読み終わった後、色々と考えさせられる作品でした。
周囲からうまく認めて貰えず、鬱屈とした日々を送る主人公。そんな男が「あおり運転」というゲスな行為に走ってしまうまでを描いた物語です。
暴力性もあって、ちょっとしたことで苛立って物に当たってしまう。その一方で小心者で、人に見られていたらどうしようとびくびくしているような一面も。
そんな彼が承認欲求を得ようとしてイラスト投稿サイトに参加していることや、職場の女性たちとはうまく馴染めていないこと、ソシャゲでうまくガチャが当たらないこと。日常の不満の種はいくつも燻ります。
そして、ある日にそれが思わぬ形で「爆発」することに。
彼は100%のモンスターなのか。描き方がとても繊細で、完全に彼一人をゲスな悪党だと断ずるような形にはしていないのが特徴です。
彼の言っていることは「他責的」と呼べるものでもありますが、ある程度は汲めるようなものもある。「運が良ければ自分だって」という感覚。たしかに、人間性が良くなくても、社交性が良くなくても、特定の才がなくても、運やコネで世の中を渡っていけてしまう人間は数多くいる。
もっと環境が良ければ、自分だってもっと人に優しくできるはず。そういう考えはやはり誰にだってあるのではないか、という気持ちにもなります。
でも、やっぱり根っこの部分でこういう人は幸せになれないのかな、という想像も。恵まれたら恵まれたで、その環境に不満を抱き、周りを大事にできないんじゃないか、とか。
学生時代の友人にそういう人いたなあ、とか、読んでいる中で「誰か」のことを思い浮かべることもあるかもしれません。もしかしたら自分にも心当たりがあるかも、とかちょっと耳が痛くなることもあるかもしれません。
とにかく、色々なことを考えさせられる話でした。彼を百パーセントの悪者にしないことにより、見えてくる様々な可能性。同情もできるし、諌めたくもなる。そんな絶妙な心理を描ききった、とても秀逸な作品です。