翔の声が興奮を帯びる。
『六本杉神社にも、同じ波動が...!』
その時、レオの手の中で楽譜が光を放った。音符が浮かび上がり、空間に溶け込んでいく。それは新たな星天の協奏曲の一部が、世界に溶け出していくかのよう。
「父さんは」
レオの声に、確信が宿る。
「この瞬間を、ずっと信じていた」
中央の装置から放たれる光と波動が、ゆっくりと穏やかな輝きへと変わっていく。天井の星図は、まるで夜空のように広がり、他の神社との繋がりを示す光の線が、美しい星座のように浮かび上がっていた。
『波動が安定してきました』
みらいの声が安堵を帯びる。
『そして、この音色...』
確かに、空間全体に新しい旋律が満ちている。それは強制的な調和を求めるものではなく、さまざまな音が自然に溶け合うような、優しい響き。
「父さんの望んだ未来」
レオが楽譜を抱きしめる。
「これが、本当の星霊術の姿」
その時、月斗が静かに歩み寄る。
「試練は終わった。だが、これは終わりではない」
アカネの三枚のカードが、彼の言葉に呼応するように輝く。
「うん、分かります。私たちの対話は、ここから...」
突然、装置の中心から一筋の光が天井へと伸び、そこに新たな映像を映し出した。それは星霊術士たちの姿。そして、彼らの表情には穏やかな微笑みが浮かんでいる。
『みんな!』
凛の声が響く。
『これは...未来からのメッセージ?』
映像の中の術士たちは、まるで今の彼らに語りかけるように口を開く。
「星霊術に、完成形はない」
「だからこそ、無限の可能性がある」
「これからの時代を、託します」
言葉と共に、映像は星々のように輝きながら消えていった。そして装置は、穏やかな光を放ちながら、新たな形での稼働を始めた。
「さあ」
綺羅が皆を見回す。
「私たちの星霊術を、始めましょう」
夜空には満月が輝き、新たな時代の幕開けを見守るように、やさしい光を投げかけていた。
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『星天のカードマスター』 〜シンフォニック・スターリンク〜 ソコニ @mi33x
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