碧くんとエメラルド
南砂 碧海
第1話
娘は、出産のため8月になって里帰りした。予定日通りの9月1日に元気な男の子が産まれた。家の中には、泣き声と笑い声が途切れない賑やかな生活になった。娘夫婦は、その子に『碧海』と名付けた。『あおい』と読ませるのだが、碧は今の流行り漢字らしく夏らしい名前を付けたかったらしい。別に行ったことはないのだが、私はコバルトブルーの海『碧』のエーゲ海を空想した。
"あおくん"が赤い顔をして手足を踏ん張っているので、娘と一緒にオムツを見てみると不思議なものがあった。沢山のウンチの中に緑色の石がある。摘まんで見てみると綺麗な丸い形の石だ。「間違えて何か飲ませたの?」と聞くと、娘は「そんなこと無いよ。ミルクだけしかあげてないから。お母さんにも、聞いてみるね」と言って、その場は、石だけを取り上げて、その話題を終わりにした。
その夜、娘が「お母さん、"あおくん"のウンチから、こんなものが出て来たんだけど何だろうね。」と聞くと、妻は驚いて「これ、あんたが小さい頃に飲み込んだお母さんのエメラルドじゃない。ウンチの中にあったの?あなたがアコヤ貝みたいに今まで育てたのかしら……。」なんて有り得ない話をしている。そんな事はないだろうと思ったが石が出てきたのは事実だ。「どうせ、病院にそんな事を言っても仕方ないし、宝石屋にでも行ってみようか。」と提案した。
次の日、妻と一緒に街の宝石店に行って鑑定をお願いした。勿論、『これ、ウンチから出てきたんです。』なんてことは言わない。値を下げられても困るからだ。鑑定した店主が、「これは、良いエメラルドですね。色が素晴らしい。20万くらいはします。石だけですか?」と言われて、妻はとっさに「いつか、作ってもらおうと思って取っておいたんです。」と話した。
家に帰って、妻が娘にお店での話をした。「すごいね。"あおくん"のお手柄だね。良い子……。せっかくだからネックレスにしたら。私、お母さんに、プレゼントする。」と娘。ウンチから出てきた物をプレゼントでも妻は嬉しそうだった。
数日後、宝石店に行ってエメラルドをネックレスに加工するお願いをした。産後1ヶ月が過ぎ、娘夫婦は"あおくん"を連れて東京のマンションに帰った。妻は嬉しそうに"あおくん"から産まれたエメラルドの碧いネックレスをしている。私の胸には、"あおくん"と過ごした楽しい時間だけが切なく残った。
碧くんとエメラルド 南砂 碧海 @nansa_aoi
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