嬉野貴緒と錯乱さま♪

五木史人

末法の世にて。

「まさか!ここは異世界?」

上級鬼の樓鬼るきは、混乱していた?


人間界ではありえない格好をした人々。


勇者の様な・・・

魔法使いの様な・・・

賢者の様な・・・

魔族の様な・・・

獣人の様な・・・

人々が溢れている。


「拙者は異世界に迷い込んでしまったのか!?あっ魔物がいる!」

上級鬼の樓鬼るきは、金棒を担いで推定魔物の方へ駆けて行った。


コスプレパレードに偶然通りすがった魔物ではなく悪そうな人は、上級鬼の樓鬼るきが、コスプレじゃない事に気づかず、逃げ遅れてしまった。


「ぎゃああああああああ!」


樓鬼るきさ~ん、ここは人間界でコスプレでパレードをしている人たちだよ~ 人権のない悪そうな人だからって、どついちゃダメだよ~」


やたら縁起の良い名前の嬉野貴緒うれしのたかおは、鬼使いだ。

悪が栄える末法の世で生きている。

むしろ異世界だったらいいのだが、ここは現実。



「おーい、そこの鬼さん!」

と上級鬼の樓鬼るきを、制止する存在が現れた。


「あっ死神の錯乱さま」


至って普通の人間である嬉野貴緒うれしのたかおには、死神など見えるはずはないのだが、樓鬼るきの視界を通して、その死神が確認できた。


死神の錯乱さまは、体操服を着て赤い帽子をかぶり、鎌ではなく薙刀を持っていた。

「ダメでしょ!鬼さん!まだ生きてる人をどついたら、めっ!ねえ」


樓鬼るきの視界を通じての映像だが、錯乱さまは嬉野貴緒うれしのたかおに向かって、『ねえ』と言ったのが解った。

錯乱さまの背は、嬉野貴緒うれしのたかお少し低く、見上げる感じになっていた。

嬉野貴緒うれしのたかおは、錯乱さまがいるであろう場所を見つめた。

何も見えないが、何かいるのであろう。


「いや違うの、違うよ!この『ねえ』はね、そう言う意味じゃなくて。違うんだって、恋しとかじゃないんだって」

と死神の錯乱さまは、顔を赤らめた。                                                                                                                                                                                                       


上級鬼の樓鬼るきが、動きを止めたので、悪そうな人は仲間を呼んだ。

10人近い人数だ。


樓鬼るきの側にいた嬉野貴緒うれしのたかおは、そのリーダー格と目が合ってしまった。多分、樓鬼るきの仲間だと思われたのだろう。


悪そうな人々の常で、より弱そうな者へ当たるのだろう。


「いや・・・・、違うんです。ぼくは・・・」

弱い人間に過ぎない嬉野貴緒うれしのたかおは、狼狽えた。

悪そうな人の1人が、嬉野貴緒うれしのたかおに触れた時。


「何をすんじゃ!うちの恋人候補に!悪人どもめ土に帰りやがれ!」

樓鬼るき伝いに、死神の錯乱さまの可愛らしい声が聞こえた。


体操服を着た少女の薙刀が何振りもした気がした。


悪が蔓延る末法の世では、この程度の事件は、大して話題にもならないらしい。

 

          

          完

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嬉野貴緒と錯乱さま♪ 五木史人 @ituki-siso

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