零井あだむ『ティラノサウルスが死んだ夏』レビュー
40点/100点中
※ハイパーリンク化されたURLは以下近況ノートからどうぞ。
https://kakuyomu.jp/users/Dan_Murakami/news/16818093092019618766
零井あだむ(ぜろい・あだむ)は、日本のアマチュア小説家だ。
筆者とは学生時代からの友人でもある。
零井あだむのX(更新頻度高め)
https://x.com/lilith2nd
零井あだむのブログ(更新頻度低め)
https://note.com/lilith2nd
『ティラノサウルスが死んだ夏』は、零井あだむによる短編小説集である。
2024年12月1日に開催された文学フリマ東京39にて発売され、
現在はネット販売されている。
いわゆる同人誌だ。
『ティラノサウルスが死んだ夏』販売サイト
https://lilith2nd.booth.pm/
さて、そんなわけで本記事は『ティラノサウルスが死んだ夏』のレビュー記事ということになるのだが、
先述の通り、零井あだむと筆者は友人関係にある(プライベートなことももちろん知ってる。ここには書かないけど)。
そのためニュートラルな批評というよりは、あえて私情を挟んだライトなレビューみたいなノリで書いていこうと思う。
そのほうが筆者にとって自然であるし、ほかのレビュアーには書けないようなことも書けるだろうと。
『ティラノサウルスが死んだ夏』そのものに対する記述の前に、
作家としての零井あだむについて、要点を紹介しておきたい。
青き夏空のプテラノドン(カクヨム掲載)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895964526
『怪獣がいた夏の日』(『青き夏空のプテラノドン』収録)販売サイト
https://lilith2nd.booth.pm/items/5760358
文学フリマ東京39お疲れ様でした!/次回への意気込み
https://note.com/lilith2nd/n/n3afe1c340804
零井あだむの作風は、ジャンルで言うとライトノベルやヤングアダルトあたりに該当するだろう。
現代日本を舞台に、SF的な要素を織り交ぜつつ、
主人公の少年少女たちが行動を起こしていく、という筋書きが多い。
代表作はカクヨムに掲載された『青き夏空のプテラノドン』だ。
カクヨム2020夏物語(SF・ミステリー小説部門)最終選考に残った短編小説であり、
内容もまとまっている。
(引用したブログ記事に記載の通り)恐竜作家を志向する零井あだむの性質が端的にあらわれた短編小説だ。
『青き夏空のプテラノドン』を気に入ったのなら、今回の『ティラノサウルスが死んだ夏』も気に入るはずである。
さてさて、ここから本題、『ティラノサウルスが死んだ夏』についてあれこれ書いていこう。
ネタバレ全開だ。
というかネタバレしても大丈夫な小説なんだけども。
最初に言っておくと、8割駄目出しである。
自覚している部分も大いにあると思うけど、まあ怒らず落ち込まず読んでくれ、あだむ先生よ。
・まずは良かった点。上野古生物園というアイデアは悪くない。
恐竜に関する描写やうんちくを自然に記述することができる。
『ティラノサウルスが死んだ夏』収録の三編ではあくまで物語の背景にとどまっていたけど、
もっと前面に押し出すべき。
・ここからはネガティブな話。まず何より人物造形とストーリー展開が弱い。
どこかで見たことあるような人物が、大して起伏のない筋を追うだけになってしまっている。
それぞれの短編小説の主人公も全員似たような思考回路と行動原理で、
ほとんど同じ人物に感じた。
それらの思考回路と行動原理は、おそらくあだむ先生自身の思考回路と行動原理が
意図的かはわからないけど(たぶん意図的ではない)投影されてしまっていると思う。
こういう状態は、近代日本文学的な私小説を目指すならありだけど、
『ティラノサウルスが死んだ夏』がそういうのを目指しているようには思えない(むしろ大衆にひらかれたエンターテイメントを目指しているはず)。
主人公以外の人物も漏れなく類型的。
締め切り直前に焦って書いたのは想像つくけど、もっと手間暇かけて練るべし。
人物造形とストーリー展開がしっかりしていないと、
恐竜に関する描写やうんちくも生きてこない。
それに、恐竜に関する描写やうんちくを書きたいなら、主人公を恐竜に明るくない人にしたら駄目でしょ。
・文体面で言うと、副詞の多用が目に余る。もっと削るべき。
これに関しては、おそらく無意識にやってると思うから、初稿を書き上げてから
ある程度冷却期間を置いた上で、推敲をすれば改善できるはず。
さらに言っておくと
やたら副詞を多くしたり、いたずらに言い換えを多くしたりして
リズムを出そうとするのは、
字数が増えるだけで情報量が増えないから逆効果である。
特に「少し」が多すぎ。「少し○○した」とか「少し○○だった」みたいな文が散見された。全カットでもいいくらいだ。
・誤字脱字も散見された。ここで具体的な箇所を書かないけど
やはり時間に余裕を持って推敲すれば改善できたはずだ。
・物語構成について。フラッシュバックというか、主人公の過去について語る分量が多すぎだ。
ストーリー展開が弱いっていう話につながってくるけど、
よっぽど工夫しない限り、過去時制の話は展開を停滞させる。
過去に起こった出来事でなく、現在進行形で起こる出来事で読者を引っ張るべし。
・家族というテーマを扱いたいのであれば、もっと突っ込んだことを書いたほうがいい。
今のスタンスは中途半端というか、
人物造形のための便利なツールとしてしか機能していない(その人物造形もうまくいっていないんだけど)。
両親が死んで身寄りがない、みたいな設定はかなり安易な設定だから
はっきり言ってそんな設定は排したほうがいい。
児童養護施設のようなデリケートな話題に触れるのであれば
もっと取材してリアリティーのある記述を目指すのが
(アマチュアであっても)作家としての誠意だと思う。
そこまでできないのであれば
そのあたりの話題からは素直に撤退して、
ちゃんと両親が存命で社会的な保護を受けられている状態の少年少女を描くべきだ。
・古生物園の運営側の視点を書かなかったのが大いに疑問である。
現代日本に恐竜が存在しているリアリティーをどう担保するか、
恐竜作家としての腕の見せ所だろう。
飼育員の視点から、恐竜が日々どんな生活をしているのか、
どんなものを食べて排泄物はどう処理しているのか、
人間に危害を加えないようにどんな安全対策がおこわなれているのか、
どういう繫殖行動をして、怪我や病気になったときどう対応するのか、
といった生物学的な部分を記述するのもよし。
古生物園の園長のような経営者の視点から、どのような経緯で上野古生物園が設立されたのか、
誰が(あるいはどの団体が)出資して、税金はどれくらい使われているのか、
日々のランニングコストがどれくらいで、年間の売り上げがどれくらいで赤字なのか黒字なのか、
どんな政治家と関わりが深くて、アメリカ側とどんな連携を取っているのか(作中で恐竜はアメリカから来日したことになっている)、
どのような政治的な思惑があるのか(それこそ上野動物園のパンダも中国のパンダ外交の一環)、
といった経済的・社会的な部分を記述するのもよし。
こういったあたりを、概算ではなくなるべく具体的な数字とともに書ければ
けっこうなオリジナリティーになると思う。
以上、色々書いたけど、あだむ先生の次回作を楽しむにしていることに変わりはないから
まあめげずに筆を執ってくれよ。
エッセイ集 ダン・ムラカミ @Dan_Murakami
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