5.コリンナの努力


 DBBHの試合は、大きな魔水晶板マジックビューアに映し出されるらしい。

 路地を出る前にロジェリオと別れたコリンナは、魔水晶板がよく見える位置に行った。ロジェリオとトルステンは、DBBHが所有する競技場で戦うようだ。

 そして、試合が始まる。

「ローズちゃん、大丈夫か……」「ローズちゃんが負けるわけないだろ」「あの新人。ローズちゃんの顔を傷つけたら、ただじゃおかないぞ」

 コリンナの周囲にいる少々過激な人達によれば、今回の試合は身体能力を競う内容らしい。つまりは、戦闘技能戦。機械魂ストリーゼを武器や手足に装着して戦うようだ。

 ロジェリオは武器を持つ右手と両足、トルステンは武器につけた。

「はっはっは! この時を待っていた! DBBHの頂点の座から引きずり落としてやるぜ!」

(……ん?)

 十日間の馬車移動の中、トルステンはローズのことばかり話していた。だからローズの追っかけなのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

(っ! それなら、ロジェリオさんの安全を確保しないと!!)

 トルステンは一番にこだわる。前まではその力強さに惹かれていたが、今は違う。執着とも言えるこだわりは、周囲を巻きこむ。

(あぁ、でもどうしよう!? あの場所に入れないよね!?)

 ロジェリオを助けたい。そう思っても、競技場がどこにあるのかも知らないコリンナには為す術がない。

 一か八か。コリンナは路地裏へ走る。そしてRと文字が光る扉を叩いて、管理人を呼んだ。すぐに出てきてくれた彼に事情を話し、案内してもらえるようになった。

 競技場に着いたコリンナは礼をし、すぐに両開きの扉の片方を開ける。

(っ! ロジェリオさん!!)

 コリンナが目を離した間に、ロジェリオは猛攻を受けたようだ。否、新人歓迎会だというから、ある程度は攻撃を受けるようにしているのかもしれない。それでも、煌めく金の長髪が焼け落ち、肩よりも短くなってしまっている姿は心配する。

 トルステンは、炎を纏う剣を持っていた。

(トルちゃ……トルステンは、あんな武器なんて扱ったことはなかったのに)

 戦闘技能戦は、何度も休憩時間が入るようだ。戦い傷ついた機械魂を修繕したり交換したりする魔法技士マギヴェルが一人ずつついている。

(あれ? あの人……)

 トルステンの方にいた、片足を引きずっているような男性の魔法技士が、ロジェリオ側の女性の魔法技士を見ながら機械魂を指差した。

 不審に思ってロジェリオの手甲に嵌められた機械魂を見る。手で攻撃を受けたのだろう。ヒビが入っているらしい箇所から、ABという魔力型が滲み出ている。そこへ、魔法技士が修繕のために自身の魔力を注いでいく。

 昔から魔力の型が見えていたコリンナの目に、ABの型とOの型が争っているように映る。

(っ、もしかしてわざと!?)

 先程の、男性の魔法技士の不審な行動に合点がいく。注がれた機械魂と別の型の魔力を流すのは、魔力が反発し合うため禁止。機械魂を扱う者の常識だ。

 注いでいる状態から、あれだけ型同士が争っている。使用者――ロジェリオの魔力を出力したら、最悪の場合、ロジェリオが死ぬ。

 コリンナは競技場内を走る。

「コリンナ!?」

 トルステンが炎の剣を下ろす手を止めた。その隙をつき、途中で取っていたヒビのない機械魂を蹴る。いつ暴走するかわからなかったロジェリオの機械魂を交換した。

 機械魂は壊れやすい性質だ。しかし魔力がある状態を保って触れれば、魔力が機械魂を包み、中の情報を守る。

 何年も魔力箱マプットを蹴ってきたコリンナのつま先は、天然の魔力甲になっていたのだ。

「今です!!」

 コリンナの声に反応したロジェリオは、素早く勝利を決めた。

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捨てられた一般人は、世界で唯一の魔法蹴士(マギケル)だったようです。 いとう縁凛 @15daifuku963

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