第6話 強くします
「これで全員かな」
「あの、埋葬し終わるの早すぎませんか……?人の動きじゃなかったですし……」
そこらわずか10分程度で全員が入る程の大きさの穴を掘り、もう20分程度で穴を埋め終え埋葬をし終えた私に、リアは驚愕の目を向けながら呟くように言葉を零した。
「魔力で身体能力を強化すれば誰だって出来るよ」
「身体強化……私の両親も出来ましたけど、絡繰りさんは次元が違うような……」
「慣れじゃないかな」
なんて駄弁った後、私は目をつむりながら屈みこみ、手を合わせる。
私のような血塗られた暗殺者なんかに手を合わせられてもおっかないだろうけど。
――そんな事を思っていると、続くようにリアも私と同じ所作を行う。
「本当に、ありがとうございます。ここまでしてもらって」
暗い視界の中、隣からリアがポツリと呟くように吐いた言葉が聞こえてくる。
同じ人間に一度にここまでの感謝されたのはいつ以来だろうか。
――――いや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
「…………私、皆の分まで生きるね」
どこか震えた声で、リアが決意を述べる。
彼女のその言葉を聞いて、私は(強い子だな……)なんて事を思いながら立ち上がろうとする。
「絡繰りさん」
すると、リアがハキハキとした声のトーンを用いて私を呼んだ。
「どうかした?」
私が話を引き出そうとそう問いかけると――リアはその熱を秘めた瞳を私に向け、思い切り立ち上がった。
「厚かましいのは承知でお願いしたいことがあります!!」
そして、これまた綺麗なフォームのお辞儀をすると、そんな事を口に出す。
「お願い?それってどんなの?」
「私を鍛えて――強くしてほしいんです!!」
「え」
予期せぬ願いに、私の口は思わず困惑の言葉を漏らした。
何故このような発想に至ったのか……私にはなんとなく察しがつく。
人が強くなりたいと願うのはいつだって、もう二度と自分が悲しまないようにするためだと相場が決まっている。
私だってそうだ。
自分自身のヒーローであり続ける為に、私は勝って、勝って、勝って――負けを知らないでいなくちゃいけない。
そうすれば、どこでだってどんな世界でだって生きていけるから。
「……残念だけど、それは無理」
「お願いしますっ――!!強くなりたいんです、強くならなくちゃ……いけないんです!!」
彼女から溢れ出すのは、熱意。
しかし、その熱にあてられても尚私の
「向いてないんだよ、そうい――――」
「私に……理不尽に奪う人間から“誰か”を救えるだけの力をください――!!」
私の拒否の言葉を遮って、リアは誰かの為に強くなりたいという願望を口にした。
その時、私は目を見張ったと思う。
自分の為に強くなるのではなく、誰かの為……?そんなのはっきり言って、意味が分からないから。
「……それは、自分の為じゃなくて、誰かの為なの?」
思わず口から出たその問いかけに、リアは一瞬キョトンとした顔を浮かべたが――瞬時にそれを元に戻して、告げた。
「勿論、自分の為でもあります。けど、それ以上に――同じ思いを、誰かにしてほしくありません」
覚悟が籠った真っ直ぐな瞳と、太陽のように眩しい煌びやかな言葉を口にする彼女の姿は、私にはまるで、正義の味方――本物のヒーローのように見えた。
「…………わかった」
気が付けばもう、了承の言葉を口に出していた。
そうだ、私は見たくなってしまった、気になってしまったんだ。
自分自身の為ではなく、誰かの為にあると決めた彼女の行く末を――彼女が本当に、
「そこをな――え?本当……ですか!?」
「うん。いいよ」
……まぁどのみち、リアが独り立ち出来るまではどうにか面倒を見ようと思ってたし、強くなってくれればそれも自ずと果たせるか。
「私なりの魔力の使い方とか、教える…………頑張って」
ただ強くなるのなら、ガリウスに言って組織に入れればいいのかもしれない。
けど、彼女は正義の味方だから――暗殺の訓練なんて、そんなもの似合わないだろう。
彼女にはキチンとした場所でキチンとした教育を受けさせたい。
「リアって今何歳?」
「えっと、14歳です」
「なら良かった」
それなら、王都に存在する魔法や剣術に重きを置いた名門校への入学。
それを第一目標にしてみよう。
きっと、それの方が組織で学ぶ方よりも正義の味方にはよく似合う。
後は、彼女の傍で私が見れればいいだけ。
「私、暗殺者やめてくるね」
「あっはい……って、え!?そんな簡単に辞めれるものなんですか!?」
「分からない」
普段からお金を使わない分、贅沢せずに暮らせば一生を優に暮らせるだけの資金はある。学費も二人分くらい余裕で出せる。
全ては整った……後は、私が行動に移すだけだ。
絡繰りの暗殺者は暗殺者をやめる事に致しました 気分屋 @ataokanisei
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